28 最初から間違っていた……らしい
日ノ本の国の首相は、またまた頭を抱えていた。
実は、先週の先進国首脳会議の際、某国の代表にこんなことを耳打ちされたのだ。
「日ノ本では、最近、ずいぶんユニークな政策を実施されてるとか。実に興味深いですなぁ。
はっはっは!あぁ、これは減点ですな。
失礼失礼。」
ちっ!アイツ今、明らかに鼻で笑ってたぞ!
カメラが無い所だからって、好き勝手言いやがって!
でも……そんなに噂になっているなんて!!!
そして今日は、官僚からは、こんな内容の報告があった。
“スマ法”からこっち、有効求人倍率が爆上がりして、もうすぐ3を突破しそうなこと。
これは“スマ活”をする為に離職する人が増加したことによるものと考えられること。
更にはGDPも下がってきています!とのこと。
おいっ!こんな深刻な報告を、なぜ、そんなに、にこやかな顔でしてんだよ!!
お前、一体どういう神経してんの?!
……と、心の中で叫んだけど、言えない。言わない。
だって、パワハラになっちゃうもん、私。
しかし……何だよこれ……!!!
前より更にヤバくないか?!
一体どうなってるんだよ?!
私はただ、国民のモチベーションを上げるために頑張っているのに……!
もしかして……私、どこかで間違った……?
仮に……万が一よ?私が間違っていたとして。
今更、それ、言えるか??言えないよなぁ……
……いやいや!私、間違ってないし!たぶん……
人払いをしてるから、今部屋には私1人。
ソファの上に仰向けに寝転がり、デローンと脱力する。
「あ〜もうっ!何をどうしたらいいのか、全くわからないよぉ〜!絶対に上手くいくと思ったのにーー!」
こりゃあ1人で悩んでても無理よな……
思考が堂々巡りしてるだけだもん。
私は考えあぐねて、例の個人的に使っているエージェントを呼び出した。
「なぁ、私、間違った?
前に相談した時さ〜お前が、笑顔がパワーになるって言うから、法整備したのにコレ。
ヤベぇよなーどうしたらいい?」
「相談……?相談なんか受けましたっけ?記憶にございませんが?」
「はぁぁぁ??したじゃん!ここで!1年くらい前!
お前が笑顔で疲れが吹っ飛ぶ〜とか、癒される〜
とか言うからさぁ……」
「あぁ、確か……そんな話もしましたね。」
「何だよ〜覚えてんじゃん!
その時した話しのことだよ!」
「……は?…………はぁぁぁ???
おい!ちょっと待て!!!
お前……まさか……あの時の雑談だけで『スマイル独占禁止法』を制定したのか?
嘘だろ……???
ありえないっつーの!!!
おいっ!!!
何故もっと、みんなの意見を聞かない?
お前はさ、昔っから一度思い込むと、周りの声なんて聞かずに突っ走ってたよな?
ケンゴ!!
お前の悪いクセだ!!!
それで、いっつも母ちゃんに怒られてたろ?!
忘れたのか!?」
「え?いや、でも……あん時お前は確かに言ったよな?
確か……ウチの可愛いハナちゃんの笑顔で、疲れも吹っ飛ぶ〜とかなんとか!
だから……」
「だから……じゃねぇ!考えが浅すぎんだよ!
お前……最近の街の様子を、ちゃんと自分の目で見たことあんのか?
確かに街中笑顔だらけだ。
でも、誰も笑ってねぇんだよ!
仮面みたいな笑顔を貼り付けて、誰彼構わずアピールしてるだけなんだよ、わかるか?
お前も聞いたことくらいあんだろ?そういう人達のことを“スマイルゾンビ”って言うんだぞ?
中には顔を整形してる人までいるんだ!
スマイルポイントの為にな!!!
なぁ、ケンゴ、これがお前の望んだ社会なのか?
そうなのか???」
「私はっ!ただっ!笑顔のパワーで、みんなが幸せになると思った!
気候変動は一朝一夕ではどうにも出来ないけどっ!!!
笑顔のパワーでモチベーションが上がれば……!
生産性も上がって、暮らしやすい国になると思ったんだよっ!
お前だってハナちゃんの笑顔が癒しなんだろっ???」
「お前は馬鹿か???
お前は確か、あの時ハナちゃんの写真をみてないだろ?!
我が家のハナちゃんは……
激カワのサモエドの女の子だ!
もう子供達が巣立った俺ら夫婦の、大切な姫なんだよ!」
目の前に突きつけられたスマホには、愛くるしい笑顔が眩しい、真っ白でモフモフのサモエド犬の写真。
「え……?サモエド??犬っ???
ハナちゃん……お前ん家のペットだったの……?」
「ただのペットじゃない!家族だよ!!!」
首相、もといケンゴは膝から崩れ落ちた。
いや、正確にはソファからずり落ちた。
「私、根本的なところで間違えてた……?」
「そうだな。ケンゴは間違えていた。
これからどうする?
まだこの『スマイル独占禁止法』は続けるのか?
自分で判断出来ねぇんだったら、今から、お前の母ちゃんをここに呼んでくるか?」
「か、母ちゃん?!それだけはやめてくれっ!
『スマイル独占禁止法』は改定……いや、即刻廃止にする!
世間を混乱させたこと、ちゃんと自分の言葉で謝らないといけないな。
それから、補償か。
誰にどれだけするべきか。これは予算の事もあるし相談しないと!
あとは……」
「先ずは関係各所に連絡な。担当大臣と官僚をここに呼ぶよう、俺から秘書さんに伝えておく。
ケンゴ!お前は身なりを整えろ!
首相なんだから、いかなる時もビシッと決めておけ!
そして、皆さんには誠心誠意の謝罪をして、協力を頼むんだ。知恵を貸して下さいと。」
「わ、わかった!そうする!!」
「お前の良さは、こういう時の潔さと、決断力と行動力が優れているところだ。気合いを入れろ!」
「あぁ。なぁ、ひとつ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「お前は……シンノスケは、まだ私の友達でいてくれるのか?こんな間違いだらけの私の……」
「おい……それ、今する質問か??
……落ち着いたら、うちのハナちゃんに会わせてやる。
それまで頑張れよ!」




