第30話/夢の残骸
「あの最後は本当に素晴らしかった。全身に毒を浴びても一切怯まず剣を手放さなかったあの姿は、私が今まで見てきたどんなものよりも美しかった」
「この先どんなものを見たとしても、君以上に美しい存在には二度と出会えないだろう」
「ああ、こんなことを考えてしまうなど、私は聖騎士失格なのかもしれない。けれど今なら父が聖騎士を辞めてまで母と結婚をした理由が分かる。もしも君がこの手を受け入れてくれるのならば、私も聖騎士を辞めて生涯君だけを愛すると誓おう」
回復するなりよろつく体を無理矢理起こして跪き、イオスへとマシンガントークを始めたギルバートにユーツは大きなため息をつく。
「悪いんだけど、そういうのは後にしてもらえる?」
「我が弟よ、まさか妬いているのかい? 安心したまえ、何が起ころうとも私はずっと君の愛しい兄でいようとも。もちろんイオス嬢がこの手を取ってくれたとしても、決して彼女の自由を縛るつもりはない。これからも君達と探索を続けたいというのならば、是非私も供をしよう」
「いや、そうじゃなくてさ。さっさと魔石を取り出して、ダンジョンコアを壊してここから出たいんだよね」
イオスのショートソードでなんとかクイーンスラッジスパイダーの魔石をほじくり出そうとしているユーツとグリムに、今度はギルバートがやれやれとため息をつく。
「どうも君達にはまだ早い話だったようだ。仕方ない、話の続きは後にして、私も手伝うとしよう」
毒の原液を間近で浴びたせいでまだ気分が優れず青い顔で土壁に寄りかかるイオスへとウィンクをし、ギルバートもクイーンスラッジスパイダーの体をよじ登る。
「ほう、この階層にいるボスモンスターにしてはかなり大きな魔石だな」
「え、そうなの? まあ手強かったもんね。今回ばかりはちょっと終わるかもって思ったよ」
ユーツ達がなんとか露出させた魔石と臓器の間にショートソードを差し込み、ギルバートがするすると剣を滑らせる。
「上手い……」
「慣れればユーツにも出来るようになるさ」
取り外された魔石は綺麗な濃い紫色をしていて、三人は感心したように呻く。
「なんか宝石みたいだね」
「このレベルの色ともなれば宝石として加工するのも有りだろう」
「ふーん、なんか飴みたいで美味しそうだね」
じゅる、とよだれを垂らしているグリムに、ユーツが慌ててマジックバッグにしまう。
「食べ物じゃないからダメだよ。飴なら後でたくさんあげるから」
「うん……」
未練がましく見てくるグリムの視線を無視するように顔を逸らし、ユーツはクイーンの体から滑り落ちる。
「さて、ダンジョンコアの部屋に行かなくちゃ。イオスはそこで待ってていいからね」
「すまない……」
サーチをした結果ダンジョンコアが設置されている部屋には何もいないと判明しているものの、ユーツは全力で警戒しながらそろそろと扉を開ける。
「うわ、実家の宝物庫みたいだ……」
正確には宝物庫という名の物置だが。
雑多に物が積まれた部屋の中央に鎮座する大きめの白い台の上に、紫色の丸い水晶のような物が浮いている。
「これがダンジョンコア……?」
「えい!」
このまま持って帰ったらものすごい価値がつくのではないかと妄想しているユーツの横からグリムの手が伸びてきて、水晶体をバリンと叩き割る。
「え!? もったいない!!」
「ダンジョンコアを破壊するまでが私達の仕事だぞ?」
何を今更、と不思議そうな顔をしながら、ギルバートが割れたダンジョンコアを布袋に包んでユーツに手渡す。
「そのまま持って帰ったりはできないの?」
もったいない……と呟きながらマジックバッグにしまっているユーツに、ギルバートがますます不思議そうに眉を下げる。
「ダンジョンコアを外に持ち出したら、そこにまた新たなダンジョンが出来てしまうのだが、母に教わらなかったのかね……?」
「あー、そういえばそんなこと言われたかも……」
杖の飾りにしてもおしゃれかも……などの妄想が一瞬でおじゃんになり、ユーツはガックリと肩を落とした。
「念のため言っておくと、部屋に転がっている宝石や黄金の類もダンジョンコアから離れると土に戻ってしまうので、持って帰っても意味はないぞ」
「え!?!?!?」
宝物庫で拾った冠を被って杖を物色していたユーツが心底驚いた顔をすると、ギルバートは呆れたように腕を組む。
「例外として外からダンジョンに持ち込まれたものはそのまま残ったりはするが、大体はこのダンジョンで死んでしまった探索者達の遺品だ」
「あー……」
よく見ると謎の黄金コインの山の中に見たことのあるお金が混じっているし、やたら古びた剣や杖もそこら辺に置いてある。
「一歩間違っていたら私達の装備もここの仲間入りをすることになっていただろうな」
首元から教会のマークが描かれたネックレスをひきだし、ギルバートが目を閉じて何かを呟く。
高価な硬貨だけを狙って拾い集めながら、ユーツも探索者達の冥福をお祈りする。
「こういうことが起こらないようにギルドもランク制度を設けているのだが、今回のように想定以上に手強いモンスターが発生している場合もある。確かにこの仕事は人付き合いもないし魔法の得意なユーツには向いてるかもしれないが、他にもいろいろ試しても損はないのではないか?」
「え?」
「この探索が終わったら、一緒に王都に行かないか? 父の会社は手広くやっているし、何かしらユーツの興味を引くような仕事があるかもしれない」
「いや、でも、イオス達もいるから……」
「もちろん彼女達も一緒で構わないさ。いつでも人手不足のようだからね」
にこりと笑う兄の目は笑っておらず、真剣だった。
「そっ、か……」
正直に言えば社会に出たくないし、自分が会社に所属してまともに働けるとも思えない。
けれど真剣な表情で肩を掴んでくる兄の気持ちを蔑ろにすることなどできるわけもなく。
ユーツは硬い表情のままこくりと頷いたのだった。
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