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第5話/笑顔の素敵な似た者親子

 その場であらかた傷口を塞ぎ。二人を抱えながら浮遊魔法を使って急いで帰宅した。

 その後は母の独壇場だった。

 怪我をした獣人を見た母は血相を変え、二人を客室へと運び込むなりすぐに僕へ席を外すように言った。

 女の子もいるから気を遣ったのだろうか。

 壁の向こうからぶつぶつと呪文を唱える声が聴こえる。


 安心すると脚の力が抜けてきて、その場にへたり込む。

 よく見れば自分の手や服も血塗れだ。

 血の匂いで咽せそうになり、よろよろと立ち上がる。

 とりあえず着替えて、母が出てくるのを待とう。

 そう思った瞬間、バタンと勢いよく部屋の扉が開く。

「あらかた回復は済んだわ。あとは体を拭いて着替えさせてあげなくちゃ。お湯を沸かしてちょうだい。中を覗いてはダメよ」

「の、覗かないよ!」

 バタバタと忙しそうに走っていった母を見送りながら、台所へ向かう。

 いかにも魔女が使いそうな大きな瓶をかまどに置き、中に水を注ぐ。

「尽きぬ渇望を満たせ、ウォーターフォール」

 ドバドバと瓶の中に溜まった水を確認しながら適当に薪をくべ、火をつける。

「えーと、なんだっけ。まあいいや、ファイアボール」

 詠唱はあくまで魔法のイメージを強化するものであり、流派によって内容も違う。そもそも魔法を使うイメージさえ完璧にできていれば省略もできるのだ。

 小さな火の玉でジリジリと薪を焼きながら、桶と手拭いを用意する。

「ウォーターボール。ウォーム、ウォーム」

 桶に張った水を熱魔法で温め、一旦部屋に戻って手拭いで自分の顔や体を拭き始める。

 手早く体を綺麗にし、服を着替えて台所に戻ると、瓶の中もちょうどいい湯加減になっていた。


「母さん、お湯が沸いたよ」

 客室の扉をノックすると、中から入ってくるようにと返事が返ってくる。

「リビテーション」

 たっぷりとお湯が入った瓶を浮かしながら、そっと扉を開ける。

「ありがとう、ユーツちゃん。瓶はここに置いておいてちょうだいね」

 珍しく袖を捲ってふぅふぅと息を切らし、額の汗を拭う素敵なママン。

 見た目に反して母はとても愛情深い。特に、身内と獣人族のためなら運動不足の体に鞭を打って頑張れるのだ。

「いつもの戸棚におやつが入っているから、もう少しお部屋の外で待っていてちょうだいね」

「うん、母さんも無理はしないでね」

「あらあら、うふふ。ありがとう」

 ニチャリと歪んだ聖母のような笑顔を浮かべる母を背に、また扉を閉める。

 そのまま台所へ向かい、母の分もおやつと飲み物を用意する。

 そしていくらも経たないうちに、疲れ切った表情の母がのそのそと台所へと入ってきた。


「母さん、お疲れ様。一緒におやつにしよう」

「あら、待っててくれたの? ありがとうねユーツちゃん。じゃあ、いただきます」

「いただきます」

 ニチャニチャと恥ずかしそうに笑いながら、母は僕の向かいに座ってクッキーに手を伸ばした。

「そういえばあの子達はどうしたのかしら」

「ああ、なんか怪我をして秘密基地に隠れていたみたいだから連れて返ってきたんだ。すぐ気絶しちゃったからまともな会話はしてないんだけど」

「まあ、優しいのね……! それにしても獣人と半獣人があんな怪我を負うなんて、森に凶暴なモンスターでも発生したのかしら」

「ええ…」

 凶暴なモンスターと聞いて改めて身震いする。

「心配しなくても大丈夫よ、後で皆で見回りに行くからね。こう見えて私だって強いんだから」

 ニチャァ、と安心させるような笑みを浮かべる母を見て、僕は今更ハッとした。

 いつまでもこのまま母を頼り甘えてばかりいていいのだろうか。

 兄や姉はとっくに家を出て自立しているというのに。

「僕も……一緒に行くよ!」

 甘いクッキーをサクサクと噛み締めながら、母の方をしっかりと見る。

「で、でも危ないかもしれないわよ?」

「大丈夫、僕だっていつかは独り立ちしなくちゃいけないしね。そのためにも練習はしておきたいんだ」

「ユーツちゃん……! 分かったわ、一緒に頑張りましょう……!」


 そう、いつかは僕も独り立ちをするかもしれないのだ。

 なんなら今日助けた子達の故郷とかを探しに一緒に旅に出るかもしれないし。

 なんならモテモテになっちゃって、ご両親に挨拶に行くことになっちゃうかもしれないし。

 なんなら一緒に探索者とかになったりしちゃうかもしれない。

 男の子なら誰でも一度は憧れる……けれど、一人では挑む勇気のない探索。

 でもきっと、素敵な女の子と一緒なら……きっと僕だって……!


 なんちゃって。そんな夢を見ていた日もありました。

 本当はなんとなく分かっていたのだ。

 自分の容姿は、あまり万人受けせず、好き嫌いがはっきり出る方だと。


 数日後、意識を取り戻した子達は、青白い顔でニチャニチャと笑う僕達に盛大に怯えていた。

「た、助けていただいてありがとうございます。し、しかし私達には何もお返しできるものがなく……」

「いいのよぉ、気にしないで。魔族と獣人族は手を取り合って仲良くしてるんだから。ね、遠慮しないでいいのよ」

 ニチャァァ、と母が笑みを浮かべる。

 小さな女の子がヒッと悲鳴を上げ、半獣人の背後に隠れる。

「あらぁ、怖がらせちゃったかしら……」

「……いえ、失礼な態度をとってすみません。なにぶんこの子は人見知りでして……」

 男か女かはいまいち分からないが、綺麗な顔をした半獣人が困ったようにぺたりとケモ耳を下げる。

「あらあらあらあら、別にいいのよ。うちの子だって人見知りなんだから」

 うふふ、と笑う母に釣られ、半獣人達の視線が僕へと集まる。

 そう、散々夢を見てはいたくせに、僕は完全に息を殺して空気に徹していたのだ。


「でもね、あなた達を見つけて連れてきてくれたのはこの子なのよ。こう見えて優しい子なの、誤解しないであげてね」

 ニチャァ、と母が褒めてくれる素敵な笑みを浮かべると、二人の顔が引き攣ったのが見えた。終わりである。

「……ありがとう。君がいなかったら、今頃私達はのたれ死んでいただろう」

 キリッと表情を引き締めて、半獣人が深々と頭を下げる。

「い、いえ、イヒッ、おっ、あ、いや、別にこれくらい……当たり前っていうか、ヒヒッ、なんか、別に、当然? だから……」

 早口キッッッッッッッッショ。

 我ながら本当にキツい。

 半獣人の顔が引き攣っている。悲しい。

「と、当然とは、素晴らしいお方ですね」

 にこりと笑ってフォローしてくれる半獣人。イケメンは心まで清らか。俺は死んだ。

 いや、イケメンじゃなくて美女かもしれないけど。

「そうなの、ユーツちゃんは素敵な子なのよ。ありがとう」

 ニチャニチャと母が照れたように笑う。ママン……本気でそう言ってくれる女性なんて、この世でママンだけだよ……。

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