第20話/光り輝く招待状
「さて。薬草も採取し終わったし、少しだけ盾の使い方を練習していくか」
「え」
自分の匂いが気になり過ぎて逆に脂汗だらけになっていたユーツは、イオスの切り替えの速さに唖然とする。
深追いするにはデリケートな内容過ぎて聞きづらいが、今を逃したらもう二度と聞けない気がする。
「盾を構えてみろ。私の使うような盾とは違い、それは腕を上げて前に突き出すように構えるんだ。そうすれば小さい盾でも広い範囲を守れるだろう」
「え? あ、う、うん」
一回流されてしまったものは、もう一回聞き直したところでまた流されてしまうのでは。
そんなことを考えているうちにタイミングを逃し、ユーツは重さでぶるぶると震える腕を精一杯持ち上げる。
「……せめて胸の高さにまで上げられないか? それでは心臓も守れないぞ」
「か、体に近づけてもいいならなんとか……」
「体の近くで攻撃を弾くのは少し危ないと思うんのだが……、今は仕方ないか。いずれ筋力がついたら使いこなせるようにもなろう」
「そうだといいんだけどね……」
顔を真っ赤にし、腕をプルプルさせていたユーツは、大きなため息と共に脱力する。
「思ったよりも取り回しづらくてほんと難しいよ。でも無いよりはあった方が絶対に良いだろうし、これからも頑張るから」
ムン、と気合を入れて盾を持ち上げたユーツに、イオスが苦笑いする。
「あまり無理をして手首を痛めたりしないようにな」
「気をつけるよ」
それからしばらくが経ち。
一角兎狩猟や薬草採取の依頼をコツコツと受けながら、ようやくユーツが盾を心臓の高さまで持ち上げられるようになった頃。
ユーツ達が定住している宿屋に一通の手紙が届いた。
「げぇ……、父さんからだ……」
宿屋の受付で受け取った手紙を裏返すと、この世界では割と高級な真っ白い紙製の封筒に流暢な文字で見覚えのある名前が書かれている。
「ユーツのパパ?」
「そうだよ。そういえばグリム達は母さん以外には会ったことなかったね。そのうち王都に行くことがあったら紹介するよ」
「ユーツのパパってどんな人? 優しい?」
「優しいよ。すごく明るくて、誰にでも優しいんだ。ちょっと距離が近くて面倒くさいけどね」
「好き?」
「そりゃあ……まあ、普通に好き、かな。良い父さんだしね」
「ふぅん」
獣人族の住む地域から命からがら逃げてきたと知っていたので今まで聞かないようにしていたが、グリムの両親はどうしたんだろう。
本来ならまだグリムは親元を離れて探索者なんてするような年齢ではない。まだ実家に住んで遊び回ったり、たまにお手伝いをしながら過ごしていても誰にも何も言われないような年齢だ。
そう思うとこのまま自分が連れていてもいいのか悩ましくなってくるが、今更ヴィオランティアに一人だけ置き去りにするなんて考えられない。
今までグリムの兄のつもりでいたが、必要なのは兄ではなく親なのではないだろうか。
自分なんかが親の代わりになれるのか。
手紙を手に一人で考え込んでいるユーツを見上げながら、グリムが口先を尖らせる。
「じゃあ、グリムのことは好き?」
「え!? あ、ああ、もちろん。好きに決まってるだろ」
突拍子もないグリムの問いに戸惑いつつも、ユーツは兄のような親のような余裕のある表情を取り繕って答える。
「えへへ、じゃあイオスのことは好き?」
「ええ!? そりゃあ、まあ、仲間だし……」
しかしさらなる問いに余裕の表情は一瞬で崩れ、急におろおろしだす。
「好きなの? 嫌いなの?」
「えええ……? いや、まあ、ね? そりゃあ、ね、好き……だけど?」
グリムの質問に他意はない。あくまで家族やグリムへの気持ちのような純粋な好意の話をしているだけで、深い意味は一切ない。わかっているはずなのに、微妙に声が裏返ってしまい、ユーツの顔が一気に赤く染まる。
「ふーん!」
挙動不審なユーツには気付かず、グリムは満足そうにベッドに突っ伏して嬉しそうに脚をパタパタしだした。
顔の熱が引かないユーツがちらりとイオスの方を見ると、ほんの少し照れているのか若干頬が赤くなっていた。
もしもドン引きされていたら窓から飛び降りかねない気分だったので助かったが、改めて恥ずかしくなってきたユーツは慌てて手紙を目の前に掲げた。
「あー、父さんからの手紙読まなくちゃ。手紙手紙っと……」
わざとらしく声を出しながら手紙の封を開ける。
頭の中がごちゃごちゃで目が滑るが、なんとか綺麗すぎる文字を目で追う。
親愛なる我が息子、ユーツへ。
一行目から鬱陶しい。
そして次の行からつらつらと今のユーツを心配する文章や、忙しくてしばらく会えていないことへの懺悔、溢れんばかりの愛情が溢れんばかりに綴られていて、一向に目的が見えてこない。
やたら封筒が厚いなと思っていたが、本当に必要な内容が書かれていたのは便箋の十枚目、最後の三行だった。
ヴィオランティアの近くに発生した野良ダンジョンのコアを破壊したいと思っているのだが、良かったら一緒にどうかな。大丈夫だったら、ギルドを通して指名依頼するのでよろしく頼むよ。
君の愛しの父・レメディオルより、愛を込めて。
追伸、君の愛しい長兄であるギルバートも同行するから安心してくれたまえ。
「げぇ……」
父は優しいし、嫌いじゃない。兄であるギルバートも優しいし、嫌いじゃない。
嫌いではないのだが、どうしても苦手なのだ。
「何が書いてあったんだ?」
「新しいダンジョン破壊の依頼……」
世界を愛し、世界に愛されているような二人は、会うたびに眩い輝きと深い愛情を持って、ユーツのことまで苦しくなるほど包み込んでくるのであった。
次回からはユーツの兄と共に再びダンジョンに挑みます。
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