第2話/何事も創意工夫でなんとかかんとか
こんなことなら聖属性は苦手だとか言わずに清浄魔法を習っておくんだった。
いや、待てよ……。
魔力の無駄遣いだし、本来ならこんな戦法は卑怯者と罵られてしまうかもしれないが、慣れるまでは直接戦闘を避けるのも手かもしれない。
飴を舐めて糖分を摂取し、少し元気になってきた僕はのそのそと立ち上がる。
「もうダンジョンに潜るのか?」
「やったー!! 早く行こう!!」
心配そうなイオスが待ち切れないとばかりに駆け出そうとするグリムを抑える。
「ちょっと試させて欲しいことがあるんだけど、いいかな?」
荷物を片付けながら目配せすると、二人は不思議そうに頷いた。
「ありがとう」
トラウマで震えそうな脚をなんとか抑えつけながら、ダンジョンの入り口に立つ。
深呼吸をし、一歩踏み込むが、そこにはまだ何もいない。
「フィールドサーチ」
普段なら自分を中心に円を描くように張り巡らせる魔力の網を、ダンジョンの壁に沿って細長く這わせていく。
「うわ、虫いた……。芋虫と蟻か……」
存在を感じるだけで喉の奥から吐き気が込み上げてくるが、なんとか我慢して杖をギュッと握る。
「デッドリーポイズン、デッドリーポイズン、デッドリーポイズン」
先ほどは動きを封じるために呪いも一緒にかけたが、離れているなら毒だけで十分だろう。
ほんの少し待つと虫達の反応が消え、小さな魔力だけが引っかかる。
おそらくこれが魔石に違いない。
本来ならモンスターを解体して手に入れるべきだが、今はとてもじゃないがそんな気分にはなれない。
「ウェザリング、ウェザリング、ウェザリング」
風化魔法をかけ、ようやくそこで一息つく。
「よし、行こう」
初歩の初歩、最下位のモンスターを相手に念入りに魔法を掛けた僕にドン引きしているのか、イオスからの視線が若干冷たい。グリムは何も分かっていないのか、不思議そうな顔で僕達を見比べている。
最初に戦闘をした場所から少し進んだ場所に、ころりと魔石が転がっていた。
「やったー!! 初魔石だ!!」
色の薄い地属性の魔石を手に掲げ、イオス達を振り返る。
「まあ、狩りの仕方は人それぞれだが……毎回こんなことをしていたら割に合わんぞ?」
「蟻さんはパンチでやっつけられるよ!」
「……はい、そうですよね」
正直かなり無駄なことをしているのは分かっている。
でもこうして遠くからモンスターを殺すことで、少しずつ慣れていけるのではないだろうか。
現に魔石を手に入れた僕は結構やる気に満ちていた。今なら先ほどよりもマシな立ち振る舞いができる気がする。
初めて自分で稼いだお金……になる物を手にして、僕は浮かれ出した。
先ほどは血を吐くくらいに嘔吐しまくっていたというのに。
「よし、次はちゃんと戦ってみよう」
「分かった、無理はするなよ」
「いくぞーー!」
前衛の二人の影に隠れながらそろりそろりと進んでいく。
「ついているな。アースアント一匹だ」
少しほっとしたような顔で話しかけられ、緊張しながら頷く。
「アーススラッジ」
まずは先制で地面を泥沼にして足止めする。アースアントは口から酸を吐くこともあるので、イオスは小盾を構えながら素早くサイドに移動し、その首をサッと切り落とす。
その瞬間、アースアントの脚がジタバタと動き出すが、やがておとなしくひっくり返って息絶えた。
「おっ、終わった…!?」
比較的体液の出にくい蟻で助かったが、問題はここからだ。
「ヴィオレッタ様、……ユーツの母君から学んだ通り、遺体を解体して魔石を取り除かなければならない。まずは私だけでやっても良いんだが……」
「まずはお手本を見せてもらってからにしようかな……」
「分かった。気分が悪くなったら無理をしないでくれ」
言うが早いか、イオスは剣を蟻の胸に突き刺した。そのまま両手でガバリと中を開けると、そこには見覚えのある魔石が鎮座していた。
「こうやって魔石を採取していくわけだが、大丈夫か?」
「うーん、多分。アースアントならなんとか……」
アースアントは体の表面だけでなく中までほぼ真っ黒なため、内臓感を感じなくて少し気が楽だった。
これが芋虫ともなれば、デロデロの体液の中から拾い上げなければならない。
考えるだけで気分が悪くなっていくが、自然界に出来るダンジョンの最初の階には虫モンスターが多いのだ。
なんとか克服して、探索者としての自信を取り戻さなければ。
その後一時間ほどダンジョンの一階を彷徨いながら虫モンスターを殺していくうちに、なんとか耐性がついていった。
……訳もなく、僕は泣いたり吐いたり大忙しで呪文をとなえていた。
もちろんモンスターの解体なんてまともにできるはずもなく、切り裂かれたグリーンキャタピラーの体内から魔石を探し出すのですらえずかずにはいられなかった。
しかし何もできなかった最初に比べたら、これでも大きな進歩だ。
社会不適合者の僕が、なんとか仕事をこなしてきちんと対価を得られるのだ。これほど素晴らしいことはないだろう。
何度も吐いてフラフラになりつつも頑張った甲斐があるというものだ。
マジックバッグに今日狩れた分の魔石を詰め、僕は今度こそ撤退を提案したのだった。




