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第17話/傷だらけの勝利

「ユーツ、ユーツ。聞こえてるか?」

「……?」

「いいか? 杖を握って、唱えるんだ。ヒール」

「ヒール……」

 完全に冷え切っていた体がじわじわと温かくなり、ユーツは重たい瞼をゆっくりと持ち上げた。

「ヒールで怪我は治っても血は戻らないからな。無理はしなくていい」

 ぼんやりとした視界にイオスとグリムが見えて、ホッとする。

「大丈夫そうだな……。それじゃあ私は仕留めた一角兎達を処理してくるから、ユーツはこのまま寝ていてくれ」

「うん……」

 杖ごと握られて患部に当てられていた手を離されて、不安になって思わずイオスを目で追う。

「グリムがそばにいるから大丈夫だよ!」

「ギャッ! いててッ!」

「あ、ごめんっ」

 ぎゅっと握った手をブンブン振られて、脇腹が攣るように痛む。

「……いや、大丈夫だよ。ありがとう」

 脇腹は痛むもののグリムの気持ちはありがたかったので、なんとかニチャリと笑みを浮かべる。

「えへへ」

 すっかり見慣れたのか普通に笑顔を返してくれるグリム。

 ギルド職員やら宿屋の店員には未だに顔を引き攣らせてくる人がいるが、その表情を見るたびにユーツは自分の中のモテたい心が死んでいくのを感じていた。


 地元から離れた今、グリムとイオスだけが心の支えだった。

 今回だってどんなに醜態を晒すことになろうが、とりあえず飛び出して二人を助けることはできた。

 怪我をしているとはいえ、またイオスにばかり解体を任せているわけには……とそこまで考えたところで、ユーツは慌ててグリムの足首へと視線を向ける。

「応急処置だけしたのか? 治してやるから脚を見せてごらん」

「はーい…」

 血に濡れてくっつく包帯をぺりぺりと剥がし、何度も刺されて裂かれている傷に心が痛む。

「ごめん、僕があんなことにならなきゃもっと早く治せたのに……。ヒール」

 よくこんな足で立っていられたなと本当に感心する。

 獣人族は丈夫な上、グリムがその気を出せば大きな獣の姿になれるとは聞いているし、それのおかげなのだろうか。

「えへへ、ありがとう。もう痛くない!」

「しばらくは大人しくしてないと傷が安定しなくなっちゃうからな」

「はーい」

「ってことは、イオスも治さなくちゃな」

 貧血でふらつきつつもなんとか起きあがろうとすると、下半身からはらりとブランケットが落ちる。

「え? うわ!!」

 慌ててブランケットを手繰り寄せて下半身を隠しながらしゃがみ込む。

「あはは! ユーツお漏らししたからパンツとズボン洗ったんだよ!」

「え!? あ、あああああ……」

 そういえば、記憶が途切れる直前に下半身が温かくなってた気がしたが、あれは血だけじゃなかったのか……。

 予備用に持っていた外套を羽織らされているが、中身は全裸だった。

「もしかして、イオスが脱がして洗ってくれたの……?」

「そーだよ、グリムはユーツのこと守ってたから!」

 よく見れば焚き火の周りに見慣れた服と下着が干されている。

「えっ、あっ、えっ、えっ。じゃあ、じゃあ見られちゃった……!?」

「気にするな。痛みで失禁など、誰でも経験するものだ」

 手早く解体を済ませたのか、イオスは一角兎の角を持っていた。

「やたら強いと思っていたが、あの一角兎は進化していたらしい。二本目の角が折れていたから気付けなかったんだな」

 差し出された角をよく見てみると、確かに他の一角兎の無骨な角に比べて宝石のような色の深みを感じる。

「進化すると危険になる代わりに角の素材もよりレアなものへと進化するらしい。片方が折れていたのは残念だが、一本だけでも手に入っただけ喜ぶとしよう」

 イオスの口ぶりから察するに、それなりに貴重な素材なのだろう。これで少しでもパーティーのお財布が潤うと良いのだが。

「あ、いや、ごめん、ありがとう……。それも良いんだけど、その前に傷を治しちゃいたいから見せてもらえるかな?」

「……ああ、すまない。私にもヒールが使えれば良かったんだがな」

 半魔族は半獣人の怪力と武器へ属性を付与するエンチャント系の魔法が使える。完全な獣化は出来ないものの、それを補って余り合るほどに強いだろうにとユーツは思ったが、上手く言葉に出来なくて、なんとなく口には出さなかった。

「ヒール」

 派手に抉られてぐちゃぐちゃになっていた傷口を塞ぎ、今度こそホッとする。

 すると今度はどうにも恥ずかしくなってきて、体を丸めながら焚き火の方へと向き直った。

 いつかこんな日が来るかもしれないと、念のためマジックバッグに入れておいた予備の着替えを引っ張り出し。二人に背を向けながらコソコソと着替える。

 イオスは解体作業に戻っていったし、グリムは周辺を警戒してくれているので誰も自分のことは見てはいないのだが、一応のマナーとして。

 大自然の中、しかも人前でこんなにも無防備な格好になったのは初めてだったので、それだけで胃がキリキリと痛んで仕方がなかった。ようやく服を着て落ち着いたところで、少し貧血でクラクラするもののユーツはゆっくりと立ち上がった。

「僕も解体手伝うよ」

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