表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御曹司なのに不採用!? ~冷徹女社長と始めるゼロからの恋と成長録~  作者: 優里


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/60

同窓会の攻防戦②









間接キスの余韻に溺れ、

蓮は会場の隅で一人、

膝を抱えて頭を抱えていた。


ポッキーの甘さと、優里の冷たい視線、

そして微かな間接キスの感触が、

脳内で無限ループしている。


(くそっ、何やってんだ俺は!ただのキザなパニック野郎じゃないか!優里に格好いいところを、真剣な想いを伝えるって決めたのに!)


蓮は、優里の視線から逃げるように

顔を伏せていたが、

強く拳を握りしめ、深呼吸をひとつ。


ここで逃げたら、また妄想だけで終わってしまう。


優里の同窓会はまだ続いている。


他の「ジャガイモ」たちが優里を狙っている間に、

やるべきことは一つだ。


意を決して立ち上がり、

蓮は再び優里のもとへ向かう。


優里は蓮が先ほど逃げ出した場所に、

相変わらず冷静な顔で立っていた。


蓮は優里に少しだけ近づく。


優里が動かないのをいいことに、

その距離はわずか30センチほどに縮まった。


空気が熱い。


蓮の胸の鼓動は激しくなり、

まるで耳元でドンドンと鳴り響いているようだ。


「…あ、あの……その、ちょっと、話してもいい?」


蓮は喉の奥が乾き、

声が掠れるのを自覚する。


優里は片手でグラスを持ち、

目を細めて蓮を見上げる。


「…なに、また何かやらかすつもり?今度は何を盗み飲みするの?」


冷たい冗談に、蓮は思わずたじろいだ。


「そ、そうじゃない!…ただ、俺、ちゃんと…言いたいことがあって。」


蓮の声は微かに震えていた。


優里の顔が、

照明の加減でいつもより近く、

その呼吸の音まで届きそうだ。


蓮の心のなかでは、頭が真っ白になり、

いくつもの妄想が一斉に飛び交う。


(この距離で、彼女を抱きしめたらどうなるだろう?)


(いや、まずは真剣な顔を…!)


優里は蓮の動揺を隠さない様子を、

無表情を装いつつも、

目の端で楽しむように見ていた。


この男が、自分のために必死になっていることが、

優里の過去の傷に少しずつ効いていることに、

まだ優里は気づいていない。


「…ふーん。なら、早く言って。ここ、同窓会なんだけど。」


「俺は…!」


蓮は思わず言葉を詰まらせたが、

胸に強く決意を抱く。


今ここで言えなければ、一生後悔する。


(どんなにドキドキしても、絶対に逃げない。)


この瞬間の優里の冷たい目線と、

微かに見える笑みのギャップに翻弄されつつ、

蓮は腹の底から絞り出すように、

ゆっくりと口を開く。


「…優里が、俺のそばにいてくれるだけで、俺はもう、十分だって気づいた。会社を取り戻すとか、父さんに認められるとか、そんなことより、優里が笑っていてくれる場所が、俺の居場所なんだ」


蓮は優里の会社の株を

手放すという選択肢が頭にあるからこそ、

「いるだけで十分」という本質的な言葉を伝えた。


「だから、俺、これからも…ずっと支えたい。優里の笑顔を守るためなら、俺は何もいらない」


優里は一瞬眉をひそめたが、

その言葉の重みに、すぐに小さく息を吐く。


「…ほんと、めんどくさい人。」


その声は冷たさを保ってはいたものの、

どこか諦めと、微かな安堵を含んでいた。


蓮は優里の真意を測りかねながらも、

「めんどくさい」という

言葉の裏に隠された優しさを感じ取り、

さらに赤面する。


彼の心の奥底では、

天にも昇るような幸福を感じていた。


(やった!この距離で…めんどくさいって言われたけど、逃げなかった!俺、一歩前進だ!)


物理的な距離は近いのに、

心の距離はまだまだ足りない。


蓮は優里の冷たい視線を受け止めながら、

もっと彼女の心の深い部分に触れたいと、

強く思わずにはいられなかった。


蓮が真剣な想いを伝えた直後、

優里は蓮の顔をじっと見つめていたが、

すぐに表情を戻し、

背後から自分を呼ぶ同級生の女性に視線を移した。


「ごめんなさい、呼ばれた。疲れたでしょう?もう、帰っていいよ?」


その一言は、

蓮の心を再び氷点下に突き落とした。


せっかく勇気を出して伝えた本気の言葉も、

彼女にとっては

「もう終わった用事」でしかない。


優里は、蓮の返事を聞く間もなく、

優雅な足取りで

人ごみのなかへと消えていった。


「えっ……帰っていいって……」


蓮は、30センチの距離で感じた

優里の温もりと、

突き放すような

冷たい言葉のギャップに打ちのめされ、

その場に立ち尽くす。


まるで、最高のクライマックスを迎えた直後に、

リモコンで電源を切られたような虚脱感だった。


優里が人目を引く同窓生たちと

楽しそうに笑っているのを遠目に眺めながら、

蓮は手持ち無沙汰になっていた。


誰も蓮に話しかけてこないわけではない。


御曹司という肩書や容姿に

興味を示す女性たちはいたが、

蓮の視線が常に優里を追っているのを見て、

すぐに諦めていた。


(くそっ、何だよこれ……俺は優里の何なんだよ。邪魔者か?それとも、ただの監視役か?)


