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第1話/コミュ障ニートからでも出来るお仕事

 異世界転生したとはいえ、コミュ障ニートでしかない僕にできる仕事はこれしかない!!

 追い詰められた挙句に選んだ職業。ダンジョンを探索し、最下層または最上階にある「ダンジョンコア」を破壊して危険な野良ダンジョンを間引くだけの、非常に分かりやすいお仕事。

 異世界転生をした時点で憧れていなかったといえば嘘になる。

 しかしその憧れのお仕事の初陣3分で、僕は本気で泣いていた。



「虫除け焚いてるのに虫がいる!!!」

「デカい虫!! デカい虫無理だよ!!!」

「ああああああブチュッてなった!! ブチュッてなった!!!!」

「気持ち悪いおえええええええええええ!!!!!」


 ギシャァァァァ!!!

 キュピーーーーー!!!

 ギチギチギチギチ!!!!


 威嚇しているのか盛大に鳴き声を上げ、脚をワサワサと動かしながら襲いかかってくるデカい虫達。


「泣くな、魔法なら直接感触はないだろう?」

「虫はグリムがぜんぶやっつけるから! 後ろにいていいよ!」


 同行者のイケメン♀と幼女に慰められるが、虫は待ってくれない。

 むしろ僕が大騒ぎをしたせいでどんどんと集まっていく。

 デカい蟻ことアースアント、デカい芋虫ことグリーンキャタピラー、そしてデカいムカデことシードセンティピートにデカいゲジゲジ(攻撃すると脚がポロポロ取れる)おえええええええええ!!!!



 朝食を全部吐き戻し、胃液と鼻水と涎と涙でべしょべしょになる。

 異世界転生したからって全員が突然戦えるようになるわけじゃないと、今更ながらに痛感する。

 ゴブリンやオークなどの人型モンスターが切れないとかそれ以前の話だ。

 デカい虫、無理じゃない?


 正直小さい虫なら地元にもいなかったわけじゃない。無視していたのだ。虫だけに。


 デカいフサフサの蜘蛛とかなら母も飼っていたし、かわいいと思う。

 でもこんな体液撒き散らされると無理じゃん。


 ゴツゴツした岩肌の通路はすでに芋虫の体液でべちゃべちゃ、生臭くて土っぽい嫌な匂いが充満していて、吐き気が無限に込み上げてくる。

 いっそ全部焼いてしまおうかと思ってしまうが、こんな洞窟みたいなところで大きな火なんて一酸化炭素中毒になるのが目に見えている。

 そう、どんなにしんどくても一体一体潰すように殺すしかないのだ。


 最前線で小盾とショートソードを持ったイケメン♀と、腕を獣化した獣人の少女が必死に戦っている。

 僕の方に近寄らせないように。


 探索者になろうと決めたとき、この子達にかっこいいと思ってもらえるような男になろうと決意したのは何だったのか。

 えづきながら、必死に脳内に魔法を浮かべる。

 そうだ、毒殺。毒殺でいこう。虫には殺虫剤だよね。


「デッドリーポイズン! デッドリーポイズン! カオスカース! カオスカース!」

 震える手で杖を虫へ向け、必死に呪文を唱える。

 毒と呪いの効果でバタバタと虫が倒れ、もがき苦しむように脚をバタつかせる。

「おえええええ!!! げえっ、おえっ、デッドリー、ポイズン!!」

 どうして虫は死ぬときひっくり返るのか。お腹側が気持ち悪くて、もはや血の混じった胃液を吐く。

「げぇ、お、ぐぅ、ごめん、ちょっとどいて……。アースシェイク・ヘル……」

 仲間が慌てて引き下がったのを確認し、特大の土系魔法を放って虫の死体を地面の割れ目に収納した。

 いきなりとんでもない魔力消費をして気分が悪くなってくるが、今更だ。

 ようやく目の前が片付き、安心した僕はまた泣いた。


「おい、大丈夫か?」

 イケメン♀ことイオスが剣を鞘に収め、心配そうに背中を摩ってくる。

「きょ、今日は、もう無理かも」

「まだ5分ほどしか経ってないのだが……、仕方ないか」

「えーー、グリムまだ全然いけるよ?」

 無邪気な幼女が拳を振り回して抗議する。

 そうだね、まだ全然戦ってないもんね。

 分かってはいるが、今のままダンジョンの中に進めるほどの気力はなかった。

「そう、だよね……。じゃあせめて一回外で休憩してからにしようかな」

「えー、つまんないよーーー」

「グリム、おやつにしよう」

「おやつ? じゃあ休憩するー!!」

 イオスが上手いこと釣ってくれた幼女と共にダンジョンを出る。

 虫達の匂いが染み込んだダンジョンの外に出て新鮮な空気を胸いっぱいに吸うと、すーーーっと涙が溢れてきた。

「そんなに嫌だったのか……」

 手渡された水筒の水で口を濯ぎ、大きなため息をつく。

 今夜はちょっと眠れないかもしれない。


 元気にビスケットを頬張るグリムを見ていると、今までの光景がまるで遠い夢のように思えてくる。

「ちょっと待て、お前手を洗ったか?」

 さっきまでグリムは素手でデカい虫達を叩き潰していたはずだ。

 思わず青くなりながら杖を取り出す。

「ほら、手を出して。物を食べる前には必ず手を洗うんだぞ、ウォーターフォール」

 小さな水の滝で全員分の手を洗わせ、ため息をつきながら床に座り直す。

「何かスープでも作ろうか?」

 最後には血混じりの胃液を吐いていたことに気付かれていたのか、イオスがマジックバッグから小さめの鍋を取り出す。

「いや、多分また吐いちゃうだろうからいいや。後で頼むよ」

「本当に大丈夫なのか? 今日は初日だし、そこまで無理しなくても……」

 ダンジョンコアを破壊してギルドへ持っていけば報奨金が出るのだが、大抵の探索者はそこまで辿り着かず、倒したモンスターを解体してコアである魔石を回収して収入を得ている。

 今回の戦闘では僕が無理すぎて全部地面に埋めてしまったので、まだ1円も回収できていないのだ。

 円とか言ってしまったが、もちろんこの世界の通貨は「円」ではない。ゴルドだ。まあまあ分かりやすい。


 とにかく、とんでもないコミュ障な僕にでもできる仕事はおそらくこれくらいしかないのだ。

 こんなところで折れるわけにはいかない。

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