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御曹司なのに不採用!? ~冷徹女社長と始めるゼロからの恋と成長録~  作者: 優里


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入社とモヤモヤ








晴人と蓮は、オフィスビルの隅にある

カフェのテーブルに座っていた。



窓の外には、夕暮れの光が街をオレンジ色に染めている。


「蓮、ちょっと聞いてくれよ」


晴人が軽く笑いながらスマホを操作する。


「なんだ、今度も優里の情報でも仕入れたのか?」


蓮はすでに身構え、眉をひそめる。


「そうそう。ちょっと調べてみたんだけどさ……」


「……桜庭優里、けっこうモテるらしいよ」


蓮は思わず椅子から半身を乗り出した。


「はぁ? どこがどうモテるんだよ!」


声には焦燥と軽い苛立ちが混ざる。


「いやー、見た目とか性格とか、いろいろ評判があるんだって」


晴人は笑みを浮かべながら言う。


「でも、蓮、こういうのって、遊んでばっかの御曹司には分からないだろうな」


蓮はムッとして腕を組む。


「はぁ? 俺だって……俺だって……!」


言葉が途中で途切れる。


晴人はニヤリと笑った。


「蓮、本命がいなかっただろ? だから相手の魅力とか、本気で理解できないんだよ」


蓮はハッとする。


酒場での会話と同じ感覚が胸に押し寄せる。


(……本気で、誰かのために考えたことなんて……なかった)


晴人は蓮の表情を見て、軽く肩を叩く。


「だからさ、これからは本気で挑戦しないと、相手のことも、そして自分のこともわからないぞ」


蓮は拳を握りしめ、目を閉じて深呼吸する。




(……分かってる……分かってるんだよ……!)



