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御曹司なのに不採用!? ~冷徹女社長と始めるゼロからの恋と成長録~  作者: 優里


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最悪の目覚め







蓮は、隣で無防備に眠る優里を見て、全身の血が凍り付いた。


頭のなかは、アルコールが抜けたことによる激痛と、

最悪の現実に対するパニックで完全に麻痺していた。



(うそだろぉぉぉぉ!!!!!!)



蓮は、自分の体と、

優里の体を覆うバスローブに視線を走らせた。



(俺の本命、服着てない!!!ってか、俺もバスローブ一枚!これ完全にアウトだ…アウト中のアウトだろ!!)



蓮は、シーツを掴み、全身を震わせた。



彼の脳内で、昨夜のワインの泥酔と嫉妬、

そして優里のトラウマが最悪の形で結びつく。



(待てよ、この子……彼氏もいないし、遊びもしてない、超絶真面目な社長だぞ。一夜限りの関係の経験があるかどうかまでは把握できてないけど……もしかして、俺が初めての相手だったんじゃないのか!?)


(やっちまった……これ……これ、初体験だったんじゃねぇのか!? だって優里って彼氏いない歴=年齢だろ!? 遊んでる気配ゼロだったし! やっぱりもしかして俺が……初めて……!?)


その可能性が頭をよぎった瞬間、

蓮は自らの浅はかさと醜さに吐き気がした。



「最低だろ、俺……」



蓮の自己嫌悪は、泥酔した勢いで本命を奪ったという、

最悪のシナリオへと突き進んだ。


(酔った勢いで既成事実つくってやろう的な? 絶対同意するはずないし、無理やりしてるじゃねーか! 俺は優里のトラウマを理解したはずなのに、最後は力で、最低な方法を選んだのか!)




蓮の頭のなかでは、事態の収拾=責任を取るという、

御曹司としての唯一の道が閃いた。


(これはもう責任取るしかないだろ!結婚だ! 今すぐ優里を起こしてプロポーズだ!そして、永遠に優里の全てを守る!)


蓮は、「責任」という名目のもとに、

本命と結婚できるという甘い妄想に一瞬酔いしれた。


(プロポーズの言葉は……そうだ、「俺の全てを懸けて、一生幸せにする」だ!)


蓮が、優里の肩に触れようと手を伸ばした、

まさにその瞬間。


蓮の理性の最後の砦が、

より深刻な現実を突きつけた。


(いや、まてよ? 結婚とかそういうロマンチックな話の前に、無理やり手を出してたとしたら……)


蓮は、バスローブ姿の優里、泥酔した自分、

そして優里の過去のトラウマを統合し、

背筋が凍るような結論に達した。


「犯罪じゃねぇかー!!!!」


ホテルの一室に、蓮の絶叫が響き渡った。


蓮は頭を抱えたまま、

ベッドの上でぐるぐると考え込む。


(待てよ……落ち着け、星野蓮!昨夜の記憶を思い出せ!)



だが、ワインの酔いで頭のなかは真っ白。


その代わりに、ありもしない妄想が暴走を始めた。




妄想その1:同意があったバージョン


(もしかして、もしかしてだよ? 昨日の俺、意外とちゃんとしてたんじゃないのか?)


場面が頭のなかに勝手に浮かぶ。


酔った蓮と、頬を赤らめた優里。

「……今日は特別に……いいよ」

「……マジで?」

「うん……私も、蓮くんと一緒なら……」


(やべぇ……同意……!? 俺、同意を得て、しかも“特別”とか言われて、ついに夢にまで見た“本命との一夜”をゲットしちゃった……!?)


蓮の脳内、豪華な花火が打ち上がり、

ウェディングベルが鳴り響く。


指輪のケースを開く自分、

照れる優里、幸せそうに見守る両親……。


「これは……もう責任取るしかねぇ!結婚して幸せにしてやるしかねぇだろ!!!」


蓮は勝手にプロポーズモードへ突入。


(俺、ついに星野家の運命を動かした男……いや、“旦那様”か!?)




