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スマイル独占禁止法なんてクソ喰らえ!  作者: 高朋(こうほう)
第二章『忍び寄るナニカ』
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04 キラリン

タクシーを降り、キラリンの部屋を目指す。

あまり周りを見ないように、足元だけを見て。

心臓がバクバクする……!

電車の人達も、あの運転手さんも……一体どうしちゃったの?


チャイムを鳴らすと、中から懐かしい声がした。


「アユ〜!開いてるから入ってきてー」


「あ、うん。お邪魔します……あぁ、キラリン!

いたぁ!!会いたかったよおお!」


「おぉ〜アユ!!いらっしゃい!相変わらずキラキラしてんねぇ〜

って、なに?どした?会うのは久々だけど、ウチら、しょっちゅうLimeしてんじゃん。

そんなにウチに会いたかったの〜?」


「あぁ、うん。会いたかったんだよぉ〜

今日さ、ここに来るまでに色々あってさ……」


「大丈夫?まぁ、テキトーにくつろいでてよ。

チビ達は二人ともお昼寝中だから、話し聞くよ?

今飲み物持ってくから〜」


キラリンの顔を見たらホッとした。

落ち着いてくると、さっきの運転手さんの行動は、運転手さん同士の挨拶だったのかも?って、思えてきた。

私が気にしすぎなのかも?


「はーい!アイスティーとチーズケーキ!これ、ソラがアユにって買ってきたんだ。どうぞ。」


あ、これ、ウチがめっちゃ好きなやつ…… !


「ウチの好物、覚えててくれたんだ?

や〜ん!めっちゃ嬉しい〜!!ありがとう!」


「当然よ!仲間だからねぇ〜!」


キラリンの変わらない雰囲気に、ウチの心臓も落ち着いて。しばらく昔話で盛り上がったんだけど……


「ねぇ、キラリンさーメイク変えたよね?

優しい感じになってるー!」


「お!流石アユ!いいとこに気付いたね〜!

これ、今流行りの“ニコ活メイク”だよ?

ウチ、つり目じゃん?怒った風に見えて損してたから、

タレ目っぽくメイクしてんの!


どう?ウチのギャル仕込みのメイク技!!!

このメイクに変えてから随分加点が増えたぜぃ!」


「キラリン……“ニコ活”してんの……?」


「うん。フツーにするっしょ?!

うちのソラは仕事柄笑顔はご法度じゃん?

消防士が火を消しながら笑ってたら、シュールすぎるし!

だ、か、ら、ウチらが頑張ってんのよー


今大ブームだよね〜“ニコ活”。

スキマ時間に出来て、元手もいらない!

あ、でも、整形してる人とかは、タダじゃないっか〜

プチ整形で笑顔作れます!なんてCMもやってるし!

“ニコ活特集”はテレビでもよく観るし、SNSでも加点アップの裏ワザ〜みたいの、いっぱいあるよ?


アユのチャンネルでもやればいいのに〜!

アユがやったらバスるの確定だもん!

そんときはさ〜ウチをメイク術で呼んでくんない?

確か、高評価の数がそのまま加点ポイントになるはずだよ?大儲けじゃん!」


「そ、そうなんだ。

最近SNSはあんま見てないし、やってなくて……」


「え???あの、ギャルのカリスマでインフルエンサーのアユが??信じられん!!!


あ、ごめん!キティ起きたわ!連れてくる!」


びっくりした……こんなに浸透してるんだ。“ニコ活”


「ねーアユぅ〜!キティがこれからミルクなんだけど、

代わりにお願い出来るかなー?

オムツは今替えてきたから。

そろそろコスモ、起こさなきゃいけないからさ」


「え?あぁ、いいけど。」


時々、先輩お姉さま方のベビたんのお世話をしてるから、そーゆーのは超得意!

それに、今日はつけ爪も取ってきたから、バッチリだよ!

腕の中にすっぽり収まる、かわゆいキティをそっと抱いて、その匂いを胸いっぱい吸い込む。

あぁ〜この赤ちゃん独特のあまーい香り!たまらん!!

キティはちっちゃいお口をンクンク させて、一生懸命ミルクを飲んでいる。


「何この天使……!尊いわぁ……」


「必死さがいいよね〜!

ほら、コスモ。アユちゃんだよ〜ごあいさつは?

コスモの好きな“パンパンマンの絵本”を貰ったよ?

良かったねぇ!」


「あゆたーん??こんちわぁ。ありあとーー!」


「おぉ〜コスモ!?

うっわ!めっちゃ、でっかくなってるぅ〜!

コスモ、こんにちは!“パンパンマン”かっこいいよね!

ウチも好き!」


「ママ、ごほんみりゅ〜」


「コスモ、ご本はあとでゆっくりね?

そろそろ時間だから、おしたくするよ?」


「え?コスモはお出掛け?せっかく会えたのに……」


「10分だけだよー

ねね、アユ、キティ見ててもらっていい?

この時間は小学生の下校と園バスのお迎えが重なるから

めっちゃ稼ぎ時なの〜!

ベランダから手を振るんだよ。

コスモが乗り出さないように、抱っこ紐で前抱きしてね。

暑いし、コスモも大きくなってきたから、抱っこもそろそろ限界かな〜って思ってるんだけどねー


ホントは1階まで連れて行きたいけど、キティも居るからさ〜まだベランダで我慢してんの。

コスモ、いこ!

アユ、よ・ろ・し・く!イェイ!」


コスモを抱きかかえて颯爽とベランダに出ていくキラリン。その背中はまるで、ウチが知らない誰かのモノのように見えた。

そういえばさっき……“パンパンマンの絵本”を見てニッコリしたコスモの口元に、キラリンはさりげなく手を置いていた。あれ、わざとだ、たぶん。

コスモに、感情をコントロールする訓練をしてるんだ、

キラリンは。


ミルクを飲み終え、盛大なゲップも上手に出来たキティは、なんかふにゃふにゃした動きをしている。

可愛いな、キティ。

この顔、絶対ソラ似だと思う。

将来有望だよ?キティ。

よかったね。アンタのパパは相当イケメンだよ?

でも……このちっちゃなキティも、笑顔のオンオフをするようになるのかな……?

あの超絶可愛いベビー服には、キラッキラの笑顔が似合うのに!


10分だけって言ってたキラリンが戻ったのは、20分を過ぎた頃だった。真夏程ではなくても、今日は大人でもちょっと堪える暑さだ。抱っこ紐から解放されたコスモは汗だくで、ごくごくと麦茶を飲んでいる。


「今日はさぁ、向かいの棟のベランダにも結構人がいたから、頑張っちゃったねぇ〜?コスモ。

2人で結構な加点になったわ〜

アユ、ありがと!」


「その“ニコ活”って、そんな子供でもするの……?」


「するする!小さい子供はウケがいいからね〜

コスモは我が家の重要な戦力よ。私より加点されてるもん!


早くキティも笑えばいいのに……!」


あ、もう、ダメだ。

キラリンの口から、絶対に聞きたくない言葉が飛び出した。

くちびるを噛んで堪えるけど、ヤバい、もう、涙が溢れちゃいそう!!

ウチは、早々にキラリンの部屋を後にした。

キラリンは「どしたの〜?」って不思議そうだったけど、言えなかった。


「アンタ、それでいいの?」って。


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