初めて、自分の感情の奥底から湧き上がる焦燥と決意を感じる。



「よし、俺、やる……今度こそ、桜庭優里に認められる」


晴人は軽く頷き、蓮の目をじっと見た。


「その意気だよ、蓮」



はじめは父親の命令で出向いた会社だったのに、

いつしか、優里に認められたくて、

彼女の仕事を助けて、

「助かった」と言われたくて、

頼られたくて、

必死に頑張っている自分がいるのを自覚した。





翌朝。

机の上には、ビジネスプランコンテストの資料と、

優里からのメールがまだ残っている。


「……準優勝、か」


小さく呟きながら、蓮は椅子に深くもたれた。


確かに嬉しい。


コンテストで認められた自分は、確実に前より成長している。


しかし、それ以上に気になるのは、晴人から昨夜聞いた一言だ。


「桜庭優里って、けっこうモテるらしいよ」


その瞬間、胸の奥がざわついた。


「モテる? はぁ? どこがだよ!」


思わず心のなかで叫ぶ。



自分は何週間も必死で挑戦して、

あの女の前でドキドキしてたというのに、

遊び人扱いされていると聞かされる。



蓮はスーツをビシッと着こなし、鏡の前でひと言。



「ぜってぇ、見返してやるからな!」








少しひんやりした空気のなか、

蓮は緊張の面持ちで優里の会社の自動ドアをくぐった。


蓮のインターン期間が終了する日がやってきた。


優里は蓮の向かいに座り、静かに切り出した。


「星野さん、おはようございます。」


「あなたのインターン期間は今日で終了です」


その言葉は、蓮にとって青天の霹靂だった。


蓮は父親の命令よりも、

いつしか優里のそばにいるという

唯一の目的でこの会社に潜入した。


優里に毎日会えなくなるという事実は、

彼の世界が終わることを意味した。


目を見開き、一瞬にして顔から血の気が引く。


「 え…っ…?」


蓮の声は裏返り、その目は優里に拒絶された

「捨てられた犬」のような悲しみで満たされた。


これまでの自信と歓喜は一瞬で消え去り、

彼の心は絶対的な絶望に覆われた。


「俺の仕事に問題があったんですか? …もう、俺をそばに置く必要はないと…そういうことですか?」


優里は蓮の心底からの絶望を見て、

内心、これほどの反応を示すとは思わず、

少したじろいだ。


「問題はなかったですよ。むしろ、優秀すぎるくらいでした。だから…」


「今日は入社手続きと簡単なオリエンテーションを説明しますね」


蓮の絶望に染まった表情は一瞬で消え去り、

優里がインターン採用を決めた時を遥かに超える、

爆発的な歓喜へと変わりった。


彼の目は涙で潤み、全身が喜びで震えた。


「うおーっ! 俺は君の会社の社員になれるんだな!」



優里はいつも通り、

微笑を浮かべながらも目には少し疲れが残っている。


蓮はその言葉を聞きながらも、

頭の中では昨日晴人から聞かされた情報が渦巻いていた。


(……ちょっとまて)


(……モテるらしいだと……?)


(あの笑顔、あの優しさ……。もしや遊び人だったんだろ!? 俺ばっかドキドキして……! ふん、ちっくしょう!)


蓮の内心は、嫉妬と焦燥、そして苛立ちで煮えたぎる。


目の前に優里がいるというのに、

心ここにあらずといった状態だ。


「では、こちらの書類にサインをお願いします」



優里が手渡してくるファイルを、

蓮はぼんやりと受け取り、適当に目を通すふりをする。


(くそ……こんなに間近にいるのに、俺の頭のなかは“モテる優里”でいっぱいじゃないか……!)


優里の声が耳に届く。


「星野さん? 大丈夫ですか? 説明、聞いてます?」


蓮は我に返る。


慌てて視線を優里に戻し、ハッと小さくうなずく。


「……あ、ああ、大丈夫です、桜庭さん」


内心ではまだ苛立ちが収まらない。



(俺ばっかり、こんなに真剣に……! なのに……なんで他の人にはあんな笑顔振りまくんだよ……!)


優里は書類の説明を続ける。


だが蓮の意識は完全に、自分のなかの嫉妬と焦燥に占領されていた。


(ふん、まったく……星野蓮、ここから本気でやってやる……!)


そう心のなかで決意を固める一方で、

頭の片隅には、晴人のあの軽口がずっとこだましていた。


(本命いたことないんだから分からないだろって……あいつめ、余計なことを……!)


結局、入社初日から蓮の心は、

仕事への緊張よりも優里へのモヤモヤ感でいっぱいだった。




蓮は社内の入社手続きを終え、

初めて正式に優里の会社の社員としてデスクに向かう。


そこには既に社員たちが働いていた。


社員たちの目がちらりとこちらを向く。


蓮は少し緊張しつつ、最初に渡されたのは、

優里がまとめていた取引先へのメール返信の資料だった。


「これを整理しておいてほしいです。必要なら雛形を作って、あとはコピペで送信できるようにしておいてほしいです」


蓮は心のなかで小さくガッツポーズをする。


優里から直接仕事をもらえるということは、

認められたということだ。


蓮は資料を手に取り、目を通す。


普段は遊びや豪遊ばかりだった自分が、

初めて誰かのために具体的に行動できている感覚。


それが、不思議なほど新鮮で嬉しかった。


「星野さん、手伝ってもらって助かります」


優里がちらりと微笑む。


その瞬間、蓮は胸の奥が熱くなるのを感じた。


(あ、あれ……俺、なんでこんなに嬉しいんだ……!)




周囲の社員たちは、最初こそ蓮に対して少し懐疑的だった。


“また優里に付き纏う鬱陶しい御曹司”


そんな目でちらりと見られることもあった。


だが、蓮が手を動かし、

具体的に優里の業務をサポートしている姿を目にすると、

視線は次第に変わっていく。



「……あの御曹司、意外とやるな」


ひそひそ声が聞こえた。


蓮は聞き取れないふりをしていたが、心のなかでほくそ笑む。


(やっと少しは認められるのか……! まだまだ序の口だが、ここからだ)






業務を終え、オフィス内はだいぶ静かになっていた。


社員たちは帰宅し、机の上には書類だけが残る。


そんな空間で、優里が俺の席の横に立っていた。


「星野さん、これ、確認してもらえますか?」


資料を差し出す優里。


目線は画面に集中していて、無防備な顔だ。


(……あれ? 近い、近いぞ)


自然と距離が縮まったことに、心臓がドキリとする。


(俺もしかして……いい感じ?)


