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第4話/秘密基地への訪問者

 昨夜も寝落ちするまで魔導書に夢中だった僕は、昼過ぎごろにゆっくり起きだした。

 同じようにあくびをする母と一緒に遅い朝食を食べ。

 その日もいつものように魔導書や軽食を愛用のマジックバッグに入れて近所の森に出かけた。


「迷える混沌よ、足跡を示せ。フィールドサーチ」

 自宅の近所とはいえ、森には大小さまざまなモンスターや近隣住民や近隣住民がいたりする。

 うっかり出くわしてしまったら大変なので、毎回しっかり探索魔法をかけて避けて通るようにしているのだ。


 案の定、入り口からほど近く薬草類が豊富なエリアに三人ほど魔族がいた。

 家の手伝いもせず一人でのんびり遊んでいるところを見られるのも気まずいので、迂回ルートから目的地にまで魔法の範囲を広げると。

 目的地である秘密基地に、半獣人とモンスターの気配が引っかかる。


「うわ、なんだこれ……」

 秘密基地は母の力も借りて念入りに隠蔽魔法で隠してあるのでそうそう見つかることはないはずだが、外側からは見えないだけで存在はしている。

 偶然転がり込まれたか、隠蔽魔法を解除されてしまったのか。


 解除されたとなると厄介だが、半獣人はそこまで魔力が高くないはずだ。その代わりに力は桁違いに高いのだが。

 一緒にいるモンスターにもよるが、外側を破壊された可能性の方が高そうだった。


(このまま自分だけで見に行って大丈夫か?)

 防犯ブザー代わりにと母から渡されたネックレスを左手で触る。

 禍々しい銀細工に嵌め込まれた小さな石はかなり貴重なものらしいのだが、いざとなったらこれで一度だけ自分が触れたことのある誰かをこの場に召喚できるのだ。

 誰かと言っても、コミュ障の僕が呼べるのなんて家族くらいのものなのだが。


 いや、その前に一旦様子を見てみよう。

 母も僕と同様に家族以外とはまともに視線も合わせられないコミュ障だが、なぜか獣人とは頑張ってコミュニケーションをとっている。

 もしも母と交流のある獣人族の誰かがモンスターに襲われて倒れていたら、一刻も早く助けに行くべきだろう。

 痛い思いや病気はしたくないので、回復系の魔法は何よりも入念に勉強してきた。

 何か困っていたとしても力になれるだろう。


 ぎゅっと拳を握りしめて、秘密基地へと走り出す。

 正直に言って、ぬるま湯のような人生に初めて降って湧いたアクシデントに胸が高鳴っていた。

 もしかしたらかわいい女の子とかがいて、ここから恋や冒険が始まってしまうかもしれない。

 旦那様とかご主人様とか呼ばれちゃって、盲目的に愛されつつも気付いていない鈍感主人公になれるのかもしれない。

 異世界転生だと気付いた時点でずっと脳内に浮かんでいた光景に胸が高鳴る。


(く、苦しくなってきたな……)

 普段そんなに運動することもなかったので、すぐに脚がガクガクと震えて汗が噴き出る。

 浮遊魔法で楽に移動したくなってしまうが、将来のことを考えればある程度の筋力は必要だ。

 よたよたと早歩きをしながら、なんとか秘密基地の前へにたどり着いた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ。はぁーーーー、ひーーー、ふぅ、ふぅ、ふぅ」

 よく見ると入り口には擦りつけたような血の跡があり、血の気が引いていく。

 ぬるま湯のような平和な村に住んでいたおかげで、大きな怪我とは無縁だったのだ。

 治癒魔法が使えると言っても、せいぜい指を切っただの火傷をしただの、その程度の怪我しか治したことがない。

 ヒールなんかでどうにかなる傷なのだろうか。

 

 震えながら扉に手を掛けようとすると、中にいる獣人が威嚇し出した。

「入るな!!」

 ウウウ……と地の底から響く獣のような鳴き声に、思わず漏らしそうになる。

 半獣人か、モンスターか。どちらにしても敵意を向けられたのは初めてだった。

「あの、あのっ、僕、敵ではありません!」

 見えるわけもないのに、必死で身振り手振りを交えながらぺこぺこと頭を下げる。

 染みついた日本人のサガは、数年生きた程度では消えない。

「僕、あの、ヴィオランティアの、ヴィオレッタの息子です! か、回復魔法とか、解毒魔法とか、出来ます!!」

「ヴィオレッタ様の…?」

 母は元魔王領であるこの地元、嘆きの監獄・ヴィオランティアというダンジョンの元マスターだ。

 昔は勇者相手に戦ったりもしたらしく、コミュ障でありながらも母は地元の有名人だった。

 生まれたときにはすでに平和な世界だったので僕にとってはいまいち信じられないのだが、実際にこうして母の名前を出すと警戒を解いてもらえることが多いのだ。


「……分かった、入ってくれ」

「はい! 失礼します!!」

 自分の秘密基地なのに、背筋を伸ばしぺこりとお辞儀をしながらそっと扉を開ける。

 その瞬間ムワッと生臭い匂いが漂ってきて、思わず顔を顰める。

「あれ、モンスターは……? あっ、け、怪我、治します!!」

 床に広がる血の池、あらぬ方向に曲がった脚。

 人の目を見れないコミュ障の視界に真っ先に入り込んできたグロい光景に、思わず駆け寄る。

「ありがとう。しかし私より先にこの子を治してもらえないだろうか」

 ずりずりと這いずるように移動したその人は、背後に隠していたらしい小さな女の子の背中を押す。

 どう見てもその人の方が酷い怪我に見えるのだが、そう言われては断れない。

 目立った外傷はないと思ったが、獣人にしては顔色が悪い。

 その女の子の腕に触れ、集中しながら魔力を探ると、毒と呪いの気配を感じた。


「毒は僕でも解毒できそうですが、呪いの方は母さん……ヴィオレッタ様、に、見せた方がいいかもしれません。大丈夫、浮遊魔法で家まで運びますよ」

「そうか、ありがとう……」

「え、うわっ!!」

 大丈夫と聞いて気が抜けたのか、その人はふらりと揺れたかと思うとその場に倒れて意識を失ってしまった。

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