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御曹司なのに不採用!? ~冷徹女社長と始めるゼロからの恋と成長録~  作者: 優里


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御曹司の勘違い





2人が並んでデパートのフロアを歩いていると、

ふと背後から聞き慣れない声がした。


派手なアクセサリーを身に着けた

競合他社の奥様が、

冷ややかな目つきでこちらを見ていた。


「あらまあ……あなた、まだ二十代前半でしょ?それなのに荷物持ちまで同行させて……どういうことなの? そんなことして、後先が心配だわ」


その視線は、

優里を見下すように値踏みしている。


「若いのに荷物持ちを連れ歩くなんて……親の顔が見てみたいわね」


……カチン。


その言葉に、蓮のこめかみがピクリと動いた。


(なにぃ!? 俺が荷物持ちだと!? いや、まあ持ってるけど! 違う! 俺は御曹司で、星野蓮だぞ! ……っていうか、それよりも……)


目の前で優里が侮辱されている。


それが、どうにも許せなかった。


「……失礼ですが」


珍しく低い声で口を開いた。


優里が「いいから黙って」と袖を引くが、

蓮は止まらない。


「この人は、僕が心から尊敬している方です。誰よりも努力して、誰よりも結果を出している人なんです。荷物を持つくらい、なんだっていうんですか」


奥様が一瞬言葉を失う。


周りにいた通行人も

「え、彼氏?」「イケメンすぎ」とざわつき始めた。


(よし! 俺、格好いいこと言った! 今のは完璧だ! 絶対惚れ直しただろ優里!)




奥様が去ったあとも、

蓮はまだ怒りが収まらずブツブツ。


「俺は……御曹司だぞ!? 御曹司って肩書きがありながら、荷物持ち扱い!? 星野グループの次期社長候補だぞ!? それが……それが……」


「……ただの荷物持ちって!!」


近くの通行人がチラッと見て、

クスクス笑う。


優里は眉間に手を当てて

「また始まった」と呆れ顔。


「しかもだ! 御曹司たるもの、こう、颯爽とエスコートして、『星野グループの次男坊です、どうも』って言えば……普通は“まあ素敵”ってなるんだよ! 荷物持ちって! コンビニバイトの大学生じゃあるまいし!!」


「……声、でかい」


「あっ、すまん……いや、でも、聞いた!? 聞いてたよな!? あの奥様、俺を“荷物持ち”って! 俺は優里の荷物なら世界中のでも持つけどさ! でもさ!! 御曹司だぞ!?」


両手に紙袋を掲げて強調する蓮。


「……はいはい、御曹司、御曹司」


「棒読みやめろ!? 俺は今プライドがズタズタなんだぞ!? せめて真剣に聞いてくれ!!」


蓮は優里が小さく笑ったのを見て、

心のなかで拳を握る。


(……見たか!? 今の笑顔! 間違いない、俺が御曹司論を叫んだから……いや、違う。俺が荷物を両手に掲げたから! それで笑ったんだ! つまり俺発の笑顔! 世界初公開! 俺のための笑顔だぁぁ!!)


ドヤ顔で紙袋を揺らしながら歩く蓮。


しかし、エスカレーターを降りて

人がまばらになったところで

優里がふっと足を止めて、静かに呟いた。



「……ごめん」


「えっ?」


優里は蓮の手から荷物を取ろうとする。


「持たせすぎたね。全部任せっきりで……ほんとは、私がやるべきなのに」


その顔は、いつもの勝気さとは違い、

少し影を落としている。


気丈に見える彼女が、

ほんの一言でこんなに自分を責めてしまう。


(……優里……。強そうなのに、繊細すぎるくらい繊細じゃねえか)


紙袋を持つ手をぎゅっと握りしめながら、

蓮は決意する。


「よ、よしっ! だったらお詫びに“御曹司しりとり”やろう!」


「……なにそれ」


「俺が御曹司っぽい言葉を言う! 次は優里が答える! はい、“ごうかく(豪邸に住んでる)”!」


「……“く”。“くだらない”」


「ちょ!? 一撃目からそれ!?」


思わず荷物がガサッと揺れる。


優里は小さく吹き出して、肩を震わせた。


「……ほんと、めんどくさい」


でも、その口元には

さっきより柔らかな笑みが浮かんでいる。


(……よしっ! 作戦成功! 笑った! 笑ったぞ!!)



優里はしりとりを途中で切り上げて、

荷物を持とうとしないまま、

ほんの小さな声で呟いた。


「……でも、ありがと」


その一言に、蓮は硬直。

脳内に鐘の音が鳴り響き、

天使がホルンを吹き始めた。


(い、今……今、“ありがと”って言った!? え? 幻聴? 違う! 優里の生声だ! 直球の“ありがと”だぁぁ!!)


顔を真っ赤にして、

荷物を抱えたままガクガク震える。


「や、やば……天に召される……いや、むしろ俺、もう昇天してる……?」


「……なにブツブツ言ってんの」


(優里に“ありがと”言われた俺=世界一の幸せ者。いや、世界幸福度ランキング一位! GDP換算したら日本救える!)


蓮は思わず片膝を

床につきそうな勢いで袋を掲げた。


「お、おう! 荷物くらい何百でも持つから! 俺、優里のためなら! 地球のマントルからダイヤ引っこ抜いてでも……!」


「そこまではいらないから」


淡々と突っ込まれて、

蓮は更に震える。


(落ち着け俺! でもこの笑顔と“ありがと”で心臓バクバク止まらん! これが……これが恋ってやつかぁぁぁ!!)


