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第24話/抱腹絶倒・阿鼻叫喚

「おかえりー」

「ユーツ、もう大丈夫なのか?」

「うん、ありがとう」

「ならば少し休憩したらまたダンジョンに潜るとしよう!」

 木に寄りかかりながら装備の点検をしていたユーツに近寄り、二人も地面に座る。

「先に少し偵察をしてきたが、やはり出現するモンスターの傾向は嘆きのヴィオランティアの下位と変わらないようだ。毒、麻痺、呪術、デバフに注意すればそこまで苦戦することはないだろう」

「ギルバート兄さんの耐性魔法があれば完封できそう」

「まったく。愛しの兄を信頼してくれるのはありがたいが、そう妄信してはいけないよ」

「分かってるって」

 最初に挑んだダンジョンに比べてかなりリラックスしているユーツに、イオスが感心したように腕組みをする。

「ユーツがそこまで言うとは、本当にギルバート殿を信頼しているのだな」

「我々は同じパーティーの仲間なのだ、是非ギルバートと呼んでくれたまえ。……兄として、弟の信頼に応えられると良いのだが」

 照れているのか珍しく謙遜しているギルバートに、ユーツが目を丸くする。

「兄さんも謙遜とかするんだ……」

「私はまだ聖騎士に任命されてからそう経っていないし、父にはまだまだ及ばないからね」

「いや、勇者パーティーにいたような父さんと比較する必要なくない?」

「追う背中は遠ければ遠いほど越え甲斐があるものなのだよ。いずれユーツにも分かるだろう。もっとも、ユーツが目指しているのは母の背中かもしれないが」

「まあ、どちらかと言えば母さんだろうけど」

 将来的には母の跡を継ぐのもありかもしれないとぼんやり考えているユーツにとっては、たしかに追いつくべきは母の背中だ。

 しかし父の背中も母の背中も今のユーツにとっては遠すぎて実感が湧かなかった。



「さて、そろそろ休憩も済んだしダンジョンに挑むとしようか」

 思いの外弾んでしまった話がひと段落ついたところで、ギルバートが勢いよく立ち上がる。

「ダンジョンに入る前に君達にも耐性魔法を付与しておこう。さあ、手を出してくれたまえ」

「はーい!」

 両手を使ってそれぞれグリムとユーツと軽く握手をし、ギルバートは呪文を唱える。

「親愛なる我が神よ、彼らを守り給え。ホーリーブレス」

「……?」

 自分のときとは若干違う様子にイオスが不思議そうな顔をするが、ユーツはなにも気付いてないふりをしながら顔を逸らした。

 その視線の先で、そっと口元に人差し指を当ててウィンクする兄を目撃してしまったが、それにも気付いていないふりをして意味もなく空を見上げた。

 たまに帰宅する父と母が再会したときの甘ったるい空気も辛かったが、兄の醸し出す甘酸っぱい空気も耐えがたい。

(そういうのは僕とは関係ないところでやってくれ……)

 兄の視線を遮るようにイオスの隣に立ち、ユーツはため息をつきながら盾を装備した。

「おや、ユーツは魔術士なのに盾を扱うのかい?」

「いざというときは僕だって前に出なくちゃいけないからね」

「それは……、ふむ、なるほど。なるほど」

 突然目頭を抑えて肩を振るわせだした兄に、ユーツはギョッとする。

「え、なに!? なんで泣いてるの!?」

「この探索が終わったら、すぐに母と父にも報告しなければ。あんなにも痛みを怖がっていたユーツが、盾を持ち前に出るとまで言い出すなんて……」

「……大袈裟だよ。まだ練習中だから誰にも言わなくて良いよ」

「そうか、うむ。そうだな、ユーツももう子供ではないのだな。この兄に甘えてくれるのも今だけなのかもしれないな……」

「勘弁してよ……。僕はまだ子供だし、家族には一生甘えていくつもりだから」

「もちろんだとも、いつまででも甘えてくれたまえ。君は一生この兄のかわいい弟なのだから!」

 号泣しながら抱き着いてきた兄の背中をぽんぽんと叩いてあやしながら、ユーツはダンジョンの扉をコンコンとノックする。

「ほら、それより今はダンジョンでしょ。兄さんのかっこいいところ見せてよ」

「……ああ、そうだな。兄として、いつでも弟が誇れる存在でいなければいけないな」

 真っ白なハンカチで涙を拭い、ギルバートは表情を引き締めながら大楯を装備してダンジョンの扉に手をかける。

「さあ、行こう。私の後についてきてくれたまえ」


 ギイイイ……と軋んだ音を立てながら扉が開く。

 シンと静まった暗い通路にポツポツと紫色の明かりが点っており、ユーツの背筋がぶるりと震える。

 お化け屋敷のような薄暗い通路はあまり先が見えず、余計に恐怖心を煽る。

 と思ったが、よくよく考えると実家の廊下と装飾が似ている。

「うちの実家って、母さんのダンジョンに似せて作られたの?」

「おそらく。母の好みなのだろうな」

「……僕もこういうの結構好き」

 先ほどまでの真剣な空気からは考えられない発言に、ギルバートは思わず吹き出した。

「はははは! そうだったな、ユーツは母と趣味が同じだったな!」

「ちょっと! あんまり大きい声出すとまずいって!」


 はははは、はははは、と兄のよく通る声が山彦のように静かな廊下に響き渡る。


「うわーーーーー!!!!」


 慌てて口元を抑えた兄の横で、今度はユーツが悲鳴のような叫び声を上げる。


 ガサガサガサガサ!! と音を立てて、床も天井も問わず廊下を黒く染めながら大量の小型の蜘蛛モンスターが迫ってくる。

「まずいまずいまずい!! デッドリーポイズン!!」

「焼け石に水だ!! 一度撤退しよう!!」

「任せたまえ、ホーリーライト!!」

 群れの中に撃った毒魔法は確かに効いたものの、すぐに後ろから新たな蜘蛛が溢れるように湧いて出る。その流れを押し留めるようにギルバートの剣先から聖なる光が放たれて、小さな蜘蛛たちはギイギイと悲鳴を上げながら後ずさる。

 その隙に出口まで走り抜け、イオスが体当たりで扉をぶち開ける。

 その背中を追ってユーツとグリムが出口から飛び出し、殿を守っていたギルバートが慌てて扉を締めた。

「うわ、ちょっと出てきてる!」

「グリムがやっつけるよ!」

「すまない、責任をとって私がやろう。エンチャント・ホーリー」

 扉から溢れてきた蜘蛛達に殴りかかろうとしたグリムを静止し、ギルバートが聖属性を付与した剣を振るって一掃した。

 

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