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御曹司なのに不採用!? ~冷徹女社長と始めるゼロからの恋と成長録~  作者: 優里


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同窓会の攻防戦④







「気のせい……じゃない」


蓮はグラスをテーブルに置きながら、胸の奥でそう断言した。


優里がほんの一瞬だけ見せた陰り。


あれは錯覚なんかじゃない。


(あの顔……俺の言葉に何か引っかかったからだ。わざわざ取り繕ったってことは、触れられたくない何かがあるってことだろ)


優里は平然とした顔でスマホをいじっている。


だが蓮の目には、彼女の仕草ひとつひとつが不自然に見えた。


無理に冷静を装っているように。


蓮は身を乗り出し、低い声で切り出した。


「なぁ、優里。さっき……俺が言ったこと、そんなに嫌だったか?」


優里はスマホから視線を上げる。

目の奥を揺らさないように細心の注意を払うような冷たい瞳。


「別に。どうでもいい」


「嘘だな」


食い気味に言い返す蓮。

優里の肩がわずかに跳ねるのを、蓮は見逃さなかった。


「ほんの一瞬だけ、顔に出てた。あれは……なんなんだ?」


「……」


優里は黙り込む。


手にしていたスマホをテーブルに伏せ、

組んだ指を強く握りしめる。


その細い指先がかすかに白くなっていた。


(……やっぱりだ。俺の勘違いじゃない。優里は“何か”を隠してる。しかも、俺に悟られたくない何かを)


蓮の胸は高鳴った。


ただの嫉妬や独占欲から始まった疑念が、

今や“本当の優里を知りたい”という衝動に変わっていく。


蓮は息を飲み、さらに一歩踏み込んだ。


「優里……本当は、俺に言えないことがあるんだろ?」


「……余計なこと聞かないで」


優里は冷たい声でそう切り捨てると、

グラスを持ち上げて視線を逸らした。


その一言は、鋭い刃のように蓮の胸に突き刺さる。


(余計なこと、か……。やっぱり、俺の知らない“何か”があるんだな)


蓮が黙り込んで優里を見つめていると、

不意に背後から声がかかった。


「優里、久しぶりだな」



振り返ると、背の高い男が立っていた。


おそらく同級生だろう。


カジュアルなジャケットに気取った笑顔を浮かべ、

当然のように優里へ歩み寄ってくる。


(なんだ、また新しいジャガイモか!しかも、手を引こうとしてるぞ!)


蓮は、優里の周りを群がる男たちを見て、心のなかで叫んだ。


(おいおいおい、どれだけモテてたんだよ!「モテなかった」だと?そんなこと言ってる間に、過去の男どもが、俺の知らない優里を連れ去ろうとしてるじゃねぇか!)




蓮の嫉妬は、

優里の言葉とは裏腹の現実のモテっぷりによって、

ますます燃え盛る。




「元気してた? 相変わらず綺麗になったな」


優里はわずかに肩を強張らせ、視線を伏せた。


口元に笑みを浮かべはするが、

その笑みはどこか不自然で、形だけのもの。


「……うん。久しぶり」


(な、なんだこの態度!?)


蓮の頭に赤いランプが点滅する。


普段なら誰に対しても一定の距離感で、クールに振る舞う優里。


それなのに今、この男に対してだけは

“明らかによそよそしい”。


そして、ほんの一瞬、悲しそうな表情を見せた。


(こ、こいつ……まさか……元カレ!?)


蓮の脳内に稲妻が走る。


心臓がドクンと跳ね上がり、

胸の奥から焦燥が込み上げてくる。


(いや、でも待てよ……優里、自分で言ってたよな。彼氏いたことないって。……じゃあ……じゃあなんだよ! まさか、一夜限りの関係!?)


突如として妄想ワールドに飛び込む蓮。



制服姿の優里が、

文化祭の打ち上げ帰りに勢いでこの男と二人きり。


「送っていくよ」とか言われて、

部屋に上がり込まれて……。



(だ、ダメだ優里! お前はそんな軽い女じゃない! けど……けど、もし一夜だけの関係を持ってたら……!?)


脳内では、知らない男の部屋で、

ベッドに腰掛けた制服姿の優里が

不安そうに視線を逸らすシーンが再生されていた。


そしてその隣にいるのは、よりによって目の前の“この男”。


(うわあああああ!! 無理無理無理無理! やめろ俺の想像力!!)


