第25話/魔石を取るコツ
「そんなに気にしなくていいよ、兄さん。僕も叫んじゃったし」
「私としたことが……。本来は見本になるべきだったのに、まさか弟の足を引っ張ってしまうなど……」
かっこいいところを見せるどころかとんだ醜態を晒してしまい、ギルバートは自分自身にショックを受けていた。
「まあ確かにあの程度のことであんなに笑うとは思わなかったけどさ」
「本当にすまなかった、無意識に気が緩んでしまっていたのだろう……」
心の底から落ち込んでいるらしい兄をユーツは必死に励ましたり慰めたりしてみるが、いまいち効果は薄い。むしろ返ってくる愛想笑いが痛々しくて、ユーツの胃まで痛くなってくる。
「次からは気を付けてくれれば問題ない。少し早いがせっかくだし昼食にでもするとしよう」
「やったー!! グリムお腹ぺこぺこ!!」
そんな空気を変えるように、イオスがマジックバッグから道中で買ったサンドイッチを取り出してギルバートへと手渡す。
「私達にはギルバートの力が必要だ。それくらいで落ち込まれていては困る」
「そーだよ、ギルすごいもんね。ピカーッってやったら蜘蛛いなくなったもん!」
気にするなと言わんばかりに頷くイオスと元気いっぱいに励まそうとするグリムに、ギルバートの目元が潤む。
「すまない。この後の探索で汚名をそそごう」
「大袈裟だよ、誰だって失敗くらいするんだからさ」
ユーツにとっては醜態など今更だし、おそらく二人もこれくらいではなんとも思わないと知っている。
今まで父に似て立派な兄を自分とはかなり遠い存在だと思っていたが、こういう姿を見てしまうとなんとなく身近に感じてしまう。
微妙に調子に乗ってきたユーツにぽんぽんと背中を叩かれ、ギルバートはようやく自然な笑みを溢したのだった。
「さて、今度はもう少し先に進んでみるとしよう」
食事を摂って気分を切り替え、ギルバート達は真剣な表情で再びダンジョンに挑んだ。
「先ほどの小さな蜘蛛モンスターはスラッジスパイダーの幼体だろう。嘆きのヴィオランティアでは主に彼らがダンジョン内の死骸を処理してくれている。おそらく最初に私達が倒したパラライズフラッグなどを処理していたのだろう」
「タイミングが悪かったんだね」
「成体のモンスター軍団に来られるよりはマシだったがな」
「それは本当にそう」
もしも襲ってきたのが小さな蜘蛛ではなく大きな蜘蛛だったら。考えるだけで背筋が冷えて、ユーツは引き攣った笑みを浮かべる。
「フィールドサーチ」
入り口でも確認したが、念のため再びサーチをかけて周囲を探る。
「このまま行くとポイズンアントが二匹。右に曲がるとパラライズフラッグと……スラッジスパイダー。このまま真っ直ぐの方がいいかも」
「ふむ、ではそうしよう」
今はまだ蜘蛛を見る気にはなれないユーツが指を指した通りに進むと、ポイズンアントの後ろ姿が見えてくる。
「アーススラッジ」
気付かれる前にポイズンアント達の足元を泥沼に変え、体勢を崩させる。
「エンチャント・ホーリー」
「エンチャント・フレイム」
それぞれの剣に属性を付与したギルバートとイオスが前に飛び出し、戸惑うポイズンアント達の頭上から叩き切る。
体重を乗せた一撃は頭を半分ほど断ち切り、二人はそのまま剣を引き抜いて距離を取って盾を構える。
ポイズンアントの傷口から紫色の体液が吹き出し、バタバタと手脚を暴れさせた後で地面に倒れ込んだ。
「……ふう。さて、せっかくだし毒系モンスターの魔石の取り方のコツを教えてあげよう」
「助かる」
「耐性魔法や解毒剤があるからと言って素手で触れるのはお勧めしない。と言っても魔石の位置は他の属性のモンスターと変わらないので、解体用のナイフで当たりをつけて抉り出すように取り出す……だけだ」
ユーツにも分かりやすいように解体用のナイフでスッとポイズンアントの胸元に切れ目を入れ、刃先をくるりと返すと傷口から魔石がこぼれ落ちる。
簡単だろう? とでも言わんばかりの兄の笑顔に、ユーツは慌てて顔を横に振る。
「いやいや、そんな雑な説明じゃ無理だよ!」
「……なるほど、こういうことだな?」
ユーツの反応に戸惑うギルバートの隣で、イオスが同じように魔石を抉り出す。
「ほう、上手いものだ! では次はユーツとグリム嬢に挑戦してもらおう」
「がんばる!」
「ええ……?」
最初は絶対に無理だろうと思ったが、イオスが簡単にやってみせたのを見てユーツにもなんとなく自信が湧いてきた。
「まあ、やってみないと分からないもんね」
「そうだとも。一度で出来なくとも何度でも練習すればいい」
このときユーツは完全に忘れていた。
最初に訪れたダンジョンのボス部屋で倒れたユーツの代わりに、イオスとグリムだけで夥しい数のアースアントを解体して魔石を取り出していたということを。
「できたー!」
自前の爪があるからかあまりナイフの扱いが得意ではないグリムでも一発でクリアした。
「どれどれ……」
グリムにも出来るならと余裕の表情でポイズンアントに解体用のナイフを差し込み、ユーツはすぐに沈黙した。
(な、何も分からない……)
「もう少し深く刺した方がいい。刃先を臓器と魔石の間に差し込み、手首を返すようにして抉り出すんだ」
「隙間? 隙間ってどこ……?」
「もうちょっと右にあるよ」
「右? あっ、なんか硬いのがあるかも」
体内にある何か硬いものを刃先でなぞり、隙間らしい部分に刃先を差し込む。そしてそのまま手首を返して……。
ぶりゅ、ビチャビチャビチャ……。
「うわぁ!!」
掻き回したせいで大きくなってしまった傷口から臓器までこぼれ落ち、ユーツが思わず尻餅をつく。
「まあ、次第点だな。次はもっと上手く出来るだろう」
半泣きで臓器から魔石を切り離しているユーツの背中をポンポンと叩き、今度はギルバートが慰めたのだった。
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