第39話/新たな選択肢
「どーもこんにちは〜♡ このたびはぁ、ご指名ありがとうございま〜す! 嘆きのヴィオランティアからやってきたぁ、悪魔で天使なアイドル!? メリリ・ムリちゃんでーす♡」
水色のツインテールにはピンクや紫のメッシュが入っており、服装は白いジャージセーラー服。
髪と同じ色の水色のミニスカートでくるりと回ってWピース。
「か、かわいい……!!」
「ありがとうございまーす♡」
ぴすぴす♡ と言いながらWピースをしているとんでもない美少女に、ユーツは飛び上がるようにして拍手をした。
髪の毛と同じ水色をした長いまつ毛に、ピンクと紫のオッドアイ。
まるでアニメから飛び出してきたようなビジュアルを前に、ユーツはすっかり興奮していた。
ワーワーと歓声を送られてテンションが上がってしまったのか、メリリはかわいいポーズをいろいろと繰り出しながら最後にチラシを差し出した。
「ファンクラブもあるんで、良かったら見てくださーい♡ サイン付き握手券は一枚500ゴルドぽっきりでーす! メリリで推し活、しちゃおっ?」
「さ、サインください!! あっ、でも書くもの無いかも……。何か買ってきます!!」
ユーツが飛び上がらんばかりの勢いで扉を開けて部屋を出て行くと、その場は沈黙に包まれた。
「……君が約束をしていたメリリ・ムリ嬢ということで合っているのかな? 失礼だが、念のためギルドのランク証を見せていただいてもいいかな」
「……あ、はい。メリリ・ムリと申します。こちらがランク証になりますのでご確認ください。魔王様が倒される前のヴィオランティアでは一応ヴィオレッタ様前の門番をしておりまして、腕にはそれなりに自信があります」
ユーツがいなくなりそういう雰囲気ではないと悟ると、メリリはピシリと姿勢を正して首から下げていたランク証を差し出す。
「はい。確かにゴールドランクのようですね、こちらは返却します、ありがとうございます。武器は背中に背負っている槍で?」
「はい、少し前までは現在のヴィオランティアでツアーのガイドもしておりましたので、シルバーランク探索者の引率も可能です」
「なるほど、ダンジョンコアを破壊に挑戦した経験はありますか?」
「ありません。ゴールドランクまでの探索者でも破壊できるレベルのダンジョン討伐依頼は一般には出回りにくいと言われていますし、実際にまだ見つけたことはありません」
「ありがとうございます。それでは試用テストとして一度ユーツ達と共にギルドでなにか適切なクエストを受けていただいてもよろしいですか?」
「かっしこまりましたぁー♡ ……じゃなくて、了解いたしました。クエストが終わり次第またこちらで報告ということでよろしいでしょうか」
「それでよろしくお願いします。また、パーティーメンバー間での円滑なコミュニケーションのためであれば口調は先ほどのものを主に使っていただいて大丈夫です」
「かぁっしこまりましたぁー♡ メリリ、全力でぇ、頑張りまーすっ♡」
るんっ♡ と自分で声に出しながらウィンクをしてきたメリリに、エリオットとイオスが固まる。
再び無言が支配する執務室で、バタンと大きな音を立てて扉が開かれる。
「し、色紙!! 色紙買ってきたんで、サインお願いします!!」
えへ、えへへ、と笑いながら色紙と共に500ゴルドを差し出してきたユーツに、メリリがにっこりと笑顔を浮かべる。
「ありがとうねっ♡ お名前はユーツくんで良いのかな?」
「はい! よろしくお願いします!!」
キラキラと瞳を輝かせているユーツに微笑みながら、メリリはサラサラとウサギモチーフのかわいいサインを書き上げる。そして最後に「ユーツくんへ♡」と書き足した色紙をユーツへ手渡す。
「はい♡ ユーツくん、ありがとうねっ♡」
感動で震えるユーツの手を両手でしっかりと握り、メリリはにっこりととびきりの笑顔を浮かべた。
「あるっ、ありっ、あ、ありがとうございます!!」
手を離された後もぶるぶると震えながら色紙とメリリを交互に見つめるユーツを見ながら、エリオットがため息をつく。
「やはりイオス嬢はいなくても大丈夫なんじゃないのか?」
「いや、それとこれとは関係ないから……」
翌々日。
しっかり仕事納めを済ませたグリムとイオスの前に、ド派手な女の子を連れたユーツが現れる。
「えー、お姉さんだれー? 一緒に行くの?」
「そぉでーす♡ お姉さんはメリリ・ムリだよぉ、よろしくねっ♡」
「メリお姉さん、おしゃれでかわいい!」
「ありがとう♡ グリムちゃんも赤い頭巾とヒラヒラのブラウスかわいいね♡」
すっかり打ち解けた二人に安心しながら、イオスはギルドへ向けて歩き出す。
「メリリ殿はゴールドランクだが、あくまで今回は私達のランクに合わせた依頼を受けたいと思っている。報酬と難易度を確認し、王都での生活が可能かどうか見極めなくてはならないからな」
「それなんですけどぉ、ユーツくんがいれば案外王都での生活には困らないと思いますよ♡」
「どういうことだ?」
「まあギルドで依頼を見れば分かるんですけど、王都は人口も食堂も多いし、傷の少ないモンスター肉の需要がかなりあるんですよぉ。だからユーツくんみたいな呪術魔法持ちは、ダンジョンコアなんかよりも狩りの方で断然重宝されるはずなんですよねぇ」
「……え?」
「あっ、あくまで王都での話ですよ! 地方だと畜産が盛んだからモンスター肉の需要も低くて生活するには厳しいですし」
今までユーツの家族から提案された探索者としてのターゲットはダンジョンコアの破壊だけであった。
地方にいたときは気まぐれに狩りをしてみたこともあったのだが、王都では狩りが盛んだとは誰からも聞かなかった。
「もしかしてうちの家族って、皆お金持ってるからこのこと知らなかったのかな……」
「かもしれないな……」
ここにきて突然降って湧いた新しい選択肢に、ユーツの足元がぐらついた。




