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御曹司なのに不採用!? ~冷徹女社長と始めるゼロからの恋と成長録~  作者: 優里


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23/49

御曹司の空回り






朝の光が部屋に差し込むと、

雨上がりの清々しい空気が漂っていた。



「あの、本当にありがとうございました。私、そろそろ…」


「え!? 帰るの!?」


(この甘々タイムもう終わり!?)


「ちょ、ちょっと待って!」


(引き止めたい……でも、口実なんて……)


「あ、朝ごはん、食べて行かない?」


「えっ?」


(お願い! 食べるって言って! ……お願い!!)


蓮は祈るような気持ちで優里をみる。


「私、朝ごはんは食べないんです…」


がーん…。


(終わった。 終了。 帰宅確定…)


「ですよねぇ…」


「食べますか?一緒に…?」


「いいんですか!?」


(俺、返事はやすぎ…)



蓮はキッチンで手慣れた手つきで朝食の準備を始める。


パンをトーストし、卵を焼き、野菜をさっと炒める。


彼の動きには無駄がなく、

自然と部屋中に香ばしい匂いが広がった。


優里はソファでその様子を眺める。


カップに淹れられたコーヒーを手に、

少し微笑みながら口を開いた。


「……星野さん、朝からこんなに手際がいいんですね」


蓮はフライパンを傾けながら、

軽く肩をすくめて笑った。


「まあね、料理くらいは自炊派だから。女の子をもてなすためにやってるわけじゃないけど」


優里はくすりと笑い、

少しからかうように言った。


「でも、モテるんでしょうね?」


蓮は卵をひっくり返しながら、軽く笑った。


「うーん、かつてはね〜。今は別に、そんな気配も出さないようにしてるよ」


優里は少し首を傾げる。


「別に出さなくてもいいですけど……ナルシストや女遊びしてる人、苦手ですから」


蓮はフライパンを置き、

包丁を手に取りながら、

心のなかで小さく笑う。


(なるほど。女の子の扱いは手慣れてても、余計な色気は出さないように……)


彼は優里が安心して食事を楽しめるよう、

自然体で振る舞った。


朝食を二人でテーブルに並べ、

静かに食べる時間。


小さな会話が交わされるたびに、

昨夜の心理的距離が少しずつ現実の日常に

溶け込んでいく。


蓮は優里が食べやすいように料理を取り分け、

優里は柔らかな微笑みを浮かべながら箸を運ぶ。


食事の後、二人は身支度を整え、

マンションのロビーへ向かう。


エレベーターのなかでも自然な距離を保ちながら、

時折軽い冗談を交わす。



外に出ると、雨は完全に上がり、

街は少しだけ湿った空気に包まれていた。


蓮はふと、優里の軽やかな足取りや、

髪の動き、柔らかな笑顔を目で追いながら、

自分が守りたいと思う気持ちが

さらに強くなっていることを感じた。


(……この子の隣にいる時間は、守るだけじゃなく、俺自身も落ち着くんだな)





オフィスに着くと、社内はシーンとしていた。


「さて……今日は二人だけですね」


蓮が軽く声をかけると、

優里は少し照れくさそうに微笑んだ。


「はい、急ぎの資料整理だけなので……静かでちょうどいいかもしれません」


二人が隣同士の席に着くと、

自然と視線や動きが重なり合う。


資料を渡す際、手がわずかに触れる。


「……この数字の部分、計算間違ってないか確認してもらえますか?」


優里が資料を差し出すと、

蓮はサッと受け取り、

ペンを取りながら細かくチェックする。


「この部分は、こういう切り口でまとめた方が見やすいですね」

蓮が指し示す場所に優里が視線を落とすと、

二人の顔の距離は自然に近くなる。


優里の髪の香りが、ほんのりと鼻先をくすぐった。


「……あ、なるほど。ありがとうございます」


優里が少し息をつく。



作業の合間、蓮が小声で問いかける。


「……昨日のこと、心配させちゃったかな?」


優里は少し微笑み、首を横に振る。


「大丈夫です。星野さんのおかげで、安心して泊まれましたから」


蓮はその言葉に胸の奥が温かくなるのを感じる。




午後になり、ようやく作業が一段落したとき、

蓮は軽く肩を回して伸びをしながら言った。


「いや、でも優里さん、仕事中でも冷静で的確ですね……さすが社長です」


優里は少し顔を赤らめ、机に手を置いたまま微笑む。


「ありがとうございます……星野さんも、一緒に作業してくれるので助かります」


二人だけの静かなオフィス空間で、

言葉や仕草、肩や手の触れ合いが、

昨日から続く心理的な親密さを

さらに深めていった。


(……この距離感、ちょうどいい。触れられるけど、手を出さなくても安心できる)


