第41話/メリリの独壇場
王都をぐるりと囲む高い門から出てしばらく。
低かった草むらが足首の高さになりまばらに木が生えている場所で周囲を警戒しながらメリリが口を開く。
「ファンゴボアはスピード自体は早いんですがその分曲がるのが苦手なので、基本的に直線に気をつければ問題ありません♡ 多少賢いので罠にかけるのは少ぉし難しいんですけど、囮さえ用意しちゃえば馬鹿みたいに突っ込んでくるので簡単に仕留められると思いまぁす♡」
「そうだな、盾持ちの私が囮になろう。ユーツに泥沼を用意してもらって、メリリ殿とグリムでこちらへ誘導。泥沼に脚を取られたところでユーツの呪術魔法で動きを抑えてもらい、三人で仕留めるのが無難だろう」
「そうですねぇ、余裕があったら皆でタコ殴りにするよりも喉を一突きにするか首をサッと切り落としてもらった方が肉が痛まないし高価で売れますよぉ♡」
「そうなのか、ではなるべくそうできるように挑戦してみよう」
言動はともかく、メリリはゴールドランクの探索者だけあって知識も経験も豊富そうだった。
「血抜きは先にするのか? それとも三匹捕まえてからまとめてやるのか?」
「あー、王都ではギルドに解体屋さんがあるので、そこに全部任せちゃっていいと思いますよぉ。もちろん自分で全部やった方が安上がりなんですけど、面倒だしせっかく人数がいるならその時間で一匹でも多く狩った方が絶対お得ですっ♡」
一匹ではなく三匹の狩猟依頼を選んだのはそういうことだったのかと気付き、イオスは感心したように頷いた。見た目とは違い案外好戦的なのも好印象で、真剣に話に聞き入っていた。
「ギルドに全部預けちゃうならファンゴボアの肉は食べられなさそうだね」
完全に蚊帳の外なユーツがそう呟くと、グリムが不満そうに口先を尖らせる。
「えー、グリム食べたいー!」
「もちろん食べられますよぉ♡ ギルドがファンゴボアを卸すお店に行けばいいだけですから♡ 解体作業をすることなくお肉を食べれるんですから楽ちんですよねぇ♡」
人差し指を頬にくっつけながらウィンクするメリリに、グリムが瞳を輝かせる。
「ほんと? 絶対食べたい!」
「いいんじゃないですかぁ? 街中の酒場や食堂はちょっと高いんで悩ましいですけど、屋台街にもファンゴボア肉を挟んだ焼き物の出店があったはずですし、そっちだと食べやすいと思いますよぉ♡」
「メリリ殿……」
「王都で長く探索者生活を続けたいなら、こういう知識は欠かせませんからね♡」
感動したような表情で見つめてくるイオスにピースサインを返し、メリリは少しだけ照れたように笑う。
「それよりも、そろそろ罠を仕掛ける準備をした方がいいかもしれませんね♡」
背中に背負っていた槍を素早く装備し、槍先で木の根元を指し示す。
「キノコを食べた痕跡があります。蹄の形からしてファンゴボアに間違いありませんね。下手したら二、三匹いるかもしれませんけど、なるべく一匹ずつ仕留めていきましょう」
槍の先端で地面の葉っぱを払ってファンゴボアの足跡を三人に確認させ、メリリは足跡の方向へと目を向ける。
「森に入られると仲間を呼ばれる可能性もありますし、その前に手早く済ませたいですね。私とグリムちゃんで様子を伺ってきますので、ここら辺に罠を仕掛けちゃってください」
行こう、とハンドサインを出し、メリリ達は静かに走り出した。
「思っていたよりもかなり優秀そうな人だな」
二人の後ろ姿を見つめながら感心したようにため息をつくイオスに、固まっていたユーツが慌てて意識を取り戻す。
「なんか……すごいね。あんなにかわいくて賢くて強いのに、大人気アイドルじゃないのが不思議だよ……」
「それほど王都のアイドルとやらが皆すごいのか、単純に存在を知られていないだけなのかもしれないな」
「ヴィオランティア出身を売りにしてるっぽいけど、ヴィオランティアってあんまりアイドルのイメージないもんね」
「言われてみればそうだな……」
ヴィオランティアといえばいつでも薄暗く、気難しい魔族が多いのが一般的なイメージだ。
四天王に仕えていたとなれば確かに強さの証明にはなるものの、それで印象を悪くしては意味がないのではないか。
「かわいいのにもったいないなぁ……」
「……そうだな。でも今は狩りに集中しよう」
「だね。罠はここら辺でいいかな」
「うむ」
「アーススラッジ」
二人が去っていった方向から真っ直ぐ、木と木の間のちょうどいいスペースを泥沼に変える。
「このままだとバレてしまうかもしれないから、上に葉っぱを被せておこう」
周辺に落ちていた葉っぱを適度に被せて泥沼をカモフラージュし、その先にイオスが立つ。
「そっちに行くよ!!」
準備が終わってユーツが草むらに隠れたところでグリムの声が響き、ファンゴボアが飛び出してくる。
「げっ、二匹もいるじゃん……」
「オラオラオラオラ!! 逃げろ逃げろ豚共がよォッ!! アヒャッ! ヒッ、ヒャーッハッハッハッ!!!!」
三匹目のファンゴボアの後ろから信じられないような罵声が飛んできて、イオスとユーツが硬直する。
「ぶたどもーーー!!」
「ヒャッハァ!! その調子だぜガキィ!! 間抜けな豚共を追いたてろォ!!」
なるべく無傷でと言っていた割にファンゴボアの尻に槍頭を何度もぶち当てながら、メリリが笑い声を上げる。
一瞬意識が飛んでしまったが、イオスは慌てて剣と盾を構える。
「こちらだ!! こちらに来い!!」
「もっとデケェ声出せデカ女!!」
「こ、こっちだ!! 来い!!」
出来る限りの大きな声を出し、イオスは必死に盾に剣を打ち付ける。
「お上品ぶってんじゃねーーーよ!! もっとだドブス!!」
ドカッとファンゴボアの尻を槍で叩き、メリリが吠える。
「あわ、わあ、あわわ、あっあっ……」
もうすぐファンゴボア達が泥沼にたどり着くというのに、ユーツは現実を受け入れられずにブルブルと震えていた。




