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第23話/毒蟻と麻痺蛙

「基本的に大抵のモンスターはダンジョンから離れられない。コアからの魔力が途切れたら生きていけないからね。だから入り口付近にいるのはあまり居場所がない下位のモンスターだ。けれど長く放置されたダンジョンでは中のモンスターが成長、あるいは進化をして……もしくは突然変異か。とにかくコアから供給された魔力を体内に蓄えることができるようになった個体が出現して、外に出てくることがあるんだ」

 禍々しい色をしているものの、洋風の屋敷のものにも見えなくもない両開きの扉を開けて、ギルバート達はダンジョンへと足を踏み入れた。


 中は古びた洋館の広い通路のようになっていて、ポツポツと壁に掛けられた紫色のライトが光っている。

 あまりにも見覚えのある光景に息を呑んだイオスに、ギルバートが小さく笑みをこぼす。

「どうやら嘆きのヴィオランティアを見たことがあるようだね。内装がかなり似ているだろう? 大きなダンジョンのそばにできる野良ダンジョンは、基本的にこうして影響を受けていることが多いんだ」

 ユーツの母・ヴィオレッタが統治しているダンジョン、嘆きのヴィオランティア。

 魔王が倒された今では完全に管理され、探索体験を楽しめる少し玄人向けなアトラクションと化しているものの、昔は勇者や探索者達を散々苦しめた恐ろしいダンジョンだったという。

 勉強を兼ねて見学させてもらったダンジョンが、今まさに目の前にある。しかも今回は前回とは違い、地下に降りる階段までできているというのだ。

 今更緊張してきたイオスに、ギルバートはさらに笑みを深めた。

「そんなに緊張しなくても大丈夫さ。依頼主は我が父だし、もしも無理だと思ったらいつでも諦めたって構わないんだ。その時は後日改めて私が教会の聖騎士達とここを訪れよう」

「……最初から諦めることは考えたくない。頑張っているユーツを裏切ることになるからな」

「そうか。でも本当に無理だと思ったときは考慮してくれたまえ。なにせ我々の命は一つしかないのだから」

「ああ」

 話をしているうちに前方からヒタヒタカチャカチャと足音が聞こえてきて、二人は戦闘体制をとる。

 薄暗い通路に現れたのは毒々しい紫色をした巨大な蟻と、黄色の体に黒い模様の入った巨大な蛙だった。

「ポイズンアントとパラライズフラッグか。最初から二匹とはついていない。それでは私がパラライズフラッグを担当しよう。そちらは毒に気をつけたまえ」

「了解」

「聖なる光よ! ホーリーライト!」

 ショートソードの剣先を敵に向け、ギルバートが光を放つ。


 ギャッ!

 ギィィィ!!


 短い悲鳴を上げ、視界を奪われたモンスター達がよろめいた瞬間、大楯を持っているとは思えない速度でギルバートが距離を詰める。

 出遅れたイオスも慌てて後に続き、前足で顔を洗うように掻きむしっているポイズンアントに切りかかる。

 上から叩き落とすように頭に剣撃を叩き込み、返す刀で下がった首に体重を乗せた一撃を決める。

 アースアントほどの硬さはなかったものの、噴き出た体液の色を見てイオスは慌ててその場を離れた。


「良い判断だ。こいつらの体液に触れるとそれぞれ麻痺や毒を起こすからね。ホーリーブレスを掛けてあるから多少は平気だが、浴びないに越したことはない」

 声のした方を見ると、ギルバートの後ろに倒れている半分潰れたパラライズフラッグの脚がピクピクと痙攣していた。

「それは大丈夫なのか?」

「ああ、もう死んでいるとも。カエル系のモンスターは少しの間筋肉の反射が残ってしまうことがあるからややこしいんだ。中にはそれを利用して死んだふりをする種類もいるので注意はしなければならないがね」

「これは魔石を採取するのも一苦労だな」

「慣れればそうでもないさ」

 言うが早いかギルバートは二匹のモンスターの心臓近くに切り込みを入れ、そのまま剣先を返して器用に魔石を抜き取った。

 そして軽く剣を振るって体液を落とし、ギルバートはイオスを手招きする。

「モンスターも想定内だったし、そろそろ一旦戻るとしよう。その前に洗浄魔法をかけておかなければね」

 杖や剣があれば魔法を飛ばすことも出来るのだが、そうそう人に剣を向けるわけにはいかない。


「クリーニング」

 ギルバートはイオスの手を取り、洗浄魔法を唱えた。

 お互いの装備に付着していた毒や麻痺毒、ついでに旅の汚れが浄化され、イオスは感心したように自らの手袋を眺めた。

「洗浄魔法は初めてなのだが、本当にすごいな。私にも使えれば良いのだが……」

「ふむ。確かに獣人には扱えないが君は半分魔族なんだろう? 生活魔法程度ならコツさえ掴めばいけるだろう」

「魔族も聖属性の魔法は使えないんじゃないか?」

「それは昔の話さ。今はもう人間と魔族は争ってなどいないし、我が神は新しい隣人を愛し、その深い愛で魔族すらも包み込んでくれる。我が父と母との間に芽生えた尊い愛が神に届いたのさ」

 どこまで本気なのか分からないギルバートのウィンクに、イオスは複雑な顔をする。

「確かユーツも洗浄魔法を覚えたがっていたはずだから、そのうち共に練習するとしよう」

「すまない、よろしく頼む」

 安い宿屋で生活している以上、清浄魔法が使えればお湯を買う金が浮くかもしれない。季節によっては水で洗うのにも限界があるし、可能性があるのならば挑戦しておきたい。

 ようやくほんの少しだけ表情がほぐれたイオスを見て、ギルバートは内心ホッとしたのだった。


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