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御曹司なのに不採用!? ~冷徹女社長と始めるゼロからの恋と成長録~  作者: 優里


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33/60

休日の服選び





そして迎えた土曜日。


蓮が待ち合わせ場所に到着したのは、

約束の時間の30分も前だった。


周囲を見渡しても、優里の姿は見当たらない。


これまでの蓮は、

全てを支配する「王」だった。


自分が誰かを待つなど、

想像もできないことだった。


しかし、今の蓮は、

その全てのプライドを投げ捨てていた。


蓮は、いつものように自信満々に

腕を組むこともできず、

ただスマートフォンを

見つめるふりをしていた。


彼の心を占めていたのは、

これまでの人生で

経験したことのない不安だった。


(優里、ちゃんときてくれるかな?… まさか、怒って、来ないなんてことは…ないよな )


「優里に嫌われたくない」という感情が、

これまでの「絶対的な自信」を

完全に打ち砕いていた。


蓮は、自分が優里という存在によって、

初めて「人間」としての

弱さを露呈していることを自覚し始めていた。




蓮は180cmを超える長身であったため、

人並みの頭一つ分、

優里の姿を見下ろすつもりで探していた。


しかし、優里はその視界には入ってこなかった。


蓮の視線が届かない場所で、

優里は数名のナンパらしき男たちに

囲まれていた。


優里の美貌は相変わらず際立っており、

彼女の「待ち合わせ」という無防備な状況は、

外界の男たちの格好の標的となっていた。



優里は男たちに囲まれ、

困惑した表情を浮かべながらも、

蓮の言いつけ通りに

約束の場所から離れようとしなかった。



「きみ、かわいいね。待ち合わせ?」


「もしかして相手男?こない こない。こんな美人を待たせる奴なんて、男じゃないって。俺らと遊ぼうよ」


外界の男たちの軽薄で下卑た言葉は、

優里の心を不快にさせたが、

優里には強く拒否する術がなかった。


男が優里の腕を掴もうと手を伸ばした、

その一瞬の出来事。


蓮は人の群れを縫うように、

音もなく男の背後に現れた。


男が優里に触れる直前、

蓮の長い腕が伸び、

男の腕を掴んだ。


男の腕は、蓮の恐ろしい握力と勢いによって、

折るかのように信じられない方向に曲げられた。


「ぎゃあああ っ ! ! ! 」


蓮の顔は、これまでの不安は消え去り、

優里の領域を侵した者への

絶対的な怒りに支配されていた。


「… おれの女に何してんだよ」


その場にいたナンパ男たちは、

蓮の常人を逸した力と、

背後に立つ巨大なオーラに恐怖し、

一目散に逃げ去っていった。




男たちが去り、静寂が戻った後、

優里は、震える声で謝罪を口にした。


「ごめんなさ … 」


優里の謝罪を聞くや否や、

蓮の激しい怒りは嘘のように消え、

優里が来てくれるか不安だった

片思いの情動が溢れ出した。


彼は優里を強く、壊れないように抱きしめた。


「…来てくれないかと思った」


「家まで迎えに行くべきだった。俺が悪い。…こんな目に遭わせるなんて」


優里は蓮の胸のなかで、

彼の心臓の激しい鼓動と、

いつもの尊大さが完全に消え去った

予想外の姿に驚いた。


(…もしかして、本当に私のことを… )