蓮の疲労は隠せなくなっていた。


昨日の台風の夜、

ほとんど眠れなかったせいで、

体が鉛のように重く感じる。


「……はぁ、ちょっと目を閉じるか……」


蓮は机の上の資料を片手で押さえ、

そっと隣にいる優里の肩にもたれる。


最初は軽く寄りかかるだけのつもりだったが、

目を閉じた瞬間、意識は深く沈み込んでいった。


優里はその気配に気づき、

最初はビクッと肩を引きそうになる。


だが、蓮の顔が少し安らかで、

呼吸が落ち着いているのを見ると、

無理に起こすのはやめようと心に決めた。




(……あぁ、こんなときに限って、俺……)


蓮は無意識に小さく呟き、

さらに深く肩を預ける。


体の力が抜け、完全に眠りに落ちてしまった。


優里はそのまま微動だにせず、

書類の片付けやPCの作業も中断して、

ただ彼の肩越しに窓の外を見つめる。


夕陽が淡くオフィスに差し込んでいた。



しばらくすると、蓮の小さな寝息が聞こえる。


呼吸のリズムが落ち着いていて、

まるで子どものように無防備だ。



蓮が目を覚ますまで、

優里はそっと彼の肩に寄り添いながら、

静かな夕方の時間を共に過ごした。




窓の外の光が少し傾き、

オフィスの机の上に柔らかく差し込む頃、

蓮は浅い眠りからふと目を覚ました。


「……ん……?」


目を開けると、

自分の肩に柔らかい感触があることに気づき、

瞬間的に理解が走る。


(……うわっ! 優里の肩に寄りかかってた!?)


慌てて体を起こし、背中を伸ばす。


机の上の書類はそのまま、

しかし頭のなかは真っ白だ。


心臓がドキドキと早鐘を打つ。


「ご、ごめんっ……!」


思わず声に出してしまう。


優里はその反応に、一瞬ビクッと肩を震わせた。


「……え? あ、いえ、別に……」


「いや、いやいや、俺……こんなこと、ありえねぇ……」


優里は小さく息を吐き、肩を軽く揺らして微笑む。


「大丈夫ですよ。私も気にしてませんから」


「……いや、でも俺、ちょっと失礼しすぎたかも……」


蓮は軽く頭を掻きつつ、思わず声が小さくなる。


優里はその様子を見て、ふっと微笑みを浮かべた。


「そんなに慌てなくてもいいですよ。疲れてたんですし」


蓮はその言葉に、一瞬固まる。


彼女の落ち着いた声と表情が、

昨日の夜の緊張と疲労のなかで芽生えた

心理的距離の縮まりを、さらに深く感じさせる。


「……そ、そうか……ありがとう」


蓮はぎこちなく頭を下げる。


肩を借りたことへの後悔と、少しの安堵、

そしてなんとも言えない幸福感が混ざる。



蓮は胸のなかで小さくため息をつき、

心を落ち着けながらも、

隣にいる優里の存在に心のどこかで安心感を覚えていた。



作業が一区切りついたところで、

蓮はふと視線を上げる。


優里は真剣な表情でペンを走らせている。


普段の仕事ぶりから見せる凛とした顔とは違う、

少し幼い柔らかさが蓮の胸に響く。


(こうして二人きりでいると、距離が縮まった気がする…)


(ひょっとして、俺に意識してくれたり、嫉妬してくれたり…?)



「ねぇ、ちょっと聞いていい?」


「はい、何ですか?」


「…どんな人がタイプなの?」



優里はペンを置き、書類の束に目を落とす。

少し間を置いてから、低くて穏やかな声で答える。


「…ナルシストじゃない人。人のことをお前って呼ばない人。自己中じゃない人…です」


その言葉には、単純な好み以上に、

これまでの蓮の行動や人柄を見ていることがにじんでいた。


蓮の胸は小さく跳ねる。


「ふーん、ナルシストじゃない人ね…」


蓮はその距離感を大切にしたくて、

無理に体を近づけたりせず、

視線だけでやり取りを続ける。


「じゃあ、僕のことはどう思う?」


思わず冗談めかして言ったつもりが、

蓮の胸には期待が芽生えている。



「……まあ、仕事は頼りになります。…それだけです」


優里は言葉少なだが、目は真っ直ぐに蓮を見ている。


(……全然意識してないな。ほんと無邪気というか…俺が隣にいるの、何も思わないのかよ)


胸の奥で焦れたような思いが滲む。


彼女は小さく肩を落とし、目元を指で押さえた。


「すみません、ちょっと寝不足で…目がしょぼしょぼしてて」


「寝不足?」


「はい、連日資料づくりしてたので」


苦笑する優里は、

ただ本当に疲れているだけだった。


蓮は言葉を失う。


(俺が距離を詰めてドキドキしてたのに……この人、全然気づいてない。いや、それどころか、疲れてるから無防備になってただけか)


