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第38話/地元出身アイドル

「そうか、やはりダメだったか」

 ユーツが商品開発部を辞めてきたと聞いても、執務室の椅子に浅く腰掛けているエリオットは顔色一つ変えずに頷いた。


「元々あの場所は勇者様がいてもイグニカしか続いていない特殊な部署だからな。時間の問題だっただろう」

「やっぱり僕には探索者しかないのかも……」

「それはそれでいいんじゃないか? お前が意外と粘っていた間に、手配していた同行者が見つかった。ギルバートのやつも同行したがっていたがな」

「同行者? いや、いきなり知らない人と探索は厳しくない?」

 嫌そうに顔を歪めるユーツに、エリオットは一枚の紙を差し出す。


「何これ? 嘆きのヴィオランティアから舞い降りた、悪魔で天使なアイドル。メリリ・ムリ……?」

「元々母の部下だったのだが、今は王都で探索者兼アイドルをしていたらしい。といってもアイドルとしての仕事は殆どなく、母からの依頼にすぐに食いついてきた。一応ゴールドランクの探索者でもあるしギルバートの代わりにはなるだろう」

「なんでこんな明るそうな人を……? せめてもうちょっと根暗そうな人がいいんだけど……」

「何を言っているんだ……。ユーツが根暗なのに相手も根暗だったらコミュニケーションが取れないだろう」

「うっ……」

 当たり前のように身内に弱点を突かれてユーツが呻く。


「とにかく、そのメリリ・ムリ嬢が合流するまで数日ある。改めて王都観光をするなり家で休むなり、ゆっくり過ごしてくれて構わない」

「分かったよ……。で、イオスとグリムはどうしてるの?」

「グリム嬢は子供用の施設で体操コーナーを担当している。明日で一区切り付くだろうから、一緒に観光でもするといい」

「ふーん、すごいな。で、イオスは?」

 あのグリムが仕事をしているとは思わなかったので純粋に感心しつつ、ユーツは嫌な予感がして目を細めた。


「…………」

「ねぇ、イオスは?」

「……僕の秘書兼ボディガードをしてくれている。今は使いの最中だ。最悪イオス嬢がこのまま就職したとしても、そのメリリ・ムリ嬢がいるから問題ない」

「いやいやいやいや、イオスがいないと僕もグリムも困るから!」

「僕だって困る! 君も知っての通り、僕は兄弟の中で一番弱い。だからこそ以前から仕事ができて僕を守ってくれるような秘書が欲しかったんだ!」


 恥ずかしげもなく胸を張って言う兄に、ユーツは口をパクパクさせる。

 エリオットは兄弟の中で一番魔力が低い。腕力でさえ少し鍛えた今のユーツには勝てないかもしれない。

 その代わり頭は兄弟の中で一番キレる。

 その兄が、プライドを捨てて子供のようなわがままを言っているのだ。

「いや……でも、イオスはグリムと一緒にいないと……」

「ではグリム嬢も残ればいい。ユーツが気にいる同行者が見つからなかったら、ギルバートでもイグニカでも好きな方を連れて行けばいいだろう。僕が説得してみせる」

 二人ともおとなしく人に従うタイプじゃないし、無理だろ。と言いたかったのだが、エリオットの目が本気過ぎてユーツは言葉を返せなかった。


 このままグリムを連れ回すのは良くないのではと思っていたし、自分と違ってイオスはここにいても仕事にありつける。

 そうなるとここに置いていく方が彼女達のためになるのかもしれない。


「……仕送りを、してもいい」

 ついに金の話をしだした兄に動揺しながら、ユーツは部屋の中をうろうろ歩き回る。

「いや勝手にお金で解決していい問題じゃないでしょ。イオス達にも確認しないと」

 正直仕送りはありがたい。けれどそんな簡単にイオス達と離れることを決められるわけもない。


 返事を濁してうろうろしている間に、執務室の扉がガチャリと開く。

「ユーツ、来ていたのか」

 書類の束を手にしたイオスが部屋に入ってきて、エリオットの前にどさどさと置く。

「ここにいるということはやはり仕事は合わなかったのか。ならば私も辞めるときが来たな」

「「え!?」」

「ん?」

 急にハモった二人にイオスは不思議そうに首を傾げる。


「グリムも飽きてきたと言っていたし、探索者に戻るのではないのか?」

「イオス嬢、できればここに残って僕達と働いてくれないか? ここで僕の秘書として働けばグリム嬢を学校に通わせることもできるし、不安なら給料に多少色を付けても構わない。ユーツだってファミレス目当てにたまに帰ってくるかもしれないし、ギルバートも遊びに来やすい。……それに、僕には君の存在が必要なんだ……!」

 まだ事情を把握していないイオスに近付き、エリオットはマシンガントークを繰り広げて勧誘する。


「気持ちはとてもありがたいんだが、私とグリムはユーツに助けられた恩をまだ返せていない。そのユーツが就職したならともかくまだ探索者をするというのなら、私達もついて行くのが道理だろう」

「そ、そんな……」

 ユーツと似た表情でがっくりと肩を落とすエリオットに、イオスは眉を下げる。

「今はまだ就職するわけにはいかないが、もしもユーツが就職するとなったらそのときは私も一緒にお願いしたい」

「イオス嬢……!」

「どうだかね……」

 やはりもう自分に就職は無理なのではと諦めてきたユーツは、二人のやり取りを話半分に聞きながらソファに座る。

「王都の依頼がどんなものかも分からないし、明日ギルドに行ってみない?」

「いや、イオス嬢には王都を出るギリギリまでここで働いてもらう!」

「でもいい感じの依頼があればしばらく王都にいるかもしれないよ?」

「それは……、そうかもしれないが……」

 ぐぬぬ、と顔を歪めるエリオットに、イオスがますます困ったような顔をする。

「ユーツ、ご家族に意地悪をするのはあまり良くないのではないか? ギルドに行くだけなら仕事の前か終わった後でも十分だろう」

「どうせ辞めるって決まってるのに、何日もずるずる仕事してたら辞め辛くなっちゃうんじゃないかなって気を使ってるんだよ」

「そうなのか?」

 それも一理あるのかもしれないと悩み出したイオスに、エリオットが必死に首を振る。


 だんだんとカオスになってきた状況をぶち壊すように、扉がコンコンとノックされた。

 来客かもしれないとエリオットが襟を正し、ユーツが慌ててソファから立ち上がる。

「どうぞ」

 エリオットがいつもの落ち着いた表情で声を掛けると、扉がゆっくりと開き、ド派手な女の子がくるりと回転しながら入室してきた。


「どーもこんにちは〜♡ このたびはぁ、ご指名ありがとうございま〜す! 嘆きのヴィオランティアからやってきたぁ、悪魔で天使なアイドル!? メリリ・ムリちゃんでーす♡」

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