だが、すぐに現実に引き戻される。


(いやいや! この女はモテるんだ! 俺なんか……危ないペースに乗らされるところだった!)


必死に心のなかで自制し、落ち着こうと深呼吸をする。


「うん、わかった。ここはこう修正すれば、もっと見やすくなるな」


俺は資料を受け取りながら、自然を装って指摘する。


だが、体は正直で、手がわずかに震えていた。


優里はふと顔を上げ、俺と目が合う。


「ありがとう、星野さん。助かります」


柔らかい笑顔。


普段の仕事ぶりの評価も込められていることが分かる。


胸の奥がじんわり熱くなる。


「いやいや、そんな大したことないっす」


つい照れ隠しで口を滑らせる。


「でも、本当に助かるんですよ。星野さんがやってくれると、安心して仕事が進められます」


その言葉に、俺の内心はさらに揺れる。


(……これは……距離が近いぞ……でも、モテる女だ、俺なんか……!)


優里が資料を置くと、自然に肩が少しぶつかる。


小さな接触だが、意識せずにはいられない。


(うわ……やっぱり近い……胸が……心臓が)


俺は必死に視線を下に落とし、呼吸を整える。


「じゃあ、この修正で進めてみますね」


「はい、お願いします」


その声は優しいが、芯の強さも感じさせる。


俺は資料を持ちながら、軽く頷く。



(いや、危ない! いい感じとか思うな! この女はモテるんだ、俺は惑わされるな……でも、距離が近い……)


静かなオフィスで、

自分の鼓動だけがやけに大きく聞こえる。


(……でも、認めてもらえた、ってことは……この距離、少しずつ意味があるのかもしれない)


(よし、気を抜かず、でも優里の役に立つ……これが俺の挑戦だ)




オフィスの時計はすでに夜の九時を回っていた。


蓮は机に広げた資料の山を前に、ため息をひとつ落とす。


これまでは人任せにしてきた細かいデータ整理や市場分析。


御曹司としての立場なら、誰かが勝手に整えてくれただろう。


だがここでは違う。


スタートアップという荒波のなかに放り込まれた自分は、

ただの一社員にすぎない。



ふたりで並んでデスクに向かい、パソコンを叩く。


優里はモニターを覗き込み、

蓮の作った表に赤ペンで印を入れる。



彼女が顔を近づけるたび、

柔らかな髪の香りがふわりと鼻先をかすめた。


心臓がどくりと高鳴る。


資料どころではない。


(……ちょっと待て。なんだこの距離感は。俺、もしかしていい感じなのか?)


そんな淡い期待が一瞬胸をよぎる。


だが同時に、理性が強くブレーキを踏む。


(いやいや!こいつは社長だ。仕事柄、誰にでも自然に距離を縮められる女だろ。俺だけに特別に優しいわけじゃない。舞い上がるな、蓮!)


頭のなかで自分を叱咤する。




だが視界の端で見える優里の横顔は、

どうしようもなく美しかった。



仕事モードに集中しているはずなのに、

その横顔を見ているだけで心が揺れる。


「……なに?」


「え?」


「さっきから、妙に視線感じるんだけど」


鋭い指摘に、蓮は慌てて視線をそらした。


「いや、別に。ただ数字がややこしくて、目が泳いでただけだ」


優里は肩をすくめて笑った。


その笑みが、胸の奥に小さな棘のように刺さる。





この時の俺はまだ知らなかった。


優里の美しさに惚れぼれし、

理性で必死に耐えているこの感覚こそが、

計算や支配欲ではなく、純粋な愛という名の病に、

もうすでにとっくに夢中になっていたことなんて……。






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