この日の出来事は、

優里にとって、自分が蓮の世界にとって、

いかに重要な存在になっているかを、

初めて知ったのだった。




蓮は約束通り、

優里を都心の一等地にある

高級デパートのショッピングフロアに連れてきた。


「優里、見て! これ、優里に似合うって言ってた新作バッグ! この服にぴったりだろ?」


蓮は次々と

優里に似合いそうなアイテムを指差す。


隣には蓮が手配した有名スタイリストと、

デパートのパーソナルショッパーが控えていた。


優里はため息をついた。


「だから、口出ししないって約束でしょう」


蓮は口を尖らせる。


「だって優里、全然選んでないじゃん! 同窓会だよ? もっと華やかな方がいいだろ! ほら、試着室に行って」


「うるさい。私は目立ちたいんじゃなくて、節度ある装いで行きたいの」


優里は蓮を置いていくように

さっさと歩いて行く。


「ねぇ~、待ってよ~」


蓮はまるで駄々をこねている

こどものようだった。




デパートの高級フロア。


常連店のスタッフが蓮に軽く会釈したあと、

ちらりと優里を見て

「……お連れ様?」と目を丸くする。


「ふふ、女性をお連れになるなんて初めてで……」


「い、いいから!余計なこと言わないで!」


蓮が耳まで真っ赤になりながら制止する。


「好きなのを選んでいい」


そう蓮が照れながら言うと、

優里は軽く店内を見渡し、

迷いなく

背中がざっくり空いたドレスを手に取った。


「え、これがいい」


「は、はぁぁ!?そ、そんなの着るのか!?」


蓮の目がぐるぐる回る。


(背中!背中が!!だ、だめだだめだ!あんなに空いてたら……!)


妄想が暴走し始める。



同窓会会場。


「優里、すごい綺麗だな」


「ねえ、俺と踊らない?」


背中にそっと手を回される優里。


「や、やめてください」


「いいだろ?高校の頃からずっと……」


そして暗がりに連れ込まれ、

ドレスの紐がスルリと……。


「さ、させるかああああああ!!!」


現実に戻って、蓮が店内で叫ぶ。


スタッフも優里もぽかん。


「そ、そんな……そんな、布が少ないの着たら……! 視線が!視線がぁ!」


「別にいいじゃない。私が着たいんだから」


「よ、よくない!俺の……いや、その……会社の大事な……!」


「なにしどろもどろしてんの」


歳下の優里から不意にタメ口で突っ込まれ、

蓮の心臓が一瞬で撃ち抜かれる。


(ギャップ萌ええええええええ!!!)


だが社員からのチャット通知が鳴り、

画面には冷静な一言。


《星野さん、優里さんの服装に許可はいらないです》


「ぐぬぬ……!」


蓮は完全に空回り。



「この子に似合うやつをお願いします!ただし、穴が一切開いてないやつで!!」


蓮は真剣な顔で店員に念を押す。


「……あ、穴……?」


店員が一瞬固まるが、

すぐに営業スマイルを戻して

「かしこまりました」と

優里を試着室へと案内していった。


蓮は試着室の前でソワソワ。


(背中なんて出したら……いや、肩も!脚も!いやもう、視線が一ミリでも集まるのは許せん!)


頭のなかでは、すでに同窓会の妄想が再生されていた。


「優里、やっぱり可愛いな」


「やめてください」


「じゃあ、隣のホテルでゆっくり話そう?」


「……っ!」


そして背中のジッパーがスルリと……


(やめろおおおおおお!!)


「……お客様、大丈夫ですか?」


心配そうに覗き込むスタッフに

「だ、大丈夫です!」と慌てて頭を下げる蓮。


そこへ、カーテンがゆっくり開いた。


「どう?」


優里が姿を現す。


首までしっかり詰まったワンピース。

袖は七分丈。

裾も膝下までしっかり。


まさに「穴ゼロ」完璧ガード。


……そのはずなのに。


「……っ、か、可愛い……」


蓮の理性は爆発寸前。


布に包まれているはずなのに、

逆に上品さが強調されて、

彼の目には妙に眩しく映る。


(なんでだ……!?なんで穴がなくても……こんなに破壊力あるんだ……!)


優里は鏡の前でくるりと回り、

「うん、動きやすいし、いいかも」とあっさり。


それを見て蓮は両手で顔を覆い、

心のなかで絶叫していた。


(可愛い可愛い可愛い可愛い!!!!)


「……で、どう? これなら“穴なし”で満足?」


優里がわざと挑発的に視線を向けてくる。


「ま、満足……いや、むしろ……過剰供給……っ!」


膝に手をつき、

限界オタクのように崩れ落ちる蓮。


その様子を見た店員は、

「あの……彼氏さん、すごくお喜びのようで……」と苦笑し、

優里は「彼氏じゃないです」と即答。


蓮はさらに撃沈して、床に正座してしまった。




「……ねぇ、どう?」


ふと隣の試着室の前から、

少し甘えた声が聞こえてきた。


優里がちらりと目をやると、

カップルらしき二人が立っていた。


彼女のほうはワンピース姿で、

「似合う?」と不安げに彼氏に尋ねている。


だが返ってきた言葉は、冷たいものだった。


「……もういいだろ、時間かかりすぎだって。早く決めろよ」


彼女はしゅんと肩を落とし、

店員が気まずそうにフォローを入れていた。


(……ああ、だいたいこういうものだよね。普通のカップルって)