孤独感に苛まれ、

グラスのお茶を飲み干したその時、

一人の女性が蓮の隣に音もなく立っていた。


先ほど、優里に

「優里、すごい綺麗になったね」と声をかけていた、

派手なアクセサリーを身に着けた

同級生の女性だった。


彼女は優里とは対照的な、

開放的で自信に満ちた笑みを蓮に向けていた。


「ねぇ、つまんないでしょ?」


彼女は蓮の耳元に顔を寄せ、密やかに囁いた。


「あなたが、あんな地味な優里に夢中なのは知ってるわ。でも、正直、優里じゃ物足りないでしょ?」


女性は、優里が着用していた

「穴ゼロ服」を蔑むような目で一瞥し、

口元を歪ませる。


「だって、あの子、昔からジャガイモみたいなんだもの。自分を飾ることも、男を楽しませることもできない。社長の椅子ってブランドが無くなったら、あとは何もない」


女性はさらに挑発的に身を乗り出した。


その香水の匂いが、蓮の理性を揺さぶる。


「私なら、もっと楽しい世界を見せてあげられる。御曹司のあなたが、こんなお堅い地味な女に夢中になっているなんて、勿体ないじゃない」


女性は蓮の腕に、

自分の熱い指先をそっと絡ませた。


「ねぇ、私にしない? 優里のことは忘れて。ほら、ここから抜け出して、最高の夜を過ごしましょうよ。あなたの情熱、私が受け止めてあげるわ」


その囁きは、

かつての蓮が求めていた「遊び」への、

甘く危険な誘惑だった。


彼の心のなかで、昔の享楽的な自分と、

優里に献身する今の自分が、激しく衝突を始めた。


蓮は、絡められた熱い指先と、

遠くで優雅に微笑む優里の姿を交互に見つめた。



蓮は、自分の腕に絡められた女性の熱い指先と、

耳元で囁かれる甘く危険な言葉に、

一瞬だけ昔の血が騒ぐのを感じた。


しかし、それは刹那の反応だった。


彼の視線は、誘惑する女性ではなく、

その女性の背後の遠くで、

冷静に同級生たちと会話を交わす

優里の横顔に向いていた。


そして、蓮の頭のなかで、

かつての「遊び人」としての知識と経験が、

警鐘を鳴らし始める。


(こいつ……優里に勝てない劣等感で俺に近づいてきてるだけだ)


女の目は、媚びているようでいて、

どこか挑戦的で、

確かに自分を試すような視線を向けていた。


だが、蓮の頭のなかは

甘い誘惑の言葉に騙されることもなく

即座に整理された。


(俺は女遊びの数なら誰にも負けない。長い間、遊んできた経験で分かる。)


(この女が抱いているのは、優里への劣等感、嫉妬、自己顕示欲、承認欲求。つまり、俺に勝てるものなんてほとんどない。)


(優里は違う。俺がどんなに女遊びしても、優里にはかなわない。そう思い知らされる相手だ。)