妄想その2:無理やりバージョン


(……いや待て。逆にだ。もし昨日、俺が泥酔して、優里が嫌がってたのに無理やり……?)


次の瞬間、脳内スクリーンに最悪の場面が映し出される。

泣きそうな優里、必死に「やめて!」と抵抗。


「……最低だ、俺」


顔から血の気が引いていく。


(もしそうだったら、これ……俺、人生詰んだじゃん!!強制、同意なし、犯罪確定コース!!!)


脳内で手錠をかけられる自分、

フラッシュを焚かれる記者たち、

「御曹司、強制わいせつ容疑で逮捕」


大見出しの新聞記事。


「いやあああああああ!!!!!」


両手で頭をかきむしり、

ベッドの上でのたうち回る。


(俺は優里の初めてを奪った? いや、もしかしたら傷つけただけ?待て待て待て!! 俺は愛してるから近づきたいだけだったんだよ!? でももし無理やりだったら、愛もクソもねぇじゃん!!! それってただの犯罪者じゃんかーーー!!!!)


ホテルの静かな一室に、蓮の悲鳴と呻き声がこだました。


「うわぁぁぁ!!どうしたらいいんだよぉぉ!!!」


「俺は結婚すべきなのか! それとも刑務所行きなのか!!!」


頭のなかで「祝・結婚」と

「懲役10年」が交互に点滅する。


蓮は完全に混乱の渦に飲み込まれていた。




蓮は頭を抱え、

布団の上でごろごろ転がりながら発狂していた。


「結婚か刑務所か!?俺の未来はどっちなんだーーー!!」


「優里の初めてを奪ったのか!?それとも犯罪者なのか!?俺はどうしたら――」


その時、隣で布団がかすかに動いた。


「……うるさい」


小さな声がしたかと思うと、寝返りを打った優里が、

半分寝ぼけ眼で顔をこちらに向けてきた。


「なにしてんの、朝っぱらから」


時が止まった。


(えっ……今、普通に起きた!?なんかこう……涙ながらに『責任とってよ』とか、怒鳴りつけられるとか、そういうドラマ展開じゃないの!?)


「…お、おはよう……」


声が裏返る蓮。


優里はベッドサイドの時計を確認。


「はぁ……。酔っ払いの介抱しただけで、なんで私がホテルで朝を迎えてんのよ」


「……へ?」


「昨日、宴会場でワイン一気に飲みすぎてぶっ倒れたの。みんなの前で醜態さらすよりマシだから、仕方なくここに寝かせただけ」


「…………」


「私も疲れてたし、ソファで寝るよりベッドの端っこの方が楽だから、同じ部屋で寝ただけ」


「………………」


「だから何もなかったの。安心して」


優里はさらりとそう言い放ち、髪をかき上げる。


その目はまるで「蚊の存在でも確認するような」無関心さだった。


一方の蓮は、顔面蒼白から一気に真っ赤に変化。


(な……なんだよそれ……!!俺は一晩中、プロポーズから刑務所行きまで人生フルコースを味わってたのに……!!現実は“ただ寝ただけ”!?)


「……俺の、この、激動の感情の行き場は、どこに……」


蓮はベッドの上で小さく震えながら呟いた。


優里はそんな蓮を一瞥し、淡々と告げる。


「妄想は自由だけど、現実に持ち込まないでね」


バッサリ。


蓮の心に、昨日のワインよりも強烈なアルコールが突き刺さった。


優里は、ベッドから立ち上がりながら、

蓮に何の他意もなく告げた。


「お風呂、入ったら? 昨日のワイン、残ってるでしょ」


「そ、それって……一緒に!?」


蓮は、反射的に興奮気味で優里に迫った。


彼の脳内では、「二人で疲れを癒す」という

甘美なシーンが再生されていた。


優里は、心底見下すような冷たい目で蓮を一瞥した。


「バカなの?」


その冷徹な一言に、

蓮の甘い妄想は秒速で氷点下に達した。


「……お、お先にどうぞ」


蓮は項垂れ、深い絶望と共に、

優里の指示に従うしかなかった。


優里はバスローブ姿のまま、

濡れた髪をタオルで拭きながらタブレットに視線を落とす。


その姿はどう見ても「色気ダダ漏れモード」なのに、

実際に中身は完全に「ビジネスモード」。


(くっそぉぉぉぉ!なんだよこのギャップは!?俺が今、どんだけドキドキしてるかわかってんのか!?)


