第44話/ダーツ・ダーツ・ダーツ
ギルバートの合図を受けてダーツラビットの群れの様子を伺っていたイオスとグリムは、目配せをしながらちょうどいい位置を探す。
ハムハムと草を食べているダーツラビットは一角兎と比べて気持ち後ろ脚が大きい。しかし一番の違いは角の形状だ。
一角兎は竹のように節のある角をしていたが、ダーツラビットは先端近くに小さな返しが付いている。
ギルバートは木の盾に刺さったらなかなか抜けないのでその間に締めると言っていたが、確かにあれではどこに刺さってもそう簡単には抜けないであろう。もちろん人体に刺さっても。
自分なら多少刺されたところで問題ないが、万が一グリムがユーツが刺されたらと思うと恐ろしくなって来て、イオスはこの依頼を受けたことを少し後悔していた。
一角兎に比べてやたら依頼料が高かったのは王都価格だからだと思っていたのだが、そうでもないのかもしれない。
囮を買って出てくれたギルバートに感謝しながら追い立てる先を確認し、グリムに合図を送る。
ガサガサとわざと大きな音を立たせ、盾に剣を打ち付けながらダーツラビットの群れに飛び込む。
ギィッ、ヴーッ、と警戒と驚愕の声を上げながら逃げ惑う群れを、グリムと共にギルバート達の方へと追い立てる。
何匹かは振り返って攻撃しようとするものの、空を切るようにショートソードを振り回して見せると悔しそうに群れに戻っていく。
二人に道を塞がれて逃げ惑うダーツラビットの行先には大楯を二枚持ったギルバートと小盾を持ったユーツが道を塞ぐように立ち塞がっている。
逃げ道を失ったダーツラビット達は武器を装備したイオス達ではなく、丸腰のギルバートに向かって全身で飛びかかっていく。
「おっと」
ドズン、ドッ、バス、ドダダッ、と音を立てながらダーツラビット達がギルバートの盾に突き刺さってゆく。
ある程度の数が刺さったところで地面に置いておいた予備の盾に持ち替え、ギルバートはさらにはダーツラビット達の猛攻を防ぐ。
ユーツはその間に放り出された盾に突き刺さったダーツラビット達にトドメを刺してゆく。
「ギャッ! いってぇ……」
首を絞めようとしたところで指を噛まれて涙目になったりしつつも黙々と作業をこなす。
何匹かはギルバートの方へは行かずにグリム達に襲いかかる。
「とあーー!!」
上手く木を障害物にしながら素早く動き回り、グリムはダーツラビット達の顎を蹴り上げる。
「刺されないように気を付けろよ」
何匹か刺さった木の小盾を振り回しながら、イオスは土を蹴り上げてダーツラビットの視界を奪う。
ヴー、ヴッと怒りの声を上げるダーツラビットの顎を盾で殴り抜きながら、何匹かの首を切り落とす。
最後の一匹をグリムが蹴り殺した所でようやくダーツラビット達がいなくなり、安心したユーツはその場にへたり込んだ。
「安心するのはまだ早いぞ、ユーツ。これらをマジックバッグに入れて早くこの場を立ち去らねば、群れを離れていたダーツラビットが戻ってくる可能性もあるからな」
「うええ、こんなに倒したのにまだいるの……?」
マジックバッグには生きている物は入らないが、死体なら物と同じように出し入れができる。
首を切ってしまったものだけ袋に入れて、ユーツの一番大きなマジックバッグに皆で急いでダーツラビットを放り込む。
確かにギルバートが何匹になるか分からないと言っていたが、それでも多すぎるダーツラビットにドン引きしながら、ユーツはマジックバッグの蓋を閉めた。
ギルドの解体屋のカウンターにダーツラビットを山積みにしたものの、向こうは手慣れたように手早く魔石を取り除くと、番号札を手渡してユーツ達を追い払った。
「相変わらず解体屋の皆は少し気難しいが、仕事が早くて素晴らしい」
ユーツはギルバートのこういう「良いところ」を探すのが上手いところは尊敬している。
ギルバートだけじゃなく家族全員がそうであることが誇らしくもあり、自分もこうなりたいとは思っている。
しかし現実問題として自分に余裕がないと心の広さを保てない。
自分以外の家族は全員手に職があり、それなりに高給取りだ。
そこまで考えたところで、家族にも許せないラインはあることを思い出す。
それは家族や仲間を侮辱されることだ。
狩り中のメリリの言動を受け入れるべきかと思ったが、そうなるとこうして休日のギルバートと狩りに行くようなことは出来なくなっていたに違いない。
たまたま出会って仲間になってくれたイオスとグリムがこんなにも信頼できるのは、たまたま二人がいい人だったからだ。
世の中にはそうじゃない人の方が多いし、ずっと一緒にいられる仲間を探すというのは本来とても難しいのだ。
ギルドのカウンターに魔石の山を築いて依頼を完了し、魔石を換金する。
そのまま四等分にしたものを渡そうとしたところでギルバートに辞退される。
「私は休日に弟達に付き合っただけさ。魔石は三人で分けるといい」
「そう言わずに受け取って欲しい。そうでないと次からはこちらも遠慮して頼み辛くなってしまうからな」
遠慮するギルバートの手に無理矢理銀貨を握らせ、イオスは困ったように微笑む。
「……そ、そうか」
珍しく頬を赤らめ照れたように微笑むと、ギルバートは慌てて手を引っ込めた。
そのままソワソワしているギルバートをよそに、三人でそこそこ潤った財布を見てにっこりと微笑む。
「これだけあると好きなご飯食べても余裕だね」
「ファミレスには行けそうにないがな。屋台街でなら好きなものを選べるだろう」
「やったー!! ごはんごはん!!」
「兄さん、行くよー」
「あ、ああ……」
このまま四人で探索が出来たらいいなと思うけれど、ギルバートは聖騎士だ。
今日みたいに休日に付き合ってくれるだけで十分ありがたいのだ。
そうは言いつつも何かやらかしてクビにでもなってくれないかな、と思いながらユーツは兄の背中を押して屋台街へと急いだ。
これにて第一部完結となります。
ここまで読んでくださった方がいましたらありがとうございます。少しでも楽しんでいただけてたら幸いです。
物語やキャラクターに愛着はあったものの、それを全く物語に活かすことができず非常に実力不足を感じてしまったので、次また別の小説を書くことがありましたらもっと楽しんで読んでいただけるようなものを書けるように頑張ります。
お読みいただきありがとうございました。感謝……。




