第31話/ユーツのユウウツ
「と、言うわけでこの後は元の町には戻らないで兄さんと一緒に王都に行こうと思うんだけど、どう?」
狼煙を上げて迎えにきてもらった馬車に揺られながら、ユーツは若干引き攣った表情で切り出した。
「ユーツがそれでいいなら別に問題ない」
「どこでもいーよー」
元々イオスとグリムには帰る場所も目的地もない。獣人達のいる地域でなければどこに行こうが同じだった。
もちろん最終的にはどこかに根を下ろすことになるかもしれないが、今はまだ考えるつもりもないらしい。
心のどこかで誰かが反対でもしてくれたら断る口実になるな、と思っていたユーツはがっくりと肩を落とした。
「しかし王都ともなれば宿代もバカにならないのではないか? 今までのようにのんびりは出来ないぞ」
「そこに関しては問題ない。私達の父の邸宅があるのでそこに住むといい。客室はもちろん、私の部屋を使ってくれても構わないし、確かユーツの部屋も用意してあるはずだからな。……ああ、私は普段教会に住んでいるが、休日には遊びに行くので安心してくれたまえ」
「いや僕の部屋があるとか初耳なんだけど……」
「いつかユーツの気が変わって会社や王都に興味を持つ日が来るかもしれないと父は信じていたのさ。そうでなくても家族なのだから遊びや観光に来るかもしれないだろう?」
プレッシャーを与えないようにか軽い感じでおどけて見せる兄に、ユーツは言葉を返せなかった。
等身大の、ありのままの自分を理解してくれている母とは違い、たまにしか会えなかった兄や父はまだユーツに対して過剰な期待をしている。
そんなに立派な人間ではないと言えば悲しい顔をして、ユーツの良い面を見つけようとしてくれるのだ。
ユーツにとっての良い面といえば、母と共に見つけた「魔力の高さ」しかないというのに。
「馬車酔いでもしてきたか?」
「……少し」
「ああ、すまない。話の続きは今度にしよう」
「少し横になるといい」
「ごめん……」
顔色の悪さに気付いたイオスに促され、マジックバッグに頭を乗せて横になる。
頭の中でいろいろな思いがぐるぐると巡り、考えがまとまらない。
階層の浅いダンジョンコアを破壊するお仕事なら自分にも出来るだろうと思っていたが、今回の探索でそれも甘い考えだったのかもしれないと思い知った。
自分達三人で挑めるのは精々一階しか生成されていないダンジョンだけで、それ以上に挑もうと思ったら絶対に仲間が必要になってくる。
仲間?
イオスとグリムが付き合ってくれているだけでも奇跡だというのに、これ以上どうやって仲間を見つけると言うのだろうか。
もしもイオスがギルバートを受け入れたら一緒に着いてきてくれるかもしれないが、それはなんとなく違う気がする。
二人を見ているとなんとなくモヤモヤしてくるが、その理由も気持ちも上手く言葉にできない。
イオスもギルバートも家族として好きだ。それなのに、なぜか気に入らない。
(何様だよ……)
ギルバートは教会のエリート、聖騎士だ。言動はともかく性格はかなり良いしポジティブで誰にでも優しく、言い寄られて嫌だと思う女性の方が少ないだろう。
イオスだって口数はあまり多くなくて表情が読めないけれど、とても優しくて強くて素晴らしい人間だ。
聖騎士が半魔族と、という偏見はあるだろうが、兄は父のように聖騎士を辞めてもいいと言っている。
けれど何かが気に食わない。もしかしたらイオスを奪われてしまうかもしれないという幼稚な執着心があるのかもしれない。
グリムなら分かってくれるだろうかと視線を向けると、ギルバートに飴で懐柔されて嬉しそうに鼻歌を歌っている。
(現金なやつめ)
それならいっそギルドで新しい仲間でも募集してみるか、そもそもダンジョンコアの破壊は諦めて低階層で魔石を集めて暮らしていくか。
前にいた町でそうしていたように、狩りをしたり採取をするのもいいかもしれない。
そうなると王都のような家賃の高いところでは暮らしていけないが、また田舎の方へ行けばなんとか暮らしていけるだろう。
考えているうちに胃が痛くなってきて、ユーツは小さくため息をつく。
これらは全て現実逃避だ。
これから王都へ行って、自分は父の仕事を手伝うのだ。
あくまでも就職ではなく、前世流に言えば「職業体験」。
そう、あくまで職業体験であって、就職すると決まったわけではない。
父の会社は主に「勇者が発明した商品」を制作している。
異世界転生したユーツとは違い、勇者は異世界転移をしてきた元青年だ。
つまり、ユーツが前世の知識を活用して何かを発明するという手は使えない。
マヨネーズも醤油もすでに商品化されており、生まれたときから当然のように食卓に上るくらいには普及している。
しかも勇者は魔王を倒して人間と魔族間の友好関係を築いた偉人だ。
彼がいなければ「勇者パーティーの聖騎士」と「魔王直属の四天王の一人」が出会うことはなかったし、結婚もしなかっただろう。
つまり、ユーツがこの異世界に転生して幸せなニート生活を満喫して来れたのも彼のおかげと言える。
そう。勇者に文句をつけようにも、一つも付けるところがないのだ。
どうにか誰かに因縁をつけることで現実逃避しようと試みてみたが、どう考えても誰も悪くはない。
身内は彼らなりにユーツを愛してくれているし、ユーツも彼らを愛している以上、結局頑張ってそれに応えていくしかないのだ。
(仕事って、何をやらされるんだろうな)
仕事を見つけてきたから、と知らない親戚の会社に放り込まれることに比べたらよっぽどマシなのは分かっている。
それでも自分が役立たずだとバレるのが怖くて仕方がないのだ。
三人が王都観光について話しているのを聞き流しながら、ユーツはキツく目を閉じた。