蓮はベッドに深く腰掛けたまま、

こぶしをぎゅっと握りしめる。


小さなガッツポーズのはずが、

だんだん「苛立ちの握りこぶし」に変わっていく。



「ん?この表の数字、違ってない?」


「えっ!?俺に!?俺に話しかけてんの!?」


「は?表の数字って言ったんだけど」


ズドォォン!!


(違う、そうじゃねぇぇぇ!!俺が欲しかったのは“モーニング行こっか”とかそういう可愛い返事であって!表計算ソフトの確認じゃねぇぇぇ!!)


蓮の中で、妄想と現実の温度差が急激に広がっていく。


(……ちょっと待てよ。俺は“恋愛イベント”だと思ってここまで来てんのに……)


(優里の中じゃ、俺は“便利な御曹司社員”枠か!?)


胸の奥で、切なさがズシリと重くなる。


「なに?また変な顔してる」


優里が顔を上げる。


「へっ!?してねぇし!ぜんっぜんしてねぇし!!」


慌てて笑顔を取り繕う蓮。


(……俺だけ空回りしてんのか?また……俺だけ……)


優里の横顔は涼しい顔でタブレットに向かっている。


まるで蓮の心の嵐なんて、

眼中にないみたいに。


……ズキン。


胸の奥に、苛立ちと同時に、

小さな痛みが広がる。


(……俺、いつまで勘違いしてんだろ……)


蓮が胸の痛みに苛まれながら

自己反省モードに入っている間にも、

優里のビジネスモードは一切途切れなかった。


蓮が空回りと切なさでうなだれている、

わずか数分間の間に

優里は濡れていた髪の毛を完全に乾かし終えた。


蓮が顔を上げたとき、優里はもうタオルを置いていた。


髪は艶のあるストレートに戻り、完璧にセットされている。


バスローブ姿であるにもかかわらず、

その姿からは昨夜の酔っぱらいの介抱など

微塵も感じさせない、隙のない社長のオーラが完成していた。


(……え、もう!? 俺が人生の真理について考えている間に、髪、乾いたの!?)


蓮は、自分の内的な時間と、

優里の現実的なビジネスタイムとの圧倒的な速度差に愕然とした。


「なぁ…」


優里は、タブレットを手に持ちながら、

無関心な視線で蓮を見た。


「…ん?」


「俺のこと、なんだと思ってんの?」


「…えっ?」


優里は、蓮の尋常でない剣幕に、

ようやく微かに表情を曇らせた。


蓮は、ベッドから立ち上がり、優里との距離を詰めた。


「俺のこと、なんだと思ってんだって聞いてんだよ!」


「どうしたの急に。朝から荒れてるね」


優里の冷静な問いかけが、

さらに蓮の怒りを煽った。


「俺のこと、なんだと思ってんだ!?ただの便利な御曹司社員か?それとも……安心安全な“無害男”だと思ってんのかよ!」


優里の眉がわずかに動く。


だが蓮は止まらない。

止められなかった。


「俺ばっか舞い上がってバカみたいじゃねぇか!」


蓮は、過去の屈辱と現在の不安を全て優里にぶつけた。


「どうせ俺の事なんて眼中にないんだろ?だからそんな無防備な格好でいられるんだろ?男のまえだぞ?」


優里は、蓮の理不尽な八つ当たりを、

冷徹な論理で処理しようとした。


「これは、服がないから仕方なく……」


「なんだよ服がないって、昨日着てただろうが!」


「……誰のせいで」


優里の一言が、蓮の泥酔してぶっ倒れた事実を突きつける。

しかし、蓮はもはや自己責任など顧みない。


「はぁ? 俺が悪いのかよ。そもそも男と同じ部屋にいること自体おかしいだろ。軽いとしか思えねぇ!」


優里の長年のトラウマである「軽薄さ」という言葉を、

本命であるはずの蓮が、嫉妬心からぶつけてしまった。


「これはほかに部屋が空いてなくて仕方なく……」


「へぇ~、仕方なくね! 仕方なく男と同じベットで寝たんですか!そんなの普段からそうってことだろ! どうせ俺だけじゃなくてほかの男とも寝たことあんだろ? 純情ぶっちゃって、余裕こいてんじゃねーよ!」