額に浮かぶ汗。

指先は落ち着きなくテーブルを叩く。


だが表向きは必死に冷静を装い、

氷のような顔を保とうとする。


「……優里、その人は?」


そう言いかける声が、ほんの少し震えていた。


蓮は、優里と男の様子から一瞬も目が離せない。


彼が今すぐ知りたいのは、

この男が優里の過去の物語において、

「どれほど深い傷跡」を

残したのかということだけだった。



優里と、彼女の過去を知るらしい男との間に流れる

よそよそしくも悲しげな空気。


その異変を察知した蓮の心は、

すでに嫉妬全開の修羅場モードで煮えたぎっていた。



この男こそが、優里の「モテなかった」という嘘を暴き、

彼女の心の傷跡を残した張本人だと確信したからだ。


ただの挨拶。


それ以上でも以下でもない。


……はずなのに。


(なんだその馴れ馴れしさは!?“優里”呼び捨て!? 俺ですらいまだに敬語まじりだぞ!?)


(最近、ほんとここ最近、ため口で話してくれるようになったんだぞ!)


(しかも、さっきの優里の反応が妙だった! 普段なら相手の話にきちんと笑顔で返すのに、その男に対しては、どこかよそよそしく、硬い表情だし。時折、悲しそうな目をしているようにも見える。)


(な、なんだ?なんでそんな顔するんだよ優里……。こいつ、絶対ただの同級生じゃねぇ!)



脳内妄想、フルスロットル。



頭のなかで「高校時代の優里 in 制服」と

「チャラそうな元同級生」が

セットになったイメージ映像が上映され、勝手に修羅場モード。



(あり得ねぇ……いや、でも優里だぞ?放っておかれるはずがねぇ!同級生の男どもは絶対群がってたに決まってる!)



蓮は嫉妬にかられて、つい口を開く。


「へぇ~、同級生なんだ?優里の……高校の?」


「え?あ、うん。そうだけど?」


男が軽く笑いながら答える。


蓮は表面上はにこやかに、

しかし声にはうっすら敵意を滲ませる。


「なるほど。じゃあ、昔から仲良かったんですね?」


「まあ、そこそこ?」


男は余裕の笑み。


(そこそこって何だよ!“そこそこ”って言葉にどれだけ含みがあるか分かってんのか!?)


すると隣から、ジトッとした優里の視線。


「……蓮、なに探り入れてんの」


「い、いや、別に!ただの会話だって!」


慌てて笑ってみせるが、完全に空回り。


優里の視線は冷えきっている。


やがて優里は

「ちょっと飲み物取ってくる」と言って、

その場を離れた。



(……よし、チャンス到来!)



優里がいなくなるや否や、

蓮はぐいっと身を乗り出し、男に低い声で囁いた。



「なぁ……優里とどういう関係なんだ?」


男は少し驚いた顔をしたが、

すぐに口角を上げて薄笑いを浮かべる。


「どういう関係、ねぇ。……それ、知りたい?」


「っ……!」


挑発的な声音。

蓮の心拍数はMAX。


「まあ、同級生だし。それ以上でも以下でもないよ」


男はわざとらしく肩をすくめる。


だが続けざまに、さらっと言葉を刺してきた。


「でもさ、俺は“高校の優里”を知ってる。君は知らないだろ?」


「……!」


痛恨の一撃。


(ぐ、ぐぬぬ……そうだよ!俺は知らねぇよ!けどだからって……だからってマウント取ってんじゃねぇ!!)


必死に取り繕いながら、蓮は負けじと口を開いた。


「知らなくてもいい。今、隣にいるのは俺だ。過去なんて関係ねぇ」


「へぇ?」


男は面白そうに蓮を値踏みするような目をして笑った。


「じゃあ、その“今の優里”が君を選ぶといいね」


「優里の制服姿も、あんたは見たことがない。あんたが手に入れたのは、傷ついた今の優里だけだ。」


「優里の過去を何も知らないあんたに、優里の全てを理解するなんて、無理な話だ。せいぜい、今の優里を頑張って支えてやれよ」


挑発的な余裕の一言。


蓮の嫉妬の炎はさらに燃え上がるのだった。



蓮の嫉妬心は収まらなかった。


(俺だって、“今の優里”を一番近くで知ってるんだ!証明してやる!!)


蓮は優里の横で、何気ない素振りを見せる。


「……あ」


わざとらしくスマホを落とした。


すかさず拾おうと前屈みになり、

タイミングを合わせて優里と手が触れる。


「ほら」


優里が先に拾って差し出してきた。


「あ、ありがと……」


(よし!これはもう青春ラブコメの王道“手が触れてドキッ”イベント……!)