優里は胸の奥で小さくため息をつく。


服を見立てるのも面倒になって、

最後には妥協する。


それが「普通」なのだろう。


だというのに……。


視線を戻せば、目の前の男は。


ソファに腰を落ち着けることもできず、

試着室のカーテンの隙間を

チラチラ覗きそうな勢いで立ち尽くし、

顔は真っ赤。


「可愛い……」

「やっぱり無理だ、直視できん……!」と、

ひとりで勝手に葛藤している。


彼氏でもなんでもないくせに、

隣のカップルの男より

よほど必死に一喜一憂している。


(……めんどくさ)


優里は半ば呆れながらも、

少し肩の力が抜けた。


「……もう疲れた」


ぽつりと呟き、近くのソファに腰を下ろす。


「あ、つ、疲れた? だ、大丈夫か?」


すぐさま蓮も隣に腰を下ろしてきた。


その距離が、近い。

あまりに近い。


優里が身体を少しずらしても、

蓮は気づいていないのか、

そのままじっと顔を覗き込んでくる。


「……休んで。オレが全部、選んでやるから」


(……いや、あんたが選んだら穴ゼロ服しか来ないじゃん)


心の中でツッコミつつも、

真正面から向けられる視線に頬が熱を帯びる。


蓮はと言えば。


(ち、近い……!いや近すぎる!これ以上顔を近づけたら……理性が……!)


心臓が耳元で鳴っているかのように、

ドクドクと早鐘を打ち、今にも爆発しそうだった。


優里が数着の洋服を抱え、レジへと向かう。


「じゃあ、これにします」


すかさず蓮が横から割り込んだ。


「ま、待て!ここは俺が……!」


胸ポケットから、

誇らしげに一枚のカードを取り出す。


艶やかな漆黒

ブラックカードだ。


(ふふん、これで株を上げてやる……!男らしさ全開!)


「これでお願いします」


得意満面で差し出した瞬間。


……スッ。


優里の手から、

もう一枚のブラックカードが重ねられた。


「え……?」


店員が一瞬きょとんとし、そして確認する。


「お客様、どちらのカードでお支払いを?」


蓮は固まった。


(え……えええぇぇぇぇーーー!? 優里が!? ブラックカード!? いや待て、俺のサプライズどころか、完全に格上じゃん!?)