蓮の心は、優里が自分にだけ無関心であるという

耐え難い現実から逃れるために、

優里を「遊び人」と決めつけ、

傷つけることでバランスを取ろうとしていた。


(イラつく。 俺ばっか……。なんなんだよ)


蓮の最低な感情が、優里の心に、

誰も触れることのできなかった最も深いトラウマを、

再び植え付けた瞬間だった。



蓮は優里のほほを撫でる。


「男にこんなことされてもなんとも思わないんだろ? ふだんからやられるもんな?」


この暴走した感情を抑えるには、

純粋な優里を男慣れしていると思うしかなかった。



しかし、そんな思考逃れもすぐに打ち砕かれた。

実際に慣れているのは蓮のほうなのに。


(……なにやってんだ、俺。)


胸の奥で氷を押し込まれたように冷たい自覚が広がる。


さっきまで「遊んでるに決まってる」なんて

勝手に決めつけていたのに。


(どこが遊び人なんだよ…。俺の言葉、全部嘘だ。本当は……真っ直ぐな子じゃねぇか。)


罪悪感が喉を締め上げ、蓮は動けなくなる。


それでも一度口から吐き出してしまった怒りや嫉妬は消えず、

自分の手の力をどう抜けばいいかも分からなかった。


「……っ、俺……」


声が震える。


怒鳴りたい気持ちと、

今すぐ謝りたい気持ちがせめぎ合い、

蓮は優里の顔を見つめながら立ち尽くすしかなかった。


優里の唇がかすかに動いた。

小さな声だったが、はっきりと耳に届く。


「……離して」


その一言で、

蓮の手から一気に力が抜けた。


頭を氷水でぶっかけられたような感覚。


心臓が強く跳ね、背筋に冷や汗が伝う。


「っ、ご、ごめん!」


慌てて優里から身を離し、飛び退く。


どうしていいか分からず、

ただ謝罪の言葉だけを繰り返しながら、

部屋のドアへと駆け寄った。


(やべぇ、やべぇ……俺、何してんだよ!落ち着け!今すぐ離れないと!)


震える指先でドアノブを掴み、逃げるように外へ出ようとした。


その瞬間。


……ドンッ!!!


「ぐわっ!?」


背中に突き飛ばされるような衝撃。


次の瞬間には蓮の身体は廊下に吹っ飛んでいた。


膝を打ちつけて転がりながら、必死に振り返る。


「えぇっ!どっから出てんのその力!!」


優里は無言で立っていた。


瞳には怒りの火が灯り、

容赦なくドアをバンッと閉める。


そのまま、カチャリと乾いた音が響いた。


(……鍵閉めんのはやっ!!!)


呆然と廊下に取り残された蓮。


ふと視線を感じて周囲を見渡すと、

同じ宿泊客や従業員らしき人たちがぽかんとこちらを見ていた。


小声でひそひそ話す声まで聞こえる。


(な、なんだよ……なんでそんなに見て……)


そのとき、蓮はハッとした。


視線を落とすと、自分の格好が目に飛び込んでくる。


……バスローブ一枚。


「……俺、バスローブじゃねぇか!」


周囲の目が一斉に突き刺さる。


どこかで笑い声が漏れた。

蓮は頭を抱え、絶望の声を上げる。


「俺の服ぅぅぅぅぅ!!!!」


蓮の叫びが廊下に響いた。


シーンとした空気。


周りの宿泊客たちが一斉に視線を逸らしたり、

逆に凝視したりする。



(や、やばい……完全に変態だと思われてる……!)