(っしゃあぁぁぁ! 優里から“ありがと”ゲットォォ! これ、一生の宝物! 国宝! 文化財登録!)


隣で優里は呆れ顔。


「……ほんとに大げさすぎ」


そんなやり取りを見ていたのは、

同じ店に偶然居合わせた優里の会社の社員たち。


少し離れた場所から、

買い物袋を抱えてひそひそ声を交わしていた。


「……ねぇ、あれって、やっぱり星野さんだよね?」


「うん。社長の荷物全部持って……あのデレデレ顔。完全に恋人モードじゃん」


「まただよ。“社長溺愛されてる”説、やっぱり本当だったんだ」


社員たちの視線に気づいた蓮は、

ビクッと肩を跳ね上げる。


「ち、ちがっ……これは、その……! 俺が自主的に! 俺の勝手な奉仕活動で……!」


「はいはい、奉仕ねぇ。もう顔に“愛してます”って書いてあるけど」


「うらやましいなぁ……。社長、前は全然笑わなかったのに」


「星野さん、うるさいけど、あの人のおかげで社長ちょっと柔らかくなった気がする」


優里は社員たちのひそひそ話を聞き流しつつ、

ふっと小さく笑みをこぼす。


だが蓮はその笑顔を見て、

またも勘違いの炎に包まれた。


(きたあぁぁぁ! 今の笑顔、完全に俺のため! 社員たちが何言ってても関係ねぇ! 俺の勝ち!)


蓮は内心でガッツポーズを決めていた。


しかし優里の心の奥では、

別の感情が静かに揺れていた。


(……社員たちが、あんなふうに笑ってくれるなんて。)


前はいつも、険しい顔しかされなかった。


会社が傾きかけて、私が社長の座を失って


あの頃は、本当にみんなに迷惑ばかりかけてたのに


優里は小さく微笑んだ。


その笑みは蓮に向けられたものではなく、


自分の会社が再び温かさを

取り戻しつつあることへの安堵から生まれた笑み。


だが、その真実を知る者は誰もいない。


蓮は相変わらず、

彼女の横で荷物を両手に抱え、

デレデレ顔で社員たちに見せつけていた。


(へへ……優里の笑顔、完全に俺専用……! 俺ってやっぱり救世主!)


社員たちはひそひそと笑い合っていた。


「ねぇ、社長、最近すごく柔らかくなった気がしない?この前はピリピリしてて、正直怖かったけど」


「わかる。昔は、会社の資金繰りが厳しくなって、社長が一人で全部背負おうとしてた頃とか、顔が強張りすぎてて…」


「星野さんがうるさいおかげで、社長の肩の力が抜けたのは間違いないけど。でも、あの笑顔は、会社が落ち着いてきたことへの安堵って感じだよね」


「そうだね。誰かに感謝してるっていうより、自分で状況を打開できたことへの安堵って感じ」


蓮の足が、その場で凍りついた。


彼の耳は、

社員たちの何気ない会話を雑音としてではなく、

厳然たる真実として捉えた。


(え……安堵?……自分で状況を打開?)


彼の心臓が、ドクン、と大きく脈打つ。


優里は社員たちと軽く言葉を交わした後、

蓮に近づき、荷物の一つを受け取ろうとした。


「重いでしょ。もう一つ、私が持つ」


蓮は荷物を渡さず、ただ立ち尽くした。


「……いや、いい」


優里は怪訝そうな顔で蓮を見上げたが、

蓮の表情に気づかず、

ふと遠くを見つめて小さく呟いた。


「……よかった。やっと、みんなに心配をかけずに済む」


その一言が、蓮の胸に決定的な一撃となった。


蓮がこの数日間、

「俺だけの笑顔」だと思い込んでいた

優里の柔らかい表情は、

彼への「愛」や「感謝」ではなく、

「社長としての責任」と

「孤独な戦いの終焉」に対する安堵だったのだ。


蓮の顔から、一気に血の気が引いた。


全身から力が抜け、持っていた紙袋がガサッと

音を立てて足元に落ちる。


(まさか……俺は、完全に勘違いしてたのか……?)



優里が紙袋を拾い上げている間に、

蓮の心は奈落の底へと落ちていた。


彼は、自分が優里の唯一の希望であり、

彼女の心の支えだと信じていた。


そのために恥も外聞もなくデパートで騒ぎ、

嫉妬に狂い、

必死に「格好いい自分」を演出してきた。


しかし、現実は違った。


優里は彼の溺愛や献身に「めんどくさい」と感じ、

笑顔は「彼がいてくれたから」ではなく、

「彼のうるささが落ち着いたから」生まれていた。


蓮の脳裏に、

デパートでの自分の行動が走馬灯のように蘇る。


背中が開いた服に発狂し、

「穴ゼロ服」を強要したこと。


ブラックカードで格好をつけようとして、

優里のカードに格負けしたこと。


嫉妬に狂い、「御曹司のプライド」を

叫びながら荷物を抱えていたこと。


(くそっ……俺は、ただのお調子者じゃねぇか……!)


蓮は、拳を握りしめた。


かつて女の子たちを札束で黙らせ、

自分の地位に誇りを持っていた御曹司のプライドは、

優里の「孤独な安堵の笑顔」によって、

音を立てて粉々に砕け散った。


彼は、自分が優里の人生における脇役でしかなく、

彼女の自己解決の過程でたまたま騒いでいた

道化師に過ぎなかったことを悟る。



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