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第7話/現実は虫だらけダンジョン

 社会不適合者で人と上手く接することができない僕の唯一の取り柄は有り余る魔力と種類の豊富な魔術だ。

 血統と幼い頃の鍛錬のおかげで魔力は大抵の人よりかなり高い自信がある。

 が、そのメリットを上回るレベルで社会不適合者なのだから、本当にどうしようもない。

 回復屋や運送屋などの、接客を含むような仕事は絶対にできない。


 そう、最初から僕にできるような仕事は一つしかないのだ。

 野良のダンジョンを踏破してはコアを破壊して間引く、探索者だ。

 世界が平和になった今、自然に発生する野良のダンジョンは理性のない凶暴なモンスターを産みだしかねない脅威として恐れられている。

 しかしダンジョンコアさえ破壊してしまえば、そこにいるモンスター達も供給されていた魔力が尽きてほとんどが死ぬ。そしてダンジョンの形を維持しているのもコアの魔力なので、どんなに見栄えのいいダンジョンだとしてもすぐに砂の城のように崩れて土に還ってしまうのだ。

 まだダンジョンに潜ったことはないが、母は元ダンジョンマスターだ。その息子である僕がダンジョンを恐れるわけにはいかない。

 だからこそギルドで依頼を受けるような普通の探索者ではなく、ダンジョンコアの破壊をメインにする探索者を目指そうと思ったのだ。

 そして決心が揺らがないうちに、僕は母に宣言した。

「僕、探索者になろうと思うんだ」



 そこからは話が早かった。

 感激した母によるダンジョン講座を毎日みっちりと受け、復習を兼ねて魔術を一通り学び直した。

 心配したイオスとグリムも付いてきてくれることになり、今更心の準備が出来ていないとは言い出せないまま時は過ぎていった。

 そして現在。



 ダンジョンに潜るようになってからはや一週間。

 なんとか吐き気を堪えながらグリーンキャタピラーを倒し、半泣きになりながら魔石を抉り出せるようにはなっていた。

 正直吐きすぎてかなり痩せてしまったが、慣れるまでは仕方がない。

 まさか初心者向けのダンジョンが虫パラダイスだなんて、考えたこともなかったのだ。


 生前のゲームでなら何も考えずに剣でぶった斬っていたデカい虫達。

 まさかこんなにも感触が生々しく、匂いがキツイものだとは思わなかった。

 まだ体液の少ないアースアントはマシだ。だがいちいちブチュッ、プチッ、と音を立てて表面の分厚い皮が破れ、中からドロリとした生臭い腐った土のような匂いを発してくる、クソデカ芋虫ことグリーンキャタピラーは本当に地獄だった。

 正直ムカデやゲジゲジなんかの体液もツンとくるような刺激臭でキツいし、日に日に心の中の何かと共に嗅覚が死んでいくのが分かった。


 体液で汚れれば多少嫌そうにはするものの、イオス達が普通に戦っているのがいまだに信じられない。

 こんなクソみたいなダンジョンはさっさと爆破でもして埋め立ててしまいたいが、ダンジョンコアを破壊しない限り何度でも蘇ってしまう。

 まだ見つかったばかりの小さなダンジョンだからと母に勧められてこの場所に決めたが、もっと精神的にマシなところはなかったのだろうか。

 そこまで考えて、母が虫全般平気だったことを思い出す。

 そうか、だから息子の僕も平気だろうと思っていたんだな……。

 まあ僕も実際に戦ってみるまでは虫モンスター程度なら問題ないと思っていたし、実力的にはなにも問題はなかったのだ。

 まだ一週間しか経っていないから辛いだけで、一ヶ月も経てば無心で倒せるようになるのかもしれない。


 一人にするのは不安だからとついてきてくれたイオスとグリムには感謝してもしきれない。

 ずっと居候を続けるわけにはいかないとか、少しでも獣人が住む地域から離れたかったとか、他にも理由はいろいろあったのだろうが。

 それに泣き腫らした顔で魔石を持ってギルドに行くたびに冷やかされる僕を、毎回庇って慰めてくれるのは彼女達だけなのだ。

 情けないと思ってはいるが、それでも彼女達が心の支えだった。


「早くここのダンジョンコアを壊して別のダンジョンに行きたいね」

 焚き火を囲みながらぽつりとこぼした僕に、イオスが気まずそうに口を開く。

「一般的な低層階のダンジョンは虫系のモンスターが中心らしいし、慣れる方が早いかもしれないな」

「えええ……」

「一応、地域によってモンスターの種類が微妙に違うそうだ」

 アースアントかレッドアントかの違いだが……。

 ゴニョゴニョと気まずそうに呟かれた言葉に目の前が暗くなる。

 ダンジョンに挑む限り、これからも虫と戦い続けなければいけないのか……。


 ぬるま湯のようだった日常が走馬灯のように脳裏をよぎる。

 何も考えずやりたいことだけを毎日やれていた、あの幸せな日々。

 前世での傷を癒すには十分だった、優しい家族と幸せな毎日。

 この世界では16歳が成人とはいえ、もう少しだけ家にいてもバチは当たらなかったんじゃないだろうか。

 そもそも挑戦すらしていないが、もしかしたら今の僕なら会社に所属して働くことだって出来たかもしれない。

 ……いや、多分無理だ。

 生まれ変わっただけで全てが変わるなんて思えないし、僕は成長することができたかもしれない期間をただただ前世の傷を癒すためだけに費やしてしまった。

 魔力しか取り柄がなく人間としてなんの成長もしていない僕には。

 やっぱり人とろくに話す必要もなく、自分のペースで働けるこの仕事しかない……!

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