「こっちで」


優里はあっさり自分のカードを指さし、

支払いを済ませてしまう。


ぽかんと立ち尽くす蓮。


「……え、あれ……俺の……出番……」


頬を赤くして頭を掻きむしると、

急に立ち上がった。


「の、喉乾いてない!? 水!水買ってくる!」


完全に逃げるように、

早足で店を飛び出していく。


残された優里は、小さく息を吐き、ぼそりと呟いた。

「……ほんと、めんどくさい」


蓮は店を飛び出すと、

近くの自販機までダッシュした。

膝に手をつき、肩で息をしながら叫ぶ。


「やっばい! 全然格好つけられなかった!!」


拳で自販機を軽くコツンと叩く。


「なんでだよ……! ここは俺が颯爽と支払って、“やっぱり御曹司は違うな”ってなるとこだろ!?」


「なのに、なのに……! まさか優里までブラックカード持ちだったなんて!」


がくりとしゃがみ込み、

自販機の下の隙間を見つめる。


「……俺の男らしさ、隙間に吸い込まれて消えた……」


ポケットから小銭を取り出し、

カランと投入する。


出てきたのは

「ミネラルウォーター」。


「水買ってくるって言っちゃったからには、これしかないよな……。」


「ああ、でも戻ったら優里に“必死に水買ってきた人”って顔されるんだろ……」


意気込んで戻ろうとした瞬間。


横を通ったカップルがひそひそと囁いた。


「ねえ、あの人さっきから自販機に向かって独り言言ってない?」

「うわ、なんか熱弁してたね……」


蓮は耳まで真っ赤にしながら咳払い。


「……聞こえてない。誰にも聞こえてない。俺の孤独な戦いは秘密だ……!」


そう自分に言い聞かせ、

水のボトルを両手に握りしめて

店へと戻っていった。




蓮は意気揚々とペットボトルを両手に抱え、

店内へ戻る。


ソファに腰かけていた優里が、

チラッと視線を上げる。


「……ほんとに水、買ってきたのね」


あきれたように片眉を上げる優里。


蓮は一瞬たじろぐが、

すぐに胸を張ってドヤ顔で差し出した。


「お、おう! ほら、冷たいやつだぞ!」


優里はゆっくりと受け取り、

ペットボトルを見つめた。


「……ありがとう。でも、普通に自分で買えるし」


「いやいやいや!」


蓮は慌てて手を振る。


「そこは“ありがとう、助かった”って言うとこだろ!?俺だってわざわざ……その、走って……っ、買ってきたんだぞ!」


「……走ったの?」


「お、おう……!」


自信満々に言ったつもりが、

呼吸がまだ乱れていて説得力ゼロ。


優里はペットボトルをプシュッと開け、

一口飲んだあと、ため息をついた。


「……ほんと、めんどくさい」


「そ、それ、今の“かわいい”の意味で言ったよな!?」


「言ってない」


バッサリ。


しかしその声音は、

完全に突き放す冷たさというよりも、

どこか呆れ笑いを含んでいた。



蓮はそのわずかな変化を見逃さず、

心のなかでガッツポーズを決めた。


(よし……! 今のは“ほんとにめんどくさいけど、悪くない”って意味だな……! 俺にはわかる!)


買い物袋を抱えた蓮が、

やたらと張り切った顔で言い放つ。


「任せろ!荷物なんて、俺が全部持つから!」


(どやぁっとした笑みで筋肉アピール)


優里は片眉を上げて、

わざとらしく口元に指を当てる。


「ふぅん……じゃあ、支払いももちろん蓮がやってくれるんでしょ?」


「えっ……!」


さっきブラックカードで撃沈した記憶が蘇る


(や、やばい!ここで財布出したらまたカード勝負になる……っ! でも格好悪いのも嫌だぁ!)


慌ててポケットを探る蓮の姿に、

優里はわざとイタズラっぽく笑う。


「あれ? どうしたの? さっきまで『俺が!俺が!』って頼もしかったのに」


「くっ……優里、それは反則だろ……!」


耳まで真っ赤になりながら、

でも結局レジ前に立って必死に支払おうとする


レジ前で、蓮が勢いよく財布を取り出す。


「ここは俺が払うから!」


ブラックカードを震える手で差し出す


店員が受け取りながら、

思わず口元を押さえて クスクス と笑った。


「彼氏さん、必死すぎる……でも可愛い」


さらに後ろに並んでいた客たちも、

どこか羨ましそうに視線を送ってくる。


「いいなぁ……あんなに溺愛されて」


その空気を受けて、

蓮はますます頬を熱くしながら胸を張る。


(よし、今度こそ格好いい俺を見せられたはず……!)


そんななか、優里がぼそっと小声でつぶやく。


「……ほんと、めんどくさい」


「えっ……!」


ドヤ顔のまま固まる


さっきまで羨望の眼差しを向けていた客たちが、

思わずクスッと吹き出し、蓮はその場で撃沈した。


優里は会計を終え、

袋を受け取りながら何気なく蓮に視線を向けた。


「……でも、ありがと」


たったそれだけ。

気だるげに、ついでのように言った一言だった。


けれど蓮には、違った。


(い、いま……『ありがと』って言った!? え、これ、俺……褒められた!? やばい、心臓飛び出そう!!)


頭の中では花火が打ち上がり、

脳内BGMは祝祭モード。


店内の照明さえも、

彼女の微笑を引き立てるための演出に見えてしまう。



「あ……あぁ……うんっ! どういたしましてぇぇ!」



袋を抱えたまま、

今にも天井を突き抜けて

飛んでいきそうなテンションで

ソワソワしている蓮を見て、

店員も客もまたクスクス笑っていた。



俺様御曹司の蓮が、

年下相手に振り回されている瞬間だった。



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