第40話/王都のギルドは巨大
王都に来て約一週間。
ようやくギルドへと足を踏み入れたユーツ達は、そのあまりの大きさに絶句していた。
「あはっ♡ やっぱり田舎からくると王都のギルドってすごすぎてびっくりしちゃいますよねぇ〜。見てくださいよ、魔石の換金所にぃ、モンスターの解体屋にぃ、食堂や酒場まで完備されてるんですよ!」
じゃじゃーん、と効果音を付けながら各施設を紹介してくれるメリリについて歩きながら、三人はポカンと口を開けていた。
まず扉からして規模が違う。両開きの大きな扉を潜り抜けると目の前には広いカウンターと、ずらりと並んだギルド職員。
右を向けば大きな掲示板にランク毎の依頼がびっしり。
左を向けばあらゆる店に群がる探索者がびっしり。
ガヤガヤとうるさく賑わう人々の声や視線に耐えられず、コミュ障のユーツはイオスの背中に隠れた。
「あはは♡ ユーツさんってヴィオレッタ様に似てますからねぇ、やっぱり見られちゃうんでしょうか?」
「ヴィオランティアじゃあるまいし、ヴィオレッタ様の顔を知っている人はそう多くないだろう。むしろ目立っているのはメリリ殿の方では」
「あれあれあれ〜? メリリちゃん目立っちゃってますぅ? やっぱりホンモノ美少女のオーラは隠せませんねぇ♡」
チラチラと見てくる探索者達に手を振りながら、メリリはくるりと回ってイオスにウィンクを送る。
「それより日帰りできる範囲でちょうど良さそうな依頼を探そう。私達はそんなに狩りの経験があるわけではないし、おすすめがあったら教えて欲しい」
「そーですねぇ〜。ユーツさんの魔法を活かすならファンゴボアとかゴアベア、イオスさんの装備ならダーツラビットかファンゴボア辺りですかねぇ。グリムちゃんは何を追っても良さそうですね♡ ちなみに私もなんでも行けますっ♡」
ぶいぶいっ♡とWピースをするメリリに困惑しながら、イオスは王都で買った初心者ガイドブックを開く。
「以前いたところにはいなかったモンスターも結構いるんだな。メリリ殿の話とパーティー編成を考えるとファンゴボア辺りが適切だと思うが、どうだろうか?」
「結構個体差がありそうなのが怖いけど全員と相性が良さそうだし、いいんじゃないかな?」
ファンゴボアは以前にいた町にも生息していたし、狩猟候補にも上がっていた。ユーツが盾を持つようになった点では以前より相性が良くなったとも言える。
「ファンゴボアって食べれる?」
「食べれますよぉ♡ ちょぉっとだけ野生みが強いんでぇ、きちんと臭みをとってアク抜きすればですけど♡」
「ふーん、美味しい?」
「美味しいですよぉ〜♡ 脂身が重たくないからメリリちゃんのお気に入りです! ダーツラビットも全身の身がギュッと引き締まっててお肉がムッチムチで食べ応えがあって美味しいんですけどねぇ……♡」
ごくりと喉を鳴らしながらグリムがイオスとユーツを見上げる。
「……ファンゴボアかな」
動きが素早く、遠くからでも全身で突撃するように飛びかかってくるダーツラビットはユーツとの相性があまり良くない。もう少し盾に自信があれば挑むのも有りだったが、今はまだ早い。
「ではファンゴボアにしよう」
何か言いたげなグリムの目を見ないようにしながらイオスが依頼書を真剣に見つめる。
「この人数で一匹ってのも味気ないですし、とりあえず三匹くらいにしときましょっ♡」
言うが早いかファンゴボア三匹の依頼書を手に取ったメリリがカウンターへと歩きだす。
「えっ、あっ……」
とりあえず一匹で試したかったユーツが慌ててメリリを追うが、何も言いだせずにオロオロと受け付けを見守っていた。
「はーいっ! 受け付け完了でーす♡ それじゃあ早速行きましょっ♡」
ルンルンで帰ってきたメリリの後ろにしょんぼりしたユーツがついてきて、イオスは慌てて顔を逸らした。
「行こーー!!」
メリリの隣に並んで嬉しそうに飛び跳ねるグリムを見守るように、後ろからユーツ達が続く。
「言いたいことがあるならきちんと言った方がいいぞ」
「いや、なんか僕なんかが無料で話すのは申し訳なくて……」
「なんだそれは」
イオスには笑われたが、前世でそれなりにアイドルやVtuberを応援していたユーツとしてはメリリの存在があまりにも眩しすぎた。
頭のてっぺんからつま先まで完璧にかわいい女の子が、身の丈ほどの槍を持っている。
そんなゲームのキャラクターみたいな人間と同じ次元にいられるなんてまるで夢のようで、無意識にお財布からお金を出したくなってしまう。
「ううっ……。アイドルと一緒に探索者なんて普通お金払わないと普通無理なのに……!」
ユーツは気付いていないが、メリリはユーツの父がお金を出してこっそり募集した探索者である。
エリオットの秘書をしていたイオスはそれを知っているが、口止めをされているので何も言えない。
今は試用期間ではあるのだが、ユーツの状態を見る限り継続は厳しいかもしれない。
しかしユーツと同じヴィオランティア出身で外見に偏見もなく、コミュニケーション能力も高めとかなり評価が高かっただけに、そう簡単に判断はできない。
それに試用期間の終了と共にメリリ側から辞退される可能性がないとも言い切れない。
自分では仕事があまりないとは言ってたが、アイドルをやっている以上いつでも探索に行けるとは限らないのだ。
イオスから見れば人当たりも良くとんでもない美少女であるメリリが仕事に困っているとはとても思えないが、王都は物価も高いし定住しようと思うと難しいのかもしれない。
このまま王都を中心に生活するならメリリも仲間になってくれるかもしれないが、また地方に行くかもしれないとなったら話は別だろう。
イオスやグリムのように何のこだわりもなく黙ってユーツについてきてくれるような仲間はそう簡単に見つかるものではない。
頭に浮かぶギルバートの顔をどうするべきか分からず、イオスは悩みながらメリリ達の後に続いた。




