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第14話/一角兎の香草焼き

 必要なことなのは分かっていたが、思いの外作業は過酷だった。

 ユーツは何度か吐いたりしたものの、芋虫に比べればマシだと自分に言い聞かせながら解体を手伝った。

 転生前からモツが苦手だったので、この世界では一般的に内臓は不可食部とされていると知ったときは本当に助かった。

 探索をする上で不必要な好き嫌いは命取りだ。

 そう言われて克服したものもあるが、モツは本当に無理だった。


 全ての作業が終わる頃には辺りはすっかり暗くなっており、このまま野営をするか悩んだが、ユーツの疲労が限界なのもあって宿に帰ることにした。

「私はギルドに報告しにいくから、先に宿屋に帰っていていいぞ。これを宿屋の厨房に渡して調理してもらうといい」

 解体した一角兎を包んでユーツのマジックバッグに入れ、イオスはグリムの方を向く。

 疲れたのか無言になっているグリムの頭を撫で、マジックバッグを指差す。

「今夜は一角兎の香草焼きだ。いくらでも食べていいからな」

「……ほんと? やったぁ! じゃあ早く宿屋さんに帰ろ!」

「わっ、一人で行くなって!」

 飛び上がるようにして走り出したグリムを、へろへろのユーツが慌てて追いかける。

 魔石を自分のマジックバッグに入れ、イオスも置いていかれないように二人を追いかけた。



 ふわりと香草のいい匂いと涎が出そうな脂の匂いが漂ってくる。

 表面に香草を擦り込み、オーブンでじっくりと焼かれた一角兎の肉は本当に絶品だった。

 黄金のように輝く皮にナイフを入れると、ぷつりと音を立てて皮が破れ、じゅわりと脂が溢れてくる。

 筋肉質でしっかりしている肉だが硬すぎず、噛めば噛むほどに旨みが出てきて食べるのをやめられない。

 皿の上に溢れた味の濃い脂を肉に絡め、口に含むと香ばしさや香草のいい匂いが鼻を抜ける。

 異世界に来て以来、一番美味しいと感じるのは自分達で処理をしたからだろうか。

 感動で震えるユーツの隣で、一角兎に齧り付きながらグリムがおかわりをオーダーしている。

 余ったら干し肉にでもしようと話していたが、結局翌日には全て食べ終えてしまったのだった。


 朝から一角兎の串肉とシチューを食べて、ユーツとグリムは幸せな気分に浸りながらベッドに転がる。

「これから一角兎の毛皮と角を売りに行って、その後にギルドに依頼を見に行こうと思っているのだが、お前達はどうする?」

「グリム行かなーい」

「僕は行こうかな」

 探索者として生活していくのを目指してる以上、全てをイオス任せにするわけにはいかない。

 この先いつまで一緒にいてくれるのか分からないし、自分でもある程度立ち回れるようにならなくては。

 ベッドと離れたくないと嘆く体を引き剥がし、ユーツは身支度を整えてマジックバッグを背負う。

「出かける場合は行き先のメモを残しておいてくれ」

「はぁーい……」

 ウトウトしているグリムを宿の部屋に残し、イオスとユーツは街へと繰り出した。

 最初に挑んだダンジョンから少し離れた街はそれなりに賑わっており、地元以外の市場を初めて見たユーツは度肝を抜かれていた。

 地元の市場は魔法使い向けの物や呪物のようなものが多く、こんなにも広い層へ向けた市場を見たのは初めてだった。

「結構いろいろあるんだな。先に一角兎の素材を売ってしまおう」

「うん」

 いかにもファンタジーな市場に魅了されているユーツを引っ張りながら、イオスはモンスターの素材を扱う店に目星をつけて近寄っていく。

「一角兎の毛皮と無傷の角があるんだが、ここで買い取りはやっているか?」

「ああ、やってるよ、状態を見せてもらえるか?」

 イオスは会話を続けながらマジックバッグから一角兎の素材を取り出し、店主に手渡す。

「子ウサギが一匹、大人が九匹の合計十匹だ」

「皮にもほとんど傷がないな……。この仕上がりならこれくらいは出そう。次があるならまたうちに卸してくれ」

 店主は異世界そろばんのようなものを取り出して値段を提示する。

「少し多い気がするがいいのか?」

「買い手側から見ればまだまだ早いが、俺たちのような売り手側は冬に向けてそろそろ準備を始めるのさ」

「なるほど。また何か狩ることがあったらここに持ち込むとしよう」

 納得したような顔で銀貨や銅貨を受け取るイオスの横で、ユーツは何も分からず腕組みをしていた。

 そのまま店を離れたイオスの背中を追いながら、改めて自分の金銭感覚が狂っている可能性が高いことに気付く。

 一日かけて狩猟し処理をした一角兎十匹分の素材を売っても、毎月当然のようにもらっていたお小遣いの十分の一にすらならないのだ。

 今まで何の疑問も持たずにホイホイ保存食を買っていたが、イオスがせめて干し肉くらいはと自作したがっていた理由がようやく分かった。

 もしかしたらこの程度の稼ぎでこんなにゆっくりしていてはいけないのではないか。

「思ったよりもいい値段で売れたし、ユーツも市場を楽しんでくるといい」

「え? で、でも……」

 そう言いながら銀貨を握らされるが、それは先程の売り上げのほとんど半分だ。今後のことを考えたら貯蓄をした方がいいのではと言うべきなのだが、初めての市場にウズウズしている状態では説得力がない。

「私の方でグリムにお土産は買っていくが、お小遣いのことは内緒にしておいてくれ」

「わ、分かった。……ありがとう」

 次からは貯蓄に回そうと決意して、ユーツはいかにもファンタジーな市場に目を輝かせた。

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