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第22話/ダンジョンの入り口で

 買い込んだ物資をマジックバッグへ詰め込み、馬車に揺られること約二、三時間。

 馬車酔いとお友達のユーツは目的地に到着するなりよろよろと座り込んだ。

「大丈夫か?」

「少し休めば大丈夫だと思う……」

 両手を上げて馬車を見送るギルバートとグリム、心配そうに顔を覗き込んでくるイオス。逆にどうして皆そんなに平気なのかと不思議になりながらユーツはごろりと寝転んで目を閉じる。

「服が汚れるぞ。それとせめて鞄を枕にして頭を上げた方が良い」

 ユーツの頭をそっと持ち上げて自分のバッグを差し込み、イオスは呆れたようにため息をつく。

「我が弟がこんなに甘えているとは、随分と心を許しているようだ」

「具合が悪いときくらいは素直に言うことを聞いてもらわないと困るからな」

 自らのマントを外してユーツに掛けてやりながら、ギルバートは心底嬉しそうににこりと笑った。

「やはり君は素晴らしい女性だ」

「……どうだかな」

 あまり褒められ慣れていないのか、イオスは困ったように眉を下げながらギルバートから視線を逸らした。


「そんなことよりダンジョンだ。ユーツが回復するのを待っても良いが、先に少し偵察をしておくのも悪くないと思うのだが」

「ふむ、悪くない提案だ。ならば二人のうちどちらかにユーツを見てもらい、残りの一人が私と一緒に偵察といこう」

「なんでギルは決まりなの?」

「私は聖騎士だからね。毒や呪術系に対抗できるんだ」

「ふーん、すごいんだね。じゃあグリムも一緒に行く!」

 道中ですっかりギルバートと打ち解けたらしいグリムが張り切りながら腕を振る。

「いや、ここは私が行こう。グリムはユーツを守ってやってくれないか?」

「えー」

「グリムがいないと、ユーツが起きたときに寂しがるだろう?」

「うーん、そうかも……。分かった! ユーツのことちゃんと守ってる!」

「ありがとう、グリムはいつも偉いな」

「えへへ」

 えっへんと胸を張りながらユーツに近寄って行ったグリムを微笑ましく見守ったイオスは、剣の位置を確認して背負っていた盾を構えた。


「待たせたな。それでは偵察に行こう」

「その前に、神の御加護を君にも分け与えねばな」

 いきなり目の前に跪いたギルバートに手を取られ、イオスは思わず盾を取り落とした。

「親愛なる我が神よ。苦しめる者、卑き者から彼女を守り給え。ホーリーブレス」

 神への願いを唱え終わると同時に軽く手の甲に口付けられて、イオスの目が丸くなる。

 接触した面から眩い光が溢れると一瞬でイオスを包み込み、やがて見えなくなった。

「驚かせてしまってすまないね。しかしこれで今日一日は大抵の毒や呪術が君に害をなすことはないだろう」

「……そ、そうか。ありがたい」

 悪戯が成功した少年のようにパチリとウィンクされ、イオスは慌てて視線をそらした。耐性魔法を付与されただけなのになぜか頬が熱くなってしまったのが恥ずかしくて、顔を隠しながら落としてしまった盾を拾う。

「出発前に話した通り、中にいるのは毒や呪術系の魔法を使うモンスターだ。耐性魔法を掛けたとはいえ完璧に防げるわけではないので、くれぐれも注意してくれたまえ」

「……ああ、分かった」

 毒や呪術系の魔法はユーツの得意分野だ。一緒に過ごしてきて散々その威力を目にしてきたイオスは、聖水を塗りつけた盾をしっかりと構える。

「私のような大楯ならば兎も角、小盾を扱う以上はなるべく受けずに避けるんだ。毒はほんの一雫でも目に入れば視界を奪われてしまうからね」

「ああ」

「大丈夫そうだ。それでは一足先にデートといこう。エスコートは私に任せてくれたまえ」

 恭しく差し出された手をどうしたらいいのか分からず困惑するイオスに苦笑いをしながら、ギルバートは自らの大楯を装備する。

「緊張を解したかったのだが、冗談はここまでにしておこう。いざ行かん、蠱毒のダンジョンへ」

 どこまでが本気なのか。芝居がかった口調でダンジョンの入り口を指差し、そのままさっさと歩き出したギルバートに、唖然としていたイオスは慌てて後を追いかけた。


(うわー、なんか嫌なもの見ちゃったな……)

 大きな声で喚かれてはさすがに目を閉じていられず、ぼんやりと事態を眺めていたユーツは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 芝居がかった口調や身振り手振りはいつも通りだが、女性に対してあんなにも積極的に距離を詰めるギルバートを見たのは初めてだった。

 どんな美女に言い寄られようが、聖騎士として道半ばの自分には敬愛する神以外のことなど考えられないと言い切っていたあの兄が。身内が。必死に言いよるところを見てしまった。

 しかも相手は同じくユーツにとっての身内であるイオス。

 異性であるはずの自分とも普通に同じ部屋に泊まっていたし、まだ異性には興味がないのかと思っていたのだが。

 恥ずかしそうに赤い顔を隠していたイオスが脳裏に焼き付いて離れず、ユーツはモヤモヤしながら寝返りを打つ。

 異性を意識する身内ほど見たくないものはない。しかしこのモヤモヤはギルバートに対してなのか、イオスに対してなのか。

 無駄にごろごろと寝返りを打っているユーツに、グリムは心底心配そうな表情で頭を撫でてあげたのだった。

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