一気に肩の力が抜け、笑うしかなくなった。


「じゃあ、もう今日はここまでにしようか。無理すると倒れるよ」


「……そうですね」


優里は少し安心したように笑みを返した。


蓮は心のなかで苦笑する。


(俺の小細工、全部空回りか。優しいのは俺に好意があるからじゃなくて、この人の性格なんだよな…)


彼女の穏やかな横顔を盗み見ながら、

蓮はどうしようもなく自分が滑稽に思えた。


それでも、心のどこかでまだ、

彼女に振り向いてほしいという執念が消えなかった。



仕事を終えた蓮は、

晴人に誘われるまま駅前の居酒屋へ足を運んでいた。


提灯の明かりがぼんやり灯る店内は、

サラリーマンたちのざわめきとジョッキのぶつかる音に満ちている。


「おつかれー!」

「おつかれっす」


乾杯の音が響き、ビールをぐいっと喉に流し込む。


一口で胃の底にまで届く苦みと冷たさに、

蓮はようやく今日一日の緊張を緩めた。


晴人は枝豆をつまみながら、にやりとした。


「で? 最近、なんか楽しそうじゃん。いや、違うな……そわそわしてるっていうか」


「……え?」


蓮は思わずグラスを止める。


「誰かのこと考えてる顔してるんだよ。昔は、もっと自分のことしか考えてなかったろ。今は……違う」


「……」


蓮は言葉を濁す。


だが酔いの勢いもあり、

胸の奥に溜めていたもどかしさが口をついて出た。


「……優里さんのこと、なんだよ」


「やっぱりな」


晴人は大げさに笑い、ジョッキをあおる。


「お前、あの社長さんのこと気になってるんだろ? 見てりゃわかる」


「気になるなんてもんじゃねぇよ。俺、正直……どうしたらいいかわかんねぇんだ」


普段は軽口ばかりの蓮が、珍しく真剣な声音をしている。


晴人は箸を止め、黙って耳を傾けた。


「近づきたいのに、全然入らせてくれない。仕事のことばっかで、自分のことなんて何も言わないし。俺がどんなに探っても、軽く笑って流されるだけだ。……なんか、壁があるんだよ」


蓮の言葉には苛立ちと焦りが混じっている。


ビールを飲み干すと、

彼は額に手を当て、低く唸った。


「俺、今まで女に対してこんな風に思ったことなかった。みんな適当に遊んで、適当に笑って、適当に終わって……それでよかった。でも、優里さんは違う。あの人のこと、もっと知りたい。近づきたい。……でも全然届かねぇ」


その声に、晴人はじっと目を細める。


(……こいつ、本当に変わったな)


前までの蓮なら、

相手が心を開かなければ諦めて他の女に行ったはずだ。


だが今の蓮は、必死に一人を追いかけ、もがいている。


晴人はゆっくりジョッキを置き、笑った。


「いいじゃん。それで。お前が本気ってことだろ」


「……は?」


「昔のお前なら、壁があったら“面倒くせー”って逃げてた。今は違う。もどかしくても、踏みとどまってんだ。……お前が変わった証拠だよ」


蓮は目を丸くする。


「俺が……変わった?」


「ああ。……優里さんのおかげだな」


その一言が、蓮の胸にずしりと落ちた。


グラスを握る手が震える。


(……俺、本当に変わってんのか? あの人に出会って、変えられてんのか?)



