第33話/素人でも即戦力
「ユーツ、久しぶりだね!! 私の会社で仕事を探してみたいというのは本当なのかい!?」
ユーツの父、レメディオル。元聖騎士であり、現在はユウシャ・コーポレーションという名の会社を経営している。
見た目や口調はギルバートと瓜二つであり、初めてレメディオルを見たグリムは怯えながらイオスの背中に隠れた。
「まあ……、僕でも出来る仕事があれば、それもありかなって……」
「素晴らしい!! 探索者も人の役に立つ素晴らしい仕事ではあるが、やはりどうしても危険だろう? 他の兄妹達と同じように、ユーツもこの会社で仕事が見付かればと思っていたんだ!!」
ファミレスでの食事後、ギルバートに導かれるままに父の屋敷へとやって来たユーツは、早速後悔していた。
ぎゅうぎゅうに抱き締められて頭を撫でくりまわされ、高い高いをされる。
「もうそこまで小さい子供じゃないんだけど……」
「久しぶりなのだから許してくれたまえ。それに私にとってユーツはいつまでもかわいい子供なのだよ」
はあ、とこれみよがしにため息をついてみるが、父には何も通じない。
高い高いをしながらその場でぐるぐると回り出す。
「父さん……。今日はユーツのパーティーメンバーもいるのだし、恥ずかしいからそこら辺でやめて貰いたいんだが」
「ああ、失礼した。今日はお客さんも一緒だったね」
いつまで経っても玄関先で戯れている父に痺れを切らし、ユーツのもう一人の兄が顔を出す。
「わーーっ! え? え? ギルがもう一人増えた!」
イオスの後ろで飛び上がったグリムを見て、もう一人のギルバートことエリオットが困ったように眉を下げる。
「さっさと部屋に入って自己紹介を済ませよう。このままでは僕達全員ギルバートだと思われてしまう」
「ははは! それもそうか。では応接間へと案内しよう!」
「騒がしくてすまないね、それでは行くとしよう」
本物のギルバートが固まるイオスとグリムの背中を押し、全員でエリオットが出てきた部屋へと入っていく。
「さて、それでは私から自己紹介をさせて貰おう。私は見た通りユーツの父であり、ユウシャ・コーポレーションという会社を経営している、レメディオル・ヴァレンタインだ。我が社はまだまだ人手が足りないのでね、働き手はいつでも歓迎している! ……ではなくて、君達はユーツの友達なのだろう? 是非ゆっくりしていってくれたまえ! もちろん、働き手としても歓迎だがね」
「僕のパーティーメンバーを勝手に引き抜かないでもらえる?」
レメディオルとエリオットに挟まれ、肩身の狭そうなユーツがボソリと呟く。
「いや。ユーツが働いている間、私達も是非そちらで働かせていただきたい」
テーブルを挟んでユーツ達の向かい側。ギルバートとグリムに挟まれたイオスが頭を下げる。
「もちろん構わないとも。そちらは確か……」
「こちらの女性はイオス・アイオライト嬢。私と肩を並べるほどの堅実で素晴らしい騎士なのだ。そしてこちらのお嬢さんはグリム嬢。どうも私達が似ているから混乱しているようだ」
珍しく客人に対して距離の近いギルバートを不審そうに眺めながら、エリオットが口を開く。
「仕方ない。僕達は父に生き写しな上に双子だからな。……僕の名前はエリオット。エリオット・ヴァレンタイン。ギルバートの双子の弟であり、ユーツの兄だ。よろしく頼む」
「ごらん、お嬢さん。よく見るとエリオットは眼鏡をしているし、瞳の色は母やユーツに似て黒いんだ。そして私と父では年齢が違う。ほら、本物のギルバートはこの世に一人しかいないのさ!」
「……ほんとだ!」
そう言われてようやく彼らがわずかに違うことに気付いたのか、グリムは安心したように肩の力を抜いた。
「このような子供はまだ働かなくても遊んでいて構わないんじゃないか?」
「グリムはよく食べるし、残念ながら遊ばせてあげるほど僕達のお財布に余裕がないんだよね……」
ポツリとつぶやかれたユーツの言葉に、レメディオルとエリオットが目を丸くする。
「そんなに困窮しているのなら、なぜ私を頼ってくれなかったのだ!」
「今すぐに仕事を斡旋しよう。行くぞ、ユーツ」
「え!? ちょっと待って! 僕達ダンジョンからすぐ来たんだよ!? 今日くらいはゆっくりさせてよ!」
「私もすぐ働かせていただきたい」
「そ、そんな!!」
両脇から腕を取られて持ち上げられ、逃げ道を完全に失ったユーツの前にイオスまで立ち塞がる。
「グリムもお仕事するー!」
「君はまだ働かなくていいのだよ。さあ、このギルバートと共に観光にでも行こう。ついでにユーツ達の仕事ぶりを見学するのもいいかもしれないね」
ずるずると引きずられていくユーツと三人の後ろ姿を見つめるグリムの肩をポンと叩き、ギルバートはにこりと微笑んだ。
「いらっしゃいませー……。あっ、はい、あ、」
「800ゴルドになります、ありがとうございます!」
素人が飛び込みでいきなり働けるところといえば、よくて売り場しかない。翌日観光で来ようと思って楽しみにしていた屋台街。
しかも勇者プロデュースの屋台で、いい匂いのするたい焼きを目の前に。
なるべく接客はしたくないとごねてイオスに押し付けたユーツは、もたもたしながらたい焼きを箱に詰めていた。
「やあやあ、頑張っているね」
「ギルバート……」
「いらっしゃいませ。美味しいたい焼き、お一ついかがでしょうか?」
顔色一つ変えずに接客するイオスに慄きながら、ユーツはのこのことやってきたギルバート達を眺め回す。
「それでは二ついただこう。私はカスタードにしようかな。グリムは何がいいのかな?」
「じゃあグリムも同じの!」
「はい、ありがとうございます! カスタード二つ。400ゴルドになります」
「はい、カスタード二つでーす……」
「ありがとう! なんだかんだ言いつつも立派に仕事をこなしてるようで安心したよ。夕食は共に家で食べるとしよう。それまで頑張ってくれたまえ!」
「わーい!」
口の周りをチョコでベタベタにしながら、嬉しそうにチョコバナナを食べるグリム。ギルバートはたい焼きを二つ受け取り、一つをグリムに手渡す。
空いた手でグリムの口元を拭いてやりながら、ギルバートは二人に手を振って屋台街に消えていった。
「ギルバートめ……」
見学に来られた恥ずかしさと遊んでいることへの妬ましさが混じった複雑な視線を向けながら、ユーツがぐぬぬと唸る。
「私達が働いている間、グリムの面倒を見てくれているのだぞ。感謝しなければ」
ファミレスで見た値段に恐れ慄いていたイオスとしては、あのようにグリムに自由に屋台街で買い食いをさせてもらっている時点で頭が上がらない。
自分達では同じことをしてあげられないことに気付いていないユーツは不満そうにしているが、イオスは心の底からギルバートに感謝をしていた。
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