10 ななっち
待ち合わせのカフェには、少し早く着いちゃった。
彼ピは残業にならなきゃ、もうすぐ上がりの時間だけど、飲み物だけ先にオーダーしとこうかな。
今日の目的の季節限定パフェは、シェアしたいから後で。
声を掛けると、すぐにホールスタッフが来てくれた。
周りの客にも目配りと笑顔サービスをしながら歩いてくる姿は…うん、加点行動抜かりなし!だね。
ウチはアイスオレを頼んでスマホを開くけど……
相変わらず皆さんは、カフェの店内でも微笑みの交換会ですか、そうですか。大変ですねぇ。
表情筋、大丈夫?
届いたアイスオレをストローでクルクルしながらそんなことを考えていたら、声を掛けられた。
「あの……アユさんですよね?プライベートの時にごめんなさい!
一緒に……あの、私と一緒に、写真を撮ってもらえますか?大ファンなんです!」
「え?あ、うん。ありがとう!
写真はここで撮る?お店の人がいいなら、いいよ?
それとも外、出よっか?」
「あ!私お店の人に聞いてきます!」
「ねね、お名前は?何ちゃん?」
「ななっていいます。」
「じゃあ、ななっちね!これ自撮りするの?
だったらもっと、ウチらもくっつかないと!
んとね……このくらいかな?
よし、せーの!あげ〜!」
ななっちに頬を寄せて、営業用のクールなキメ顔でポーズ。
一応その場で確認すると、うんうん。
とってもいい感じ!
ななっちも小首を傾げてとっても可愛く写ってる。
「いいね!ななっち、めっちゃ可愛い!」
「ありがとうございます!!
アユさん、今日はオフって聞いてたので、会えて嬉しいです!」
「もしかして、お店に行ってくれたの?」
「はい、さっき……」
「そうなんだ〜!ありがとう〜!」って、ななっちに笑ってハグをしたら……
「あ!ダメですっ!!!私、強要してませんよね?
独占もしてないし!みんな見てましたよね?
これ、セーフですよね?
あの、ごめんなさいっ!」
……え?
ななっちは、ウチから距離をとるとペコリと頭を下げ、急いで席に戻り……荷物を掴むと、そそくさとお会計に向かった。
そしてもう1回、頭を下げたかと思ったら、店の外に飛び出して行った。
はぁ〜〜〜全く!
この空気、どうするのよ……“スマ法”めっ!
ふと見ると、ななっちのいた席には、ほとんど減っていない季節限定のマスカットパフェ。
ウチも食べたかったやつ。
そういえば、ななっち……ウチの店のショップバックを抱き締めてたな……
ん〜なんだかなぁ〜やるせない気持ちになるわ。
そんな事件?から数分後、彼ピがやってきた。
走ってきてくれたのかな?席に着くなり「あちぃ〜」って、ウチの前に置かれていた水を一気飲みした。
あ、ウチはお水に口を付けてないよ?冷たいモンを頼む時は、お水は先に飲まない主義。
彼ピもそれを知っている。
そして、新たに自分用にサーブされたお水も飲み干して、やっと人心地がついたみたい。
「ごめん!折角急いで来てくれたけど、場所替えてもいい?待ってる間にちょっとあって、ここには居づらいの。」
さっきのななっちとのことを掻い摘んで話すと、彼ピはすぐにOKって、席を立ち……
伝票を掴むとさっさと会計に向かった。
そしてレジスタッフに1000円札を差し出すと……
「コレで。お釣りは要らないです。お水ご馳走になったから。じゃ!」
って、手を挙げて出ていった。
高いアイスオレになっちゃったな……多分迷惑料込ってことだろう。
「ありがとう。ウチ払うから。」
「じゃ〜次の店、よろしく!」
ん?……こっちの方が高くつきそうじゃん???




