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第26話/マッピング

「ふむ、これは思ったよりも複雑かもしれないな」

 ユーツが簡単に記していた地図を確認しながらギルバートが唸る。

「嘆きのヴィオランティアもかなり複雑なダンジョンなのだが、そこも似たのだろう」

「通路の見た目がずっと似たり寄ったりで目印がないのもキツいね」

「じゃあじゃあ、壁に爪傷でもつけておく?」

「いや、多分私達が一周して戻ってくる頃には修復しているだろう。倒したモンスターの死骸も消えているしね」

「へー、ダンジョンってすごいんだね」

「そうだとも。だからこそ管理下にないダンジョンは放って置けないのさ」

 勇者が魔王を倒して和平を結んで以降、正式に存在を許され管理されているダンジョンは七つだけ。嘆きのヴィオランティアもその一つだ。

 もちろんそれ以外にもダンジョンは存在するのだが、それらは全て「野良ダンジョン」としてギルドから正式にコアの破壊の依頼が張り出されている。

 すでに大きく育ってしまったダンジョンのコア破壊に挑むのはランクがゴールド以上の探索者や元勇者パーティーなどの実力者のみとされ、それ以下のシルバーランク探索者はモンスターの間引きを手伝うか小さなダンジョンを狙っていくのが定石だ。

 ちなみにギルバートはゴールドランクの探索者でもあるので、教会の聖騎士達と共に大きなダンジョンに挑むこともたまにある。

 今回は聖騎士としてではなくあくまで父からの依頼を個人的に受けただけで、実際の目的はダンジョンコアの破壊ではなく弟の様子を観察することだった。


「でも地道にマッピングしていけばなんとかなりそう。こっち側の行ってないところを目指してみるのはどうかな」

「ああ、そうしよう」

 このダンジョンにはすでに地下に降りる階段があると報告されている。

 階層が進めば進むほどコアが成長しており、モンスター達も強力になっていると言われているのだ。

 と言ってもギルバートだけはこのダンジョンは地下一階が終点だと聞いている。

 だからこそ弟パーティーを連れてきたのだ。それ以上ともなればシルバーランクの探索者が挑むものではない。

「うわぁ、こっち側ほんと蜘蛛ばっかりいるな……」

「ボスは蜘蛛なのかもしれないな」

 ユーツが嫌がって避けていた通路にはひたすら蜘蛛モンスターが蔓延っていた。

 ヘドロのようなもったりした毒を吐いてデバフを付与してくるスラッジスパイダー、麻痺属性の粘つく糸を吐いて拘束してくるパラライズスパイダー。そして添え物のようにそっと同行しているポイズンアントとパラライズフラッグ。

 複数の種類で組まれると苦戦することもあったが、とにかくギルバートの聖属性が刺さりに刺さった。

 聖属性の魔法で毒を浄化し麻痺を無効にし、果敢に大楯で体当たりをしてはバランスを崩したモンスターの急所を的確にショートソードで貫く。

 そしてギルバートに感化されたのか、イオスも小盾で攻撃を弾きながら距離を詰め、炎属性を付与したショートソードで果敢に攻め立てていた。

 しかし体液を浴びすぎるわけにはいかないので今回のグリムは打撃を中心に戦わざるを得ず、パラライズフラッグなど体が柔らかめのモンスターに多少苦戦していた。

 ユーツはといえばギルバート達が競うように前に出ていくので、感心しながら補助魔法を中心に唱えていた。

「盾って攻撃を防御するだけかと思ってたけど、体当たりに使ったり直接殴ったりにも使えるんだ。勉強になるなぁ……」

 いざとなったときに盾で殴るような機転が効くとはなかなか思えないが、こうして実際に見ることで頭に刷り込んでおけばなんとかなるかもしれない。

「ストレングス」

 無駄に腕を振るって盾で殴るシュミレーションをしながら、ユーツは三人に攻撃力のバフを掛けた。



 そんな感じで探索をすること数日。

 ユーツがようやくモンスターの魔石をナイフで抉り出せるようになった頃、地下に降りる広い階段が見つかった。

「やっぱり階段も家と似てるね」

「嘆きのヴィオランティアは母のダンジョンだからな。思い入れがあるのだろう」

 一階から二階に降りれば、当然モンスターも強くなっている。

「ここら辺で少し休憩しようか」

「するする!」

 難しい戦いを強いられているからか、今回のグリムは疲労が蓄積していた。

 誰よりも早く壁に寄りかかったかと思うと、物を食べる間もなく眠りについてしまった。

「少し無理をさせてしまっているようだ」

「誰にだって相性はあるからな、仕方がない」

 イオスがマジックバッグから取り出したブランケットを掛けようとして、思い出したようにギルバートの方へ向く。

「すまない、洗浄魔法をかけてくれないか?」

「ああ、任せたまえ。クリーニング」

 グリムの手に触れながらギルバートが呪文を唱えると、たちまちグリムの装備の汚れが消え去る。

「せっかくだし二人も練習してみないか?」

 今度こそブランケットを掛けてやっているイオスと壁にだらしなく寄りかかっているユーツを見ながら、ギルバートがウィンクする。


「ああ、そうだな。是非ご教授願いたい」

「僕もー」

「聖属性とはいえ洗浄魔法はただの生活魔法に過ぎない。相性があまり良くないなどと言われている魔族でも問題なく覚えられるだろう」

「よく考えたら半分魔族の兄さんが聖騎士やれてるんだもんね……」

「そうとも。そしてユーツも魔族ではあるが半分は人間だ。おそらくすぐに覚えられるだろう。イオス嬢も半分魔族だし、なんとかなるに違いない」

「兄さんってほんとポジティブだよね」

「褒め言葉と受け取っておこう」

「ちゃんと褒めてるよ」

 ははは、とギルバートが嬉しそうに笑い、釣られてユーツとイオスも笑顔を浮かべた。

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