小さな星の叶えた願い
むかし、むかしのお話。
夜空にはたくさんの星が輝いておりました。
ぴかり、ぴかりと輝く星は暗闇に怯える人間の慰めになったり、砂漠をゆく旅人がどちらへ向かうか決める手助けをしておりました。
人々は星に祈り、願い、希望を託しました。
ある時、小さな星が新しく誕生れました。
生まれたばかりの小さなその星は周りの、ただぴかり、ぴかりと輝くだけの星と違い不思議な力を持っておりました。
ふふん、地上の人間は星に祈っているけれど、本当に願いを叶えられるのは僕だけさ
小さな星は周りのただぴかり、ぴかりと輝く星よりも自分はすごいんだぞ、と息巻いて人間のお願いを次々に叶えてゆきました。
今にも息絶えそうな百姓の日照りの村へ雨を降らせたり、お金持ちになりたいと願う若者へ金貨の埋まっている場所を教えたり、病で苦しむ娘を治したり、ある時は隣の国を滅ぼしたい王様の願いを叶えたりしました。
その後も数えきれぬ人々の願いを叶えた後は、みんな願いが叶ったことを喜んで星に感謝をしました。
そうだろう、僕は周りのただ光ってる星とは違うんだ
小さな星は得意になって、僕がこの中で一番すごいんだぞ、と叫びました。
周りの星はただ静かにぴかり、ぴかりと輝くばかりで何も言いません。
それでも小さな星は満足し、くふふと笑っておりました。
月日が流れると願いを叶えてもらった人々は星に感謝をしなくなりました。
偶然雨が降って助かった
こんな大金を見つけた俺は運がいい
よく効くお薬をくださったお医者様のおかげ
余の鍛えた軍隊の強さの勝利じゃ
あれあれ、願いを叶えたのは僕なのに!
小さな星は周りの星に向かって訴えます。
ね、みんなも見てたでしょう!?
僕が人間の願いを叶えたところを!
周りの星はただ静かにぴかり、ぴかりと輝くばかり。
小さな星は初めて淋しいと思いました。
あるところに1人の少女がおりました。
がりがりに痩せ、ぼろぼろの服を纏い、ざんばらの髪はとても短く男の子のようです。
女の子はふらふらしながら星が瞬く時間になっても懸命に畑を耕しておりました。
ですが、とうとう力尽きぐらりとそのまま背中から土の上に倒れこんでしまいました。
天には無数の星が輝きを放っておりました。
少女のうつろな瞳にもぴかり、ぴかりと光る星がうつります。
ですが、少女は何も願いません。
小さな星はなぜだろうと不思議に思い、思いきって声をかけました。
今までは人間の祈りや願いを聞くばかりで自分から話しかけたことはなかったのです。
ねぇ、君、何をしているの?
君は星に叶えてもらいたいお願いはないの?
小さな星は少女がごちそうを食べたいだとか、美しいドレスを着てみたいと願うと思っていたのです。
ですが少女はかすかに首を横にふりました。
もう、ないの
だってもう、私のものは何一つないんだもの
優しかった母親は神様が連れていってしまった
頼もしかった父親は新しい母親に
毎日のパンは急にできた兄弟に
美しかった長い金の髪は髪買いが乱暴に切って持っていってしまった
そして、明日にはこの身は人買いへと渡されるのだ
きっともう、私の心も私のものではないんだわ
少女のうつろな瞳から涙が一粒こぼれます。
それはきらきらと輝き、まるで星のようでした。
小さな星はたいへん驚きました。
小さな星は初めて考えました。
小さな星ももう少女から何も奪ってほしくはなかったからです。
贅沢な食事も豪華なドレスもみな人にとられてしまうものです。
どうしたら、少女に奪われないものを与えてあげられるだろう。
小さな星はうんうんと考えました。
そうだ、僕が君のところへ行くよ
それなら僕がきみの側を離れると言わない限りずっと君のものだ
そして僕はそんなことは言わないから、僕らはずっと一緒だよ
本当?
誰にもとられないでずっと私のそばにいてくれるの?
あぁ、本当さ
今そちらへ行くよ
小さな星は砂金のような煌めきの尾をたなびかせ少女の胸元へと降り立ちました。
小さな星は始めからつけていたペンダントのようにそこへしっくりと収まります。
さぁ、もう、君は自由にしていいんだ
誰も何も君から奪うことはないからね
小さな星がふりまいた砂金の煌めきが消える頃、少女のガリガリの腕にはうっすらと肉がのり、手足の泥は消え失せ、ぼろぼろの服はしっかりとした仕立ての服となり、風が長い金の髪を揺らします。
ずっと一緒にいてくれる?
もちろんさ
君もずっと僕と一緒にいてくれる?
もちろんよ
瑠璃色の朝霧の中、少女が歩きだすのを星達はぴかり、ぴかりと静かに見守っておりました。
それからというもの人々は願い事をするときに夜空に輝く星ではなく、地上に降りる流れ星を探すようになったのでした。