奇妙なお茶会②
招待された場所は、小さな庭の見える応接間だった。エヴァンが世話をしている庭園や畑などは、この小さな庭の向こう側にある。
プライベートガーデンなのだろう。華美な造りではない。花壇に植えられている菫を中心に、全体的に色味が抑えられており、小鳥の水飲み場にもなりそうな石の台座に載せられた水盤の脇には、幹の細い木が寄り添っていた。
打って変わって応接間にある大きな窓は、貴族の屋敷ならではの意匠である。ガラスは高級品であり、大きければ大きいほど、金がかかる。だから、エヴァンの国であったセファゾドールの貴族は、こぞって大きな窓を作っていた。そして、絨毯のように分厚いカーテンは、冬の寒さを凌ぐために頑丈なカーテンレールに引っ掛けられていることが常だった。
おそらく、ここはその名残の部屋。
しかし、扉口に立つポートマンに勧められた一人掛けの椅子の座面と背には、やはり色味を抑えて描かれたイチゴの実と葉、そして白い花という珍しい刺繍がなされていた。
これは、もしかしたら、ジャクリーヌが作らせたものなのかもしれない。
なぜか、そんな風にエヴァンは思った。
「ここでしばらくお待ちください。おそらく、もう来られると思います」
「承知しました」
エヴァンは折り目正しくお辞儀をするが、それが気に入らなかったのか、ポートマンが咳払いをした。
「どうぞ、お座りになってお待ちいただけますか。招待客を立たせたままだと主に叱られますから」
やはりポートマンの言葉の端々には刃物のようなものを感じてしまうエヴァンだったが、「分かりました」と素直に腰を下ろした。
しかし、同時にポートマンが同席していることが、エヴァンにとって心強いものでもある。
あの戦場以降、エヴァンはジャクリーヌを見たことがないのだ。
気配はある。確かにポートマンとヒューストン。たまに手紙でも持ってくるのだろう、使いっ走りの小僧や定期的に行商も屋敷にあるようだが、基本的な人の気配はあと一人くらいである。
その一人が、ジャクリーヌだと踏んではいるのだが……。
辺境と言え王女としての務めに、忙しいのかもしれないし、ただ単に顔も見たく相手だったのかもしれない。そして、エルバーグリーク王の言葉を脳裏に過らせる。
沙汰は娘に。
ここでの生活は居心地が良すぎるのだ。
もちろん、畑仕事に食事、衣服の面などを考えれば王子をやっていた頃よりも、質は劣っているかもしれない。しかし、囚人としての牢生活は言うまでもなく、戦場にあった頃も人間らしい生活からは程遠かった。
そう思えば、女性の身であの戦場に身を置くことの辛さは、エヴァンの考え及ぶものではないだろう。
だから、もしここで毒殺されるのであったのだとしても、妹と弟二人の命を助けてくれたことへの礼だけは伝えたいと思っていた。
死神の素顔を冥土の土産にすれば、それで本望だ。
――そう、思っていたのだ。
ほんの数分前までは。
耳に届くその金属が動く音には耳馴染みがあり過ぎた。
そして、まさかと思った。
いや、そのまさかを否定してほしかった。
なぜそうなった?
エヴァンの目の前に現れたのは桃色の鶏冠が目立つ鎧兜を身に纏う何か。
いや、何かではなくその中にはジャクリーヌが在るのだろうことは分かっている。
桃色のプルームを兜につけている者は、ジャクリーヌしか知らない。
他にいるなら、教えて欲しい。
驚くエヴァンをよそに、ジャクリーヌと思しき鎧が、当たり前のようにエヴァンに対面する椅子に、音を立てながら、ギシギシと座った。














