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第27話/洗浄魔法は便利

「魔力の流れが分かりやすいようにお互い素手になった方がいいだろう。悪いが手袋を外してもらっても?」

「ふーん」

 ギルバートに言われるがまま手袋を外し、二人は手を差し出す。

「私の手のひらと手を合わせてくれたまえ。目を閉じて手のひらに集中するといい。それでは、準備はいいかな」

 随分ともったいつけるな、とユーツは薄目で兄を見つめる。

「こら、ユーツ。真面目にやらねば分からないかもしれないぞ」

「はーい」

 渋々ユーツが目を閉じたのを確認し、ギルバートが呪文を唱える。


「クリーニング」

 いつもより少し強めに魔力を込めた魔法は、ユーツとイオスの手から頭のてっぺんまでじわじわと熱を持って伝わり、そこから一気に爽やかな風のように足先まで吹き抜ける。

「おおおお~……」

 一瞬ゾワっとした感覚に身震いし、ユーツは納得したように頷く。

「なるほど、ちょっとイメージ掴めたかも」

「だろう? イオス嬢はどうかな?」

 逃げようとするイオスの手に指を絡めて引き留めながら、ギルバートが首を傾げる。

「……なんとなくは分かったが、自分が扱えるイメージが湧かない」

「まあイオスは今までエンチャント系しか魔法使ったことないもんね、仕方ないよ」

「それならイメージが出来るようになるまで、またこうして試してみよう。ダンジョン攻略まではまだ時間がありそうだからね」

「ダメでも最悪僕が覚えられそうだからなんとかなるよ」

「さすが、我が弟は優秀だな」

「魔法は好きだからね。やっぱり僕でも覚えられる可能性のあるものはなんでも覚えておきたいかな」

「ユーツならなんだって覚えられるだろう」

 ニチャリと照れたように笑う弟の肩をぽんぽんと叩き、ギルバートも満足そうに笑う。

「それでは次に汚れたときはユーツに頼むとしよう」

「上手くできるかは分からないけどね」

「きっと大丈夫さ。ユーツは私の自慢の弟なのだから」



 休憩後、すぐにユーツの出番がやってきた。

 階段を降りたところですぐに交戦になり、スラッジスパイダーとパラライズフラッグの体液で汚れてしまったイオスとギルバートが期待を込めた目でユーツを見つめる。


「じゃあ最初だし失敗したらまずいから、兄さんからね……」

「君は愛しの兄を実験台にしようというのかね?」

「僕自身は汚れなかったからね」

 口先では不満そうにしつつも笑顔で手を差し出してきた兄に、ユーツは杖を振って見せる。

「僕は杖があるから別に触る必要ないんだよね」

「そうだったな、残念だ」

 何が残念なんだよ、と苦笑いでツッコミつつ杖の先を兄に向けて呪文を唱える。


「クリーニング」

「……ふむ」

 サァ、と静かな風が吹いたかのようにギルバートの金髪が揺れる。

「やはりユーツは筋が良い。まさか一発で覚えてしまうとは」

「まあ、兄さんのおかげみたいなところもあるし」

 照れたようにゴニョゴニョ言いつつ、ユーツはイオスとグリムにも杖を向ける。

「ああ、イオス嬢には先程のように私が洗浄魔法を掛けよう。その方が感覚が掴みやすいだろうし」

「……いや、ユーツのも一度試してみたい」

「そうかい?」

 なぜか寂しそうに眉を下げる兄の顔は見ないようにしながら、ユーツは呪文を唱える。


「クリーニング、クリーニング」

「わー、すごい!」

「やはり私には無理そうだ」

 少しがっかりしたように肩を落とすイオスに、まあまあと慰めるように背中を叩く。

「僕が覚えたんだから大丈夫でしょ」

「そうだな、よろしく頼む」

 普段はイオスにいろいろなことを任せきりにしていたので、ユーツはようやく自分にも役割ができてホッとした。

「そう簡単に諦めなくても良いのではないかね?」

 などと未練がましく呟く兄の背中を押し、ダンジョンの奥へと進む。


「階段を降りたらどうなるかと思ってたけど、地下一階じゃあんまり一階にいたのと変わらないね」

「少しだけ手強くなってはいると思うがな」

「そうだね、少し体も硬くなっていたし、もしかしたら毒の類も少し効果が上がっているのかもしれない。たった一階とはいえ、引き続き注意をしながら進むとしよう」

 後方で魔法を打っているユーツには分からない微妙な変化があるらしい。

 そうなるとボスモンスターも強いのではと不安になってきてユーツの足取りが重くなる。


 クイーンアントは物量責めであり、アースアント自体は通常個体より弱かったのでなんとかなったが、もしもそれよりも強い女王個体が現れたら……。

 今回は芋虫系やムカデ系のモンスターがいないので吐かずに済んでいるが、またとんでもない形状の女王個体をお出しされたら泣き叫んで嘔吐してしまうかもしれない。

 兄にそんな姿を見られた暁には、もれなく家族全員に共有されてしまうに違いない。

 気分がどんよりと落ち込んでくるが、ダンジョンは待ってくれない。


 カサカサと虫にしては大き過ぎる足音が耳に入った瞬間、反射的に杖をそちらに向ける。

「アーススラッジ」

 いつも通り地面を泥沼に変えて体勢を崩そうと思ったが、相手はスラッジスパイダー。素早く糸を飛ばし天井からぶら下がって回避される。

「とおーー!!」

 身軽なグリムがすかさずアッパーを繰り出し、スラッジスパイダーをぶん殴る。

「エンチャント・フレイム」

 その隙にイオスが糸を切断し、背中から落下するスラッジスパイダーの腹部にグリムが全体重を乗せて両脚をめり込ませる。

 そのまま地面に落下し「ギイイイ!」と悲鳴を上げたスラッジスパイダーの首元を目掛け、両脇からイオスとギルバートが剣を振り下ろす。

 口元と首元をぶった斬られ、スラッジスパイダーはぶくぶくとヘドロのような泡を吐き、脚をガクガクと痙攣させて大人しくなった。


「怖いから死ぬときもっと大人しくスッと死んでほしいなぁ…」

 後ろで意味もなく構えた盾に隠れていたユーツがぼやく。

「なんだ今更……。大抵のモンスターはこうだろう」

 なんでもないことのように首を傾げて剣を鞘にしまうイオスを見ながら、ユーツは不満そうに洗浄魔法を掛けたのだった。

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