そこへ。


「お客様」


背後から落ち着いた声がかかる。


蓮がビクッと振り返ると、

ホテルのスタッフが二人、きっちりスーツ姿で立っていた。


表情はにこやかだが、目だけが笑っていない。


「こちら、館内は公共スペースでございますので……その、お召し物は……」


「い、いや、これは、その……!ちょっと事情があって……!」


必死に両手でバスローブの前を押さえながら弁解する蓮。


「事情は存じませんが、他のお客様のご迷惑になりますので……すぐにお部屋へお戻りいただけますか?」


「部屋……部屋に戻りたいのは山々なんですけど、あの……中に、服が……」


「服が?」


「置いてあるんです……」


スタッフが一瞬、顔を見合わせた。

そして小声で囁き合う。


(や、やめろよ!俺のこと、完全に“追い出された浮気男”とか“問題客”みたいに見てんじゃねぇか!!)


「えぇと……では、当ホテルのガウンをすぐにお持ちいたします」


「ちょ、ちょっと待ってください!俺の服は中にあるんですってば!優里が……あ、中にいる子が鍵閉めて……」


「……」


スタッフの目が一段と冷たくなる。


(やばい!説明すればするほど、俺が“部屋から追い出されたやべぇやつ”になっていく!)


周囲から再び笑い声。


蓮は顔を真っ赤にしながら、

バスローブの裾を必死に押さえた。


(くっそ……!服が!服さえあれば……!)


ドアの向こうから、カチャリと鍵の音がした。


一瞬で希望が灯る。


「おぉ!優里!助かった!やっと……」


開いたドアの隙間から、ひょいっと投げ出されたのは……


蓮の服一式。

ビニール袋にぐしゃぐしゃに詰め込まれて。


「…………」


スタッフ、宿泊客、全員が見ていた。

蓮は泣きそうな顔で服の入った袋を拾い上げた。


「やっぱり俺、終わってるぅぅぅ!!!」


蓮が頭を抱えた、その瞬間だった。


……パシャッ。


耳に嫌な電子音。


反射的に顔を上げると、

廊下の端で大学生くらいの若者がスマホを構えていた。


その後ろではカップルがクスクス笑いながら

「ヤバくない?」「バスローブで追い出されてる」と囁いている。


(おいおいおいおいおい!!!いま絶対撮ったよな!?)


蓮は慌てて走り寄る。

「お、おい!消せ!今撮ったやつ消せって!!!」


「え、いやいや!盗撮とかしてないっすよ!」

「ウソつけ!シャッター音聞こえたぞ!」


スタッフも割って入り、「お客様、落ち着いてください!」と

必死になだめるが、蓮の動揺は止まらない。


(やっべぇ……!こんなのSNSに上げられたら、“バスローブでホテル廊下うろついてる御曹司”とか“セクハラで追い出された疑惑”とか、勝手にタグ付けされるじゃねぇか!!)


「お願いだから消してくれ!!俺、マジで人生かかってんだ!!」


蓮が両手を合わせて頭を下げると、

周りの客がざわつく。


「人生かかってるって……やっぱなんかヤバいやつじゃん」

「有名人?なんか見たことある顔かも」

「これ絶対バズるって」


(やめろぉぉぉぉぉ!!!頼むからバズらないでぇぇぇ!!!)


その時。


ホテルスタッフが素早く前に出て、冷たい声で言った。


「お客様方、こちらは他のお客様のプライバシーに関わりますので、撮影は固くお断りしております」


スタッフが毅然と注意する姿に、

若者たちは「チッ」と舌打ちしてスマホを下ろす。


しかし、その後ろで「でももうSNSに上げといたし」

「ストーリー24時間残るから余裕」なんて

会話が小声で聞こえてきた。


(うわぁぁぁぁぁ!!終わった!!俺の名前、絶対どっかで晒されるぅぅぅ!!!)


