01 悩める人々
時の政府は頭を抱えていた。
ここ数年の急激な気候変動のせいで、この国の美しかった四季の移ろいは、うだるような暑い夏と激寒の冬、その間に申し訳程度に一瞬の春と秋があるだけになってしまった。
最早この国は四季と言うよりも、二季と言った方が正しいのでは?と、誰もが感じていた。
そのせいなのか、気温の急激な変化に自律神経をやられる人が激増し、人々のモチベは下がりに下がり、その結果…
国の生産性が急激に低下するという、なんともいかんしがたい負のループに陥っていたからである。
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この国の首相もまた、頭を抱えていた。
私は国のトップとして、この由々しき事態をこのまま放っておくわけにはいかない!
って言うか、早急に何とかしないと首相解任も時間の問題だよ!
頑張ってるのにさ!私。
歴代最年少の首相になったのはいいけどさ。
これって、体のいい押し付けじゃないの??って、
実は密かに疑っている。
みんなやりたくないからってさーー!
こんな激ヤバな時期に、なんで若輩者の私なのさーー!
まぁ、そんなことを言っても、既に後の祭りなので、
私は私の職務を全うしなければ!!
う〜ん……
一体全体、この日ノ本の国民のモチベーションは、
どうやったら上がるのさ???
考えすぎて、私自慢のフサフサの黒髪の頭には、
10円ハゲが30円分くらいできちゃったし。
「ヤバい……詰んでるわコレ。このままじゃ、この国に未来はないじゃん!
あぁ〜もう!どうしたらいいんだよぉ!」
そんな時、傍らでつけっぱなしにしていたテレビの中から、よく通る声が聞こえてきた。
「この子の笑顔に元気を貰えるんです……!」
……ん?なんだ?なんだ?元気を貰えるだと??
こんなに小さな子供の笑顔で??
気になった私は、早速、個人的に使っているエージェントを呼び出してこう尋ねた。
「なぁ、笑顔って、そんなにパワーになるの?」
「え?あの、ニコってする、あの笑顔……ですか?
ん〜〜なるっちゃーなりますかね?
仕事終わりでクタクタの時、うちのハナちゃんの愛くるしい笑顔を見ると、疲れは吹っ飛びますね!
なんせ、ハナちゃんは激カワなんで。
あ、写真見ます???」
「いや、いい、遠慮しとくよ。お前の大事なハナちゃんは大切にしまっとけ。」
笑顔のパワーか……
おぃおい、もしかしたらこれは、すごい発見かもしれんぞ!何せ元手はタダだし!!
うん……これは正しく天啓!!
イケるっ!!
思えばこの時、あの写真を見るべきだった。
もしあれを見ていたら、こんなことには……
国中が、いつ涼しくなるんだ〜?!と残暑にうんざりし、テレビに流れる有名人の不祥事だの、アイドルの恋愛事情などに目を奪われている中、ひっそりとこの法案は可決されたのだった。
『スマイル独占禁止法』