第42話/さらばメリリの回
ギャンッ! ブヒィッ!!
と鳴き声を上げながら泥沼に脚を取られて転んだファンゴボアを槍頭でぶっ叩きながら、メリリがユーツを怒鳴りつける。
「オラッ、グズ!! マホーだよ!! ま・ほ・う!!」
「かかかカオスカース! カオスカース! カオスカース!」
「オラッ! トドメ刺すぞッ!!」
「とどめぇっ!!」
メリリの掛け声に合わせて三人が一撃でファンゴボアの首元を狙って仕留める。
「おーおー、やれば出来んじゃん!!」
ギャハッ、ギャーハッハッハッ!!
「なんだか物足りねぇなあ!! もう一丁ファンゴボア仕留めに行くかァ? どーーするよグズ共!!」
身の丈ほどの槍をぶん回しながら狂ったように笑い声を上げていたメリリは、そこでようやく固まるユーツとイオスに気付いた。
「……あっ、あああああ!! ままままたやっちゃいましたあああ!!! ご、ごめんなさあああああい!!」
涙をボロボロこぼしながら急に土下座しだしたメリリに、ユーツ達はさらに困惑したように表情を引き攣らせる。
「ごめんなさい!! ごめんなさい!! 私熱くなっちゃうと本当にダメになっちゃうんです!! だから仕事も続かなくて……あああああごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
「いや……まあ、そうなんだ……。あ、熱くなっちゃうタイプなんだね…」
あは、あはは、と不器用な愛想笑いを浮かべるユーツに、ますますメリリの涙腺が緩む。
「実力も知識も問題ないのだが、その……、言葉遣いは少しグリムの教育に悪影響が出そうだな……」
ファンゴボアを吊るして血抜きをしながら、イオスは困ったように眉を下げる。
「えへへ、えへ♡ あのー、今後はなるべく気をつけますのでぇ……♡」
「そうは言っても、今まで直せていないものが急に直るとは思えないがな」
「そーーーなんですよねぇ……」
血抜きを手伝う手際もかなり良い。本当に狩り中の言動だけが難点なのだが、あの調子では連携が難しいこともあるだろう。それにとにかくグリムの教育に悪い。
こんなにかわいくて実力のある探索者がなぜ暇をしているのかという謎が一気に解けて、ユーツ達は困ったように視線を合わせる。
「今回はたまたま他のモンスターが近くにいなかったから問題なかったが、あのように大きな声を出したら危ないのではないか?」
「はい……。そのせいで依頼を失敗しちゃうこともたまぁに有りますねぇ……」
「…………」
きゅるるん、と瞳を潤ませながら上目遣いをされるが、ユーツは完全にドン引きしていた。
もしも脚を引っ張るようなミスをしてしまったら、確実に自分も槍頭でぶっ叩かれていたに違いない。
「悪いのだが、継続は無しにしてもらいたい……」
「えーーーん、またですかぁ!? ムリィィィィィィ!!」
びええ、と泣き出したメリリに、グリムがオロオロしながら二人を見上げる。
「え? メリリお姉ちゃんなんでダメなの? 足も速いし、ぶたどもをバシバシ叩いてて凄かったよ?」
「グリム……。奴らはぶたどもではなくファンゴボアだ。間違えて覚えてしまうと他の人に伝わらなくなってしまうので気をつけるんだぞ」
「でも……」
「今回メリリさんに教えてもらったから、次は僕達だけで挑戦してみようよ。グリムも強いし、僕は三人で十分だと思うけどなぁ?」
「そう、かも……! お姉ちゃん、ごめんね……」
「いえ、大丈夫ですぅ……。悪いのは私なのでぇ……」
メリリに涙目でちらりと見上げられ、ユーツがびくりと後ずさる。
「えーーーん、ドン引きですぅ!!!」
びええええん、と大泣きするメリリをどうしたら良いのか分からず、泣き止むまでユーツとイオスは呆然と見つめていた。
「モンスターの死体を解体屋さんに預けるとぉ、先に魔石を取り出して渡してくれるのでぇ、それをギルドのカウンターに持って行って依頼の完了を報告します♡ そういう感じで一定の評価と信頼を積み重ねてると、ギルドから昇進のお話をされることがあるのでぇ、……って、もうシルバーランクですしこんな説明はいらないですよねぇ♡ じゃあ魔石を換金して配分しちゃいましょうか♡」
気まずさを誤魔化すためにかやたら饒舌に喋るメリリと無言のユーツ達。
「あのぉ、継続の依頼はムリっぽいですけどぉ、私は単発の依頼も受けているんでぇ……、もし困ったらまた呼んでくださいねぇ……♡ 実力には自信があるので……♡」
えへ、へへへ、と歪んだ笑顔を浮かべながら去っていくメリリを見送り、ユーツ達はようやく安心したようにため息をついた。
「お疲れ様。大変だったみたいだな……」
屋敷に戻って執務室へと顔を出すと、すでにメリリから説明を受けていたらしいエリオットが眉間を押さえながら出迎えてくれた。
「なぜあのような優秀な人材が暇をしているのかと少し不思議には思ったが、まさか理由があったとはな……」
「あはは、そうだね……」
完全にトラウマになってしまったのか笑顔が硬いユーツに、エリオットが眉を下げる。
「失礼かもしれないと思って聞かなかったのが良くなかったな。次からはきちんと調べてから紹介するとしよう」
申し訳なさそうに頭を下げるエリオットを慰めながら、ユーツは気まずそうに口を開く。
「それなんだけどさ、しばらくは三人で出来る範囲で依頼を受けたりしてみようと思ってるんだ。だから無理に探してくれなくて良いよ」
「大丈夫なのか……?」
「メリリさんのおかげでイメージは掴めたし、無理そうな依頼を受ける気はないから大丈夫じゃないかな。父さんの屋敷に住んでるから当分宿代はいらないしね……」
メリリの言う通りモンスターの肉や毛皮は地方とは比べ物にならないくらいに高い値段で売れたものの、物価の高い王都に住み続けるとなると今回の倍は狩らないと暮らしていくには厳しい。
何もなければもう少し狩りをしても良かったのだが、今日はもうとてもじゃないがやる気になれなかったのだ。
「ここもある意味実家なのだし、当分などと言わずにずっと住んでても良いんだぞ。父の後は私が継ぐからな」
「一生の話してる? それはちょっと……」
「なぜだ?」
「僕もいつかは母さんの後を継ぎたいから、そうなったらヴィオランティアに帰るよ」
「……なるほど、それは仕方ないな」
いつまでも父の屋敷で世話になり続けるわけにはいかないしいつかは宿に移ろうと思っていたのだが、問題がなさそうでユーツは少しだけホッとする。
「まあ何十年後の話になるかも分からないけどね」
「下手したら純魔族の母の方が長生きかもしれないしな」
「それは考えたことなかったかも……」
将来は安泰だと勝手に思っていたが、寿命のことをすっかり忘れていた。
やっぱり狩りで日銭を稼ぐよりもダンジョンコア破壊を目指して一攫千金を狙う方が賢いのでは、とユーツは再び悩みだした。