しかし優里は冷静。


「……蓮ってほんと不器用だよね。高校のときも絶対モテなかったでしょ」


「なっ……!?」


(ちがう!!めちゃくちゃ遊んでたわ!!!)


蓮は内心で大反論しながらも、

口には出せず、顔をひきつらせて笑うだけだった。



そのとき、背後から声がかかった。


「優里!」


「やっぱりさっきはゆっくり話せなかったな。今からちょっとだけ、二人で」


(で、でたぁぁぁぁあ!!!また“昔の優里”マウント狙いの男!!!)


蓮は即座に割り込んだ。


「悪いけど、優里はもう帰るんで!」


「え?いや、ちょっとくらい……」


「ダメです!」


男は挑発的な笑みを浮かべる。


「相変わらず優里のこと、守ろうとする奴がいるんだな。昔からそういうの、多かったよ」


(ッッッ!!!!)


蓮の心臓は破裂寸前。


(昔から!?なんだよ“多かった”って!高校時代からチヤホヤされてたってことかよ!?そりゃそうだよな、優里可愛いもんな……っていやいや、嘘だろ!?優里本人は“全然モテなかった”とか言ってたのに!!)


男はわざと蓮の方を見て、意味ありげに口角を上げる。


「知らないんだろうな、君は」


蓮はギリギリの笑顔で返す。


「へぇ~……でも、俺は“今の優里”を知ってるんで」


(言ってやったぞ、このやろう!!)


だが男は涼しい顔。


「“今”なんて誰でも知れる。大事なのは“昔”を共有してるかどうかだろ?」


(うおおおおおお!!!マウント返しきやがったぁぁぁ!!!!!)


そのやり取りを黙って聞いていた優里が、突然声を上げた。


「……もういい。蓮、行くよ」


その横顔は、

ほんの一瞬だけ、悲しそうだった。

まるで“思い出したくない記憶”を押し殺すように。


蓮は違和感を覚える。


(……気のせいじゃない。優里、あの男にだけ態度が違う。笑ってない。声も硬い。なんだ……?なんで悲しそうなんだ……?)


歩き出す優里の後ろ姿を見ながら、

蓮は心のなかでギリギリまで焦っていた。


(俺は……俺は、優里の“今”も“昔”も全部知りたい。……なのに、なんで俺だけは弾かれてるみたいなんだよ……!)



嫉妬心にまみれた蓮の妄想は止まらない。


(やっぱり元カレなのか!?それとも……ただの男友達?でも優里の顔、普通じゃなかった……。まさか、アイツに傷つけられたことがあるんじゃ……?)


優里の秘密に触れそうで触れられない。


蓮の胸は、恋と嫉妬と焦燥で

ぐちゃぐちゃにかき乱されていった。


「…なぁ、あいつと、なんかあったの?」


「余計なこときかないで」


一瞬で切り捨てられた感覚。


(うぐっ……!ちょっと聞いただけなのに、なんでそんな冷たくするんだよ……)


けれど、その言葉の裏に隠れた影を、蓮は見逃さなかった。


(やっぱりあの男……優里にとって何かあるんだ……!)


蓮の思考はジェットコースター状態。


頭のなかでは勝手に

“優里と元同級生のあやしい関係”シーンが再生される。




夕暮れの教室。制服姿の優里。


「ねぇ、内緒だよ?」


頬を赤らめて笑う優里と、それをにやにや見つめる男。


(うわああああああ!!!やめろ俺の脳内!!)


「蓮?」


隣で歩く優里が小さく首をかしげた。


「な、なんでもないっ!」


慌てて答えるが、内心はもうパニック。


(俺は御曹司だぞ!?女遊びだってしてきた!なのに、優里の過去に関してだけは完全に情報弱者!こんなの耐えられるかよ!)


(……よし。考え方を変えよう。もし高校時代に、俺と優里が出会ってたら……)


蓮の妄想スイッチが全開になる。


舞台は、高校の教室。


窓から夕陽が差し込む。

机に突っ伏して居眠りする一年生の優里。

そこへ、三年生の俺が通りかかる。


「おい、授業中に寝るなよ」


少し乱暴に肩をつつく俺。


「……先輩こそ、サボってるじゃないですか」


寝ぼけ眼で見上げてくる優里。

上目遣い。制服のリボンが少し曲がっている。


(やばい……やばい……!この時点でもう俺は落ちてる!!)