蓮は女遊びをしてきた。


その「遊びの数」なら、

優里への献身でいっぱいの今の自分でも、

圧倒的にこの場にいる誰よりも上だと自負できた。


だからこそ、女性が発する「サイン」を、

瞬時に読み取ることができた。


「優里じゃつまらない」


「私ならもっと楽しい世界を見せてあげる」


その言葉の裏側にあるのは、

蓮への好意や魅力ではない。


「劣等感」だ。


優里の社長という肩書き、

あるいは地味でも光を放つ存在感に対し、

この女性は敵意と嫉妬を隠せない。


だからこそ、優里が財閥企業の

「御曹司」である蓮の心を掴んだという事実を、

自分が上書きしようと必死になっている。




「嫉妬」だ。

優里が蓮という「御曹司」の

献身的な愛情を受けていることへの、剥き出しの憎悪。


優里を「ジャガイモ」と蔑む言葉自体が、

彼女自身の心の貧しさの表れだった。


「自己顕示欲と承認欲求」だ。

蓮を誘惑し、優里から奪い取ることで、

「私こそが星野蓮にふさわしい」と周囲に認めさせたい。


優里の「会社を救った」という物語に対し、

自分が「御曹司を堕落させた」という、

別の物語の主人公になりたがっている。


蓮は、女性に絡められた腕を、

まるで汚らわしいものに触れたかのように、

すっと引き抜いた。


その手の冷たさに、

女性は一瞬戸惑いの表情を浮かべる。


蓮の表情は、先ほどの優里に

デレデレしていた時とは別人のように冷徹だった。


「ごめん。あんたが抱えてるその劣等感と嫉妬を、俺にぶつけられても困る」


蓮は、過去に散々女性たちの承認欲求を

満たしてきていたからこそ、

その虚栄心を誰よりも深く理解していた。


今の蓮にとって、

それは優里の隣で感じた真の愛情とは、

比較にもならないほど軽薄なものだった。


「俺はもう、誰かの自己顕示欲を満たすための道具じゃない。俺が夢中になってるのは、誰かを蔑んだりしない、本気で生きてる女だけだ」


蓮はそう言い放つと、

誘惑の囁きに背を向け、

迷いなく優里の姿を追って

人混みのなかへと歩き出した。


彼の心には、かつての遊び人としての経験が、

優里への愛の真実性を確固たるものとして

証明してくれたという、確信だけが残っていた。


先ほどの女性の誘惑を

冷徹に切り捨てた蓮だったが、

彼の周りから女性が去ることはなかった。


それどころか、彼の冷たい態度が、

かえって「手に入らない男」としての魅力を

増幅させてしまったようだ。


蓮の周りには、

好奇心と承認欲求に満ちた女性たちが、

次から次へと声をかけてきた。


蓮はうんざりしながらも、

その視線は常に、

会場の奥にいる優里を捉えていた。


優里は、高校時代の同級生らしき

体格の良い男と話していた。


男は親しげに優里の肩を叩き、

やがて優里の腰のあたりにまで手を伸ばそうとする。


優里は嫌がっているようには見えなかったが、

蓮の目には、その仕草が許しがたいものとして映った。


(なんだあの男!どこ触ってんだよ!俺の優里に、馴れ馴れしく触るな!)


蓮の胸の奥で、激しい嫉妬の炎が燃え上がる。


優里の周りを取り囲むすべての男が、

蓮にとっては排除すべき敵に見えた。


すぐにでも優里のもとに駆け寄り、

その男を突き飛ばしたい衝動に駆られたが、

優里に「めんどくさい」と一蹴されるのが怖くて、

その場から動けない。


そんな蓮の葛藤をよそに、

女性たちの誘惑の包囲網は狭まっていた。


「ねぇ、星野さん。優里さんって真面目すぎてつまらないでしょう?ほら、私と一緒にお酒飲もうよ」


「そうだよ、優里なんて放っておいて、私を見て。私なら、あなたが望むことを何でもしてあげるのに」


女性たちは、

まるで獲物を囲むように蓮を取り囲み、

彼の気を引こうと必死だった。


優里が蓮に言わないような、

甘く、媚びるような言葉を次々と浴びせてくる。


蓮は思わず心のなかで呟いた。


(優里が言わないセリフランキング、わりと上位だぞ、それ!)


優里は「めんどくさい」

「帰っていいよ」と言うことはあっても、

「あなたが望むことを何でもしてあげる」などという、

依存的で自己評価の低い言葉は絶対に言わない。


優里が口にするのは、

常に「対等な関係」を求める、

厳しくも誠実な言葉ばかりだ。


そのギャップが、

蓮の優里への愛情を揺るぎないものにした。


彼女たちの安易な誘惑は、

優里の持つ凛とした強さの前では、

あまりに軽薄で空虚だった。


蓮は、自分を囲む女性たちを冷静に見渡した。


彼女たちは確かに華やかで、

蓮が過去に求めていた

「御曹司に似合う女」のイメージに近かった。


しかし、今の蓮が求めているものは、

彼女たちが提供できる表面的な魅力とは全く違っていた。


「あのさ」


蓮は、女性たちの間から一歩踏み出し、

低い声で言った。


その声には、優里への嫉妬からくる焦燥感と、

自分の決意を証明しようとする強い意志が混ざっていた。


「あんたたちは、俺が『自分に似合う女』を連れて歩くために、俺を誘惑してるんだろ」


女性たちが戸惑うなか、

蓮は優里のいる方向を指さす。


「俺は、もうそんなくだらないプライドのために生きてない」


蓮は、目を閉じ、

そして優里をまっすぐ見つめるように、

しっかりと前を向いて言い切った。


「俺は、自分に似合う女を立たせたいんじゃなくて、俺が優里の隣に立ちたいんです」


優里の隣に立つことは、

星野グループの御曹司という肩書きでも、

札束でもできない。


優里の社長としての実力と、彼女の生き様に、

一人の男として対等に並び立つこと。


それが、今の蓮にとっての最大の目標であり、

優里への最高の献身だった。


その言葉は、女性たちを沈黙させた。


彼女たちが提供できる「自己満足」の誘惑は、

蓮の真剣な覚悟の前では、もはや無力だった。


蓮は女性たちに背を向け、

優里のいる方向へ向かって、

静かに一歩を踏み出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