第6話/周りに主人公いすぎ
そんな最悪の顔合わせからしばらくして。
怪我は治ったものの、行く宛がないらしい彼女達はとりあえずうちに住むことになった。
半獣人のイケメン……もといイケメン♀の名前はイオス。獣人の少女はグリムというらしい。
一緒に暮らしていくうちに見慣れたのか、今では母や僕の笑顔を見ても二人の顔が引き攣ることはない。
「ユーツ、おはよう」
二人と住むようになってから、昼過ぎまで寝過ごしては一日を無駄にするようなことが減った。
サッとカーテンを開けられ、どんよりとした曇り空から注ぐ薄ぼんやりした光が目に刺さる。
「目が……目がーー!!」
定番と化した冗談を言っても、イオスは顔色ひとつ変えずに僕の布団を剥ぎ取る。
「朝食の準備は出来ているので、着替えたら来てくれ」
「はぁーい……」
そうして一緒に暮らしていくうちに、世間話の一環として少しずつ彼女達の事情が明らかになっていった。
母も僕もコミュ障であり、イオスも口下手な方だったのでだいぶ時間はかかったが。
僕の母が統治しているこの土地・ヴィオランティアでは、主に母の意向により魔族と獣人族が仲良くしてるが、獣人族の住む地域ではそうでもないらしい。
特にイオスのような獣人と魔族のハーフは半端者として見下されていて、扱いも悪いらしく。
その時点で逃げ出してもおかしくないなと思ったのだが、ヴィオランティアに逃げてきた本当の理由はグリムの正体にあったそうだ。
久しぶりに帰ってきた父には一発で見抜かれていたが、グリムは神獣様とやらの覚醒遺伝であり、その力を恐れた有力者から殺されそうになったところをイオスが助けて一緒に逃げてきた。らしい。
なにそれ、この物語の主人公って僕じゃなかったの?
これでイオスが男だったら、グリムをヒロインに完璧な主人公になっていたに違いない。
顔に傷があることを気にしているが、イケてる顔にイケてる傷は主人公としてのチャームポイントだろ。
内緒だが、一度だけ真似して顔に同じ傷を描いてみたことがある。まじかっけぇ。主人公なの?
詳しく話を聞いていったらそれだけで小説とか書けそうだな、とぼんやり思いながら、人生に深みのあるイケメンってすごく良いなと痛感した。
逆に僕はどうなんだろうか。
母と父は元魔王領のダンジョンマスターと勇者パーティーの聖騎士という、それだけでまた物語が書けそうな関係性だ。
そしてその息子、長男は父の後を継いで聖騎士に。
次男は聖騎士を引退した父を支えて共に会社経営。
長女はその会社で製品開発。
そしてそして、三男である肝心の僕といえば……。
いい歳をして秘密基地で一人魔法を練習しているだけの、ニートである。
皆して人生を充実させるな!
いや逆にこんなに皆立派なら、一人くらいダメでも許されるのではないだろうか。
父には会社を手伝わないかと誘われているが、正直に言って僕は前世と同じく社会不適合者だ。
最初はなんとなく上手くいっても徐々にダメさがバレていって、最後には足手纏いになってしまい、居辛くなってしまうのだ。
何度も前世で味わった感覚が忘れられず、お腹が痛くなってしまう。
異世界転生したからと言って、自分が社会で上手くやっていけるようになったかというと、正直全然そんなことはないのだ。
僕がまだ少年と言える年齢だった頃。見回りの仕事に興味を持って参加してみたことがある。
最初のうちは優しくしてもらえたし、僕も他の人のようにやっていけるのだと思い込んでいた。
しかし時間が経つうちに、チェックポイントを忘れてしまったり伝言を伝え忘れたりとミスが重なり、気付けばやんわりと辞めるように説得されていた。
だから母は僕にはなにも言わない。黙って僕がしたいことをさせてくれる。
多分母も同じような気質を持っているのだろう。
昔は世界を呪っていたという母は、魔王に力を示して自分の領を手に入れた。
けれど世界が平和になった今、同じことをするわけにはいかない。
いつか母が引退するときに跡を継ぐことはできるかもしれない。
でもそれまであとどれくらいニートのままで暮らすのだろうか。
美人な女の子達と一緒に住みながらニートなんて、息苦しくて仕方がない。
かっこいいところを見せたい、自分をよく見せたいという気持ちがどうしても湧いてくる。
モテたい! モテたい! モテたい!
世界はとてつもなく広いらしいし、旅でもしていればいつか僕のことを好きになってくれるような女の子とも出会えるのではないだろうか。
最悪グリムを大切に育てて僕のことを大好きな女の子に……とも思ったが、さすがに人間としてあまりにもダメすぎるのではと思い直した。
そもそもグリムは小さすぎてそういう目では見れない。
それに僕は包容力と理解力のある女の子が好きなのだ。
母のように僕を理解してくれる女の子。もしくは情けない僕の手を優しく引いてくれるような女の子。
だいぶハードルが高くなってきた気がするが、夢は大きい方がいい。
そのためには、このまま家に居続けてはいけない。
そうだ、今度こそ僕も独り立ちするんだ!!