さらに妄想は続く。


放課後、雨が降って傘を忘れた優里に、

さりげなく自分の傘を差し出す俺。


「一緒に帰るぞ」


「えっ……でも」


「俺が濡れればいい」


(うわああああ!!カッコよすぎ俺!!青春ラブコメの王道主人公じゃねぇか!!!)


「……蓮、顔真っ赤だけど熱でもあるの?」


怪訝そうに覗き込んでくる優里。


「な、なんでもないっ!!!」


蓮は慌てて首を振る。


(違う!!熱じゃない!!ただただ妄想が暴走してるだけ!!!でも絶対言えねぇ!!)


心臓がバクバク鳴り止まない。


(……でもやっぱり、もし高校で出会ってても俺は絶対に優里を好きになってた。これは確信だ……!!)


その気持ちが妄想だけじゃなく、

現実の優里に向けて燃え上がっていくのを、

蓮自身が一番感じていた。



優里はそんな蓮を横目で見ながら、ふっと口元をゆるめた。


「……でもさ」


「?」


「わざわざ有給取ってまで来てくれたんでしょ。ありがと」


その一言が、蓮の脳を直撃した。


(あ、あ、ありがとって言ったぁぁぁぁぁ!!!!!)


体温が一気に急上昇。


心臓はドラムロール状態。


(なんだこの破壊力……!有給ぶんどってきて正解すぎた……!)


蓮は崩れ落ちそうになりながら、必死で平静を装う。


「い、いや……別に……俺が勝手に来たかっただけだし……」


その瞬間、場の空気を切り裂く声がした。


「優里、ちょっといい?」


振り返れば、例の同級生の男が立っていた。


さっきからやけに優里にだけ馴れ馴れしい態度を取る奴だ。


「……なに?」


優里はどこか緊張を滲ませた声で答える。


「やっぱり少し、話せないかな」


蓮の眉がピクリと動いた。


(おいおい、なんだその距離感!同窓会で“ちょっと話そう”って、それもう完全に過去の関係フラグじゃねーか!!)


「……」


蓮はぐっと優里の肩に手を伸ばしかけたが、

ギリギリでこらえる。


「いや、優里は今忙しいから」


冷静を装った声で割って入る。




「別にいいよ。ちょっとだけなら」


優里はあっさりと蓮の制止を振り切って、

男について行ってしまった。


取り残された蓮の脳内は修羅場モードに突入していた。


(な、なんで行くんだよ!!俺と有給同伴してたんじゃないのかよ!? しかも“ちょっと話す”って……絶対そのあとホテル直行コースだろ!?!!?)


妄想は瞬時に膨らみ、暴走を始める。



ホテルのロビーに入る優里と男。


「久しぶりだね」


「うん……」


優里はどこか寂しそうな笑みを浮かべる。


(おい!!!俺の妄想世界でホテルに行くな!!優里はそんなキャラじゃないだろ!!!いやでも、妙に態度が違ったし……もしかしなくても、本当に!?!?)


蓮は頭を抱え、ぐるぐる回る妄想地獄に飲み込まれていった。


蓮はその場に立ち尽くしていた。


優里が同級生の男に連れられて、

「じゃあね」と手を軽く振って消えていく姿が、

まるでスローモーションのように目に焼きついて離れない。


(……は? どこ行くんだよ。いや、これ絶対、絶対ホテル行く流れじゃん!!)


頭の中で赤い警報ランプが回る。


脳内ナレーションは最悪なシナリオしか流さない。


(おい待て、俺は知ってるぞ。今の優里は「いやそんなことしない」ってタイプだって。でもな、でもな……もし相手が昔から知ってる男で、気心知れてて、「少し話そう」からの「昔みたいに」みたいな雰囲気になったら……え、なにその展開、やめろ俺の想像力!)


嫉妬と焦燥で胃がキリキリ痛む。


心のどこかで、結局「昔の優里を知ってる男」っていう一点だけで、

自分が負けている気がして仕方ない。


蓮は、優里の「モテなかった」という言葉が、

どれほどの大嘘であったかを、全身で痛感させられた。


(優里は、めっちゃモテるんだな、今も、昔も……)


自分の過去の軽薄さまで頭をよぎる。


「遊んでた」頃の自分と、「真っ直ぐにモテてきた」優里。


比べてしまうと、どうしても差が見えてしまう。


自分の「不器用」なアプローチと、

優里の「自然な魅力」との間に横たわる、

埋めがたいほどの差を突きつけられ、蓮は深い絶望に包まれた。








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