蓮は袋を抱きしめ、廊下にへたり込んだ。

もう、赤っ恥どころの騒ぎじゃない。

まさに「現代の公開処刑」。


(俺の人生……昨日までは“ワンチャン優里と”とか夢見てたのに……気づいたらネットの晒し者って……なにこの落差ぁぁぁぁ!!!)




翌朝。

目覚ましより先に、スマホの通知音が鳴り止まなかった。


(んだよ……。やけにLINEが来てんな……。)


寝ぼけ眼で画面を覗き込んだ瞬間。


《ホテルでバスローブ姿の御曹司が大暴れ!?》

《星野グループ御曹司、女関係でトラブルか?》

《一般人の撮影に逆ギレ!?動画拡散中》


「はぁぁぁぁぁぁっ!?」


記事タイトルが、いくつもトレンドに並んでいる。


まとめサイトにも転載され、

SNSには動画の切り抜きが出回っていた。


【バスローブでホテルの廊下に放り出される男】

【スタッフに取り押さえられる寸前の御曹司】

【一般人に“消せ!”と土下座する姿】


コメント欄は地獄そのものだった。


《御曹司ってマジ?だっせぇwww》

《バスローブで暴れるとか完全に女絡みだろ》

《令和の公開処刑》

《ホテルの従業員に同情する》


(お、俺ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!)


蓮はベッドの上で頭を抱え、

スマホを投げそうになった。


だが通知は止まらない。


グループLINE、大学の同級生、会社の同期……。


「蓮、お前昨日なんしてたんだよwww」

「ニュースになってんぞw」

「バスローブ王子って呼んでいい?w」


(やめろおぉぉぉぉ!!!!バスローブ王子とか死ぬほどダセぇぇぇ!!!!)


そこに追い打ちをかけるように、父親からの着信。


【星野グループ本社】と表示された名前に、

蓮の血の気が引いていく。


「も、もしもし……」

『お前な……新聞社から問い合わせが来てるぞ。説明しろ』


(やっべぇぇぇぇ!!!!親父の耳にも入ったのかよぉぉぉ!!)


さらに。

会社に着くと、同僚たちの視線が一斉に突き刺さる。

クスクス笑いを堪えている者、あからさまに避ける者。


(うわぁぁぁ……もう出社した瞬間から死にたくなるやつ……!)


極めつけは、優里だった。

会議室に入った瞬間、

彼女が冷たい視線をこちらに投げてきた。


(おぉぉぉぉ……!終わった!!これ完全に終わったやつ!!!!!)


蓮は必死に会議室のドアを叩きながら叫んだ。


「優里ぃぃぃー!ちょ、ちょっと待ってくれぇぇぇ!!」


だが、ドアはバン!と力強く閉められ、

鍵まで掛けられてしまった。


(一言だけでも……交わしてぇぇぇ……)


頭のなかで、現実と妄想が入り混じる。


蓮の脳内では、昨日のバスローブ事件が

まるで恋愛ドラマのクライマックスになっていた。


「優里!お願いだ、俺の言い分だけでも聞いてくれ!」


現実のドアは固く閉ざされたまま。


蓮の妄想が勝手に暴走する。


「そ、そうだ!昨日のは全部誤解なんだ!バスローブも、酔っ払いも、俺の赤っ恥も、ぜーんぶ誤解!誤解で片付けられるんだぁぁ!!」


蓮は壁に額を押し付けながら、妄想で全身を熱くする。


(よし、次こそは……次こそは優里に誤解を解かせるんだ!そのためなら何度でも謝る!この俺の赤っ恥も、むしろ武器だ!!)


だが現実は冷たい。


ドアの向こうからは、優里の冷静な声も微塵も聞こえない。


(……くそっ、現実は何でこうなんだ!!)


蓮の妄想だけが暴走し続ける。


「いや待て!ドアが開いた瞬間、いきなりハグとか!?いやいや、まず謝るんだ!いや、でもその後……」


妄想と現実が交錯し、

蓮は壁に額を押し付けたまま荒い息を繰り返す。


誰にも止められない、

この赤っ恥御曹司の妄想劇は、

まだ序章に過ぎなかった。



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