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【戦記企画ver.】ワルキューレ~死神と呼ばれた王女とエヴァンジルの庭  作者: 瑞月風花
戦場にて

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1/8

桃色鶏冠の王女さま

 

「赤い髪は魔女なんだよ」

 そんな声とともに、ジャクリーヌは、硬い簡易ベッドから飛び起きてしまった。

 息が荒い。

 背中には冷たい汗が流れていた。

 ゆっくりと、手を頬の傍へ持って行き、そこにある髪を触る。


 ――短い……


 大きく息を吸い込んだ後、彼女は鏡の前まで急ぎ裸足で歩いていき、今度は安堵のため息を付いた。


 ……大丈夫


 長かった髪をバッサリと切り落としたのは、ずいぶん昔のことだった。

 当時、エルバーグリーク王である父アレクサンドルが開いた貴族の集まりの日。ジャクリーヌにとっては、はじめての社交界デビューでもあった、そんな日。同年代の公女・公子と共にお喋りをしたあの日。

 珍しいジャクリーヌの桃味を帯びた金髪が話題になったのだ。おとぎ話の魔女の絵本に重ねて。


 おとぎ話に出てきた魔女は、赤い炎のような髪を持ち、国を亡ぼす厄災として描かれていた。ジャクリーヌは第三と言えど、王女としての身分を持つ。

 そんな者が国を亡ぼす『魔女』になるかもしれない髪を持つと言われた。幼い彼女は、両親に嫌われるのではないか、自分が大切な国を滅ぼしてしまうのではないかと思ったのだ。その恐ろしさから、ジャクリーヌは髪を切り落とし、魔女というものの対岸にあるだろう『剣』に打ち込むようになった。声を出すことを恐れ、必要な言葉以外を発することを自ら封じた。それらすべてが、騎士道という点で、とても都合がよかったのだ。


 今はあのおとぎ話が作り話だということも知っている。

 だけど、今もそれが恐ろしい。

 赤が怖い。


 それが、ジャクリーヌの真実なのだ。


 だから、ジャクリーヌは、ただここで剣を振るうことで己自身を守っているのだろう。


 私は魔女ではない。人に危害を加えるものではない。

 たとえ、死神の異名を授かろうとも、私は、国を守るために働く、人間なのだと。


 そして、今ジャクリーヌがいるこの場所は、隣国セファゾドールとの境目を越えた野営。

 あちらの砦はあと一つ。

 敵国の最後の砦とも言われる男――敵国の第三王子エヴァン・ファゾリナ・イル・セファゾドールの首を刎ねる、それが、今のジャクリーヌに課せられた、使命だ。


 赤には届かない桃色。


 そんな桃色の鶏冠(プルーム)が付いた鉄仮面をかぶり、彼女は戦場に立っている。


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― 新着の感想 ―
自分が大切なものを害なす存在になりたくない気持ちにすごく共感し、なぜジャクリーヌが髪を短くして、剣に走ったか、説得力がありました。 更新を楽しみにしています!
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