第21話/眩しすぎる黄金色
手紙を受け取ってから約二週間。
乗り合い馬車を乗り継いで地元に戻ってきたユーツは、久しぶりに実家でくつろごうと元気に家の扉を開けた。
「ただいまー」
「久しぶりだな、愛しの我が弟よ!!!!」
「え!?」
完全に油断していたユーツは、いきなりの大声と目の前に迫る金色に混乱した。
兄であるギルバートとは実家で落ち合い、そこから馬車を雇ってダンジョンに向かう予定だったのだが、どうやら先に帰宅していたらしい。
「ああ、はは、うん……。ギルバート兄さんは元気だった?」
「もちろん私は元気だったとも!! 君はどうかね、怪我などはしていないか?」
「まあ、ヒールも使えるしね。大丈夫だよ」
「そうか、それは良かった!!」
金色の鎧に赤いビロードのマント。おまけに金髪碧眼の、まるで絵に描いたような聖騎士・ギルバート。
ユーツは魔族の母似だが、ギルバートは人間である父と瓜二つだった。
苦しくなるくらいに強く抱き締められ、ユーツは苦笑いをしながらギルバートの腕をタップする。
「ああ、苦しかったかな。すまない、久しぶりだったからつい」
ははは、と爽やかに笑う兄は眩いばかりのイケメンだった。あまりの眩しさにユーツは思わず後ずさる。そこでようやく部屋の隅にいる母に気付き、思わず目を潤ませる。
「母さん、ただいま……!」
「おかえりなさい、ユーツ……!」
ニチャァァ……。
心なしか薄暗い部屋の隅。鏡写しのような母の笑顔に、ユーツも心からの笑顔を浮かべた。
「やれやれ、相変わらず仲がよろしいことで」
まるで舞台俳優のような大袈裟な身振り手振りを交えながらウィンクされ、ユーツの後ろにいたイオスとグリムが目を丸くする。
「君達が噂のイオス嬢とグリム嬢だね。私はギルバート・ヴァレンタイン。聖騎士だ。ユーツの兄として、彼を外へと連れ出してくれた君達には感謝をしてもしきれない。私に出来ることがあればいつでもなんでも言ってくれたまえ」
「私はイオス・アイオライト。こっちはグリム。……私達は、別になにもしていない。外へ出ると決めたのはユーツで、私達はそれについて行っただけだ」
「そうだったのか。それでも共に歩んでくれる者達がいる心強さは、間違いなくユーツの力になっただろう。ああ見えて彼は寂しがり屋なんだ。ありがとう、できればこれからもよろしく頼むよ」
にこりと美しく笑うギルバートに手を差し出され、イオスは後ろに隠れるグリムを宥めながらその手を握る。
「剣をよく扱う、強くて美しい手だ。貴女が剣を振るう姿を見るのが楽しみになってきた」
突拍子もないことを言われて固まるイオスをよそに、ギルバートはしゃがんでグリムへと手を差し出す。
「お嬢さん、怖がらせてしまったかな? それなら仲直りに飴でもどうだろうか」
「飴? 甘い?」
「ああ、とびきり甘いとも。教会でたまに配っている、りんご味の飴だよ」
「食べる……」
「はい、どうぞ」
「ありがと!」
初めて見るタイプの人間を警戒していたグリムは、甘い飴に釣られてすぐに警戒を解いた。
黄金に光る飴を口に入れ、にこにこしながらギルバートと握手をする。
「せっかく皆揃ったのだし、今日はゆっくりしていくといいわ」
「是非そうさせて貰おう。夕食後に打ち合わせをして、出発は明日の朝で構わないかな?」
「それでいいよ。あんまりゆっくりしすぎたら行きたくなくなっちゃうしね」
「ユーツ……!」
息子の成長に目を潤ませる母を見て、ユーツは恥ずかしそうに俯き、ギルバートは感動したように二人を抱き締めた。
夕食後にギルバート達と簡単な打ち合わせをして、ユーツはその日久しぶりに一人で寝ることになった。
この世で一番落ち着くはずの自室にいるのに、なんとなく落ち着かなくてベッドでごろごろと寝返りを打つ。
資金を節約するためにずっと三人一部屋で過ごしていただけに、誰の寝息も聴こえない静けさが身に沁みる。
明日は街で必要なものを調達してから馬車でダンジョンまで行く予定だ。明け方には起きて準備をしなければいけないし、いつまでも起きていたら明日に響いてしまう。
久しぶりに一人で寝れると内心喜んでいただけに、自分の気持ちの変化に戸惑いつつも、ユーツは頭から布団を被って無理矢理眠りについた。
「おはよう我が弟よ!!!!」
バーーーンと派手に扉を開け放ち、ギルバートがユーツの部屋へ飛び込んでくる。
「相変わらずここは薄暗くて朝が分かりづらいな! さて、そろそろ起きて準備を始めたまえ」
「もう起きてるよ……」
「素晴らしい、では準備ができたら玄関前に集合だ! 食事は道中に馬車で済ませるとしよう!」
ほとんど寝れていないユーツの目に、ギルバートの放つ眩い黄金色がつき刺さる。
「朝から見るもんじゃないな……」
はははは、と高らかに笑いながら去っていく兄の後ろ姿を見ながら、ユーツはポツリと呟く。
しかし今日からはその「朝から見るもんじゃない」兄としばらくダンジョンに潜ることになるのだ。
正直置いて行きたい気持ちもあるのだが、これから潜るダンジョンはヴィオランティア内にある以上、場所的に呪術系や毒属性のモンスターが多くなる。同じ属性が得意なユーツの魔法では耐性持ちが現れたときに対処しきれなくなってしまうかもしれないし、聖属性の魔法であれば向こうの魔法を打ち消すこともできる。
父もそれを分かった上でギルバートを同行させたのだろう。
頭では分かっているのに、ギルバートの放つ輝きと距離の無さはユーツのなんらかをゴリゴリと削ってくるのだった。
よろしければ評価・ブクマ・感想等いただけると励みになります!!