ジョッキを傾けながら、蓮は晴人に吐き出すように話した。


「……やっぱダメだ。優里、全然俺を見てねぇ。距離詰めようとしてんのに、全部空回り。昨日も送ったのに、普通に『お疲れさまでした』で終わりだぞ」


晴人は口角を上げ、串焼きを一口齧る。


「ははっ。お前が必死になってるの、俺は初めて見たわ」


「笑い事じゃねぇだろ」


蓮は不満げに言うが、

その表情に苛立ちよりも戸惑いが混ざっていた。


晴人はしばらく黙って蓮を見ていたが、

ふと懐から封筒を取り出した。


「ほら、渡しとく」


「……なんだよこれ」


「水族館のチケット。二枚な」


蓮は目を丸くする。


「なんでそんなもん持ってんだよ」


「準備しておいてよかったわぁ〜。どうせお前、優里ちゃん誘う勇気出すまで時間かかると思ってな」

晴人はわざとらしく肩をすくめる。


蓮はチケットを手に取ってまじまじと見つめた。


どこかで女性と出かける、

なんて考えたことすらなかった。


これまで女と会うといえば、飲み屋かホテル。


名前すら覚えていない相手も多かった。


「……俺、女の子と、こういうとこ行ったことねぇ」


低く、ぽつりと呟く。


晴人は呆れたように笑った。


「だろうな。お前、女と会うって言ったら酒飲んで終わり、そんなのばっかだもんな」


蓮は無言でジョッキを握りしめる。


「家に呼ぶなんて絶対しなかった。……俺にそんなことできるのかよ」


晴人は真剣な目で蓮を見据えた。


「だからやれよ。優里ちゃんには、その“いつものお前”じゃ響かねぇ。遊びの延長じゃなく、ちゃんと“誰かと時間を過ごす”ってやつを覚えろ」


蓮はしばし黙り込み、

手のなかのチケットをぎゅっと握った。


心臓が妙にざわついている。


これを渡したら、もう引き返せねぇ。


「……分かった。誘う」


蓮の目に、普段の余裕ではなく、

不器用な決意が宿っていた。


晴人が串を置き、にやりと笑った。


「ちなみにそれ、ナイトアクアリウムのチケットだから。夜の時間帯に入れるやつな」


「へぇ、そんなのあるのか」


蓮が興味なさそうに言いかけた瞬間、

晴人はさらりと続けた。


「だからさ、終わったらそのまま家に連れて行けばいいだろ?」


ジョッキの縁にかけた蓮の手が、

ぴたりと止まった。


一瞬、昔なら笑って「なるほどな」と返しただろう言葉が、

喉の奥で重く引っかかる。


「……それはダメだ」


低く、はっきりと否定する声が出た。


「お? らしくねぇな」


晴人が片眉を上げる。


蓮は視線を落とし、

しばらく黙ってから言葉を絞り出した。


「……あの子はそういうんじゃないんだよ」


「“そういうんじゃない”? お前がそんなこと言うの、初めて聞いたな」


晴人の声には揶揄と驚きが半分ずつ混ざっていた。


蓮は無意識に、握りしめたチケットに視線を落とした。


白い紙片がやけに重い。


「今までみたいに、軽く遊んで終わりとか……そういうんじゃダメだって、わかってる。あの子は……ちゃんと向き合わなきゃ、たぶん俺のことなんて見てもくれない」


晴人はじっと蓮の横顔を見ていた。


軽口を叩く代わりに、ふっとため息をついて笑う。


「……お前、変わったな」


蓮は答えず、

ただチケットをポケットに押し込んだ。


その仕草には、

これまでの自分を断ち切るような硬さがあった。







翌日。

業務もようやく終わりに近づき、

フロアに残る人影は少なくなっていた。


パソコンを閉じてバッグを肩にかけた優里が、

出口へ向かおうとする。


「……あ、ちょっといい?」


蓮の声が背後から飛んできた。


「今週末さ、水族館行かない? 夜にやってる特別展示があってさ」


差し出された言葉は、

いつもなら軽口混じりの誘いなのに、

どこか真剣味があった。


「すみません。……今週末はちょっと、無理です」


「え?」


蓮の声が小さく裏返った。


「ちょうどクライアントとの打ち合わせがあるので、多分夜もそのまま会食続きで…」


優里は申し訳なさそうに肩をすくめる。


蓮は言葉を飲み込み、手のなかの切り札。

水族館のチケットを取り出しかけて、

結局ポケットに戻した。


「……そう、だよな。悪い、変なこと言った」


「本当にすみません」


優里は、そのまま足早に出口へ向かっていった。


残された蓮は、

誰もいないオフィスで小さく息を吐く。


(……やっぱり、俺だけが焦ってんのか)


胸の奥にじわじわと広がる虚しさを抱えたまま、

蛍光灯の白い光をぼんやり見上げていた。




帰宅した蓮は、

ソファに沈み込むように座り、ネクタイを緩めた。


手元のテーブルには、

まだ出しそびれたままの水族館のチケット。


それをじっと見つめながら、

深いため息が漏れる。


「……やっちまったな」


頭をかきむしるようにして、

背もたれに倒れ込む。


せっかく晴人に背中を押されて、

覚悟を決めて、言葉を選んで誘ったのに。


優里はあっさり「無理です」と切り捨てていった。


「そりゃ、仕事忙しいのはわかってるけどさ……」


自分でも分かっている。


タイミングが悪かった。


それだけのこと。


それでも、胸の奥にじわじわ広がるのは

敗北感に似た虚しさだった。


(俺だけ……こんなに焦ってんのか)


思い返せば、出会ってからずっとそうだった。


距離を縮めたくて、声をかけて、

冗談を言って、仕草でアピールして……


でも優里はいつも淡々と受け止めて、

流すように笑って、仕事へ戻る。


(何も響いてない……か)


掌をぎゅっと握りしめ、視線をチケットに戻す。


紙の端が少し折れているのが、

余計にみじめに見えた。


「……俺、ほんと何やってんだろ」


独り言の声が、広い部屋に虚しく反響する。



結局その夜、蓮はベッドに入っても何度も寝返りを打ち、

なかなか眠りにつくことができなかった。





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