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第33話 スライム狩りを始めよう

 スライムの怪物とルノが、とうとう戦いを始めてしまった。


 私やテシアの周りも、村人に擬態したスライムたちに囲まれ、危機的状況に陥っている。


 そんな中、私はふと天界の女神ロイスの言葉を思い出した。


「――あなたにもう一度、やり直しの機会を与えます。再びここから異世界へと戻り、邪悪な魔王を倒して欲しいのです」


 ルノが王下八魔凶の一人だと分かった今、彼女は魔族であり、私が倒すべき敵であることは明白だ。


 ……だが、私はどうしてもルノを邪悪な者として見ることができなかった。


 これまで少しの間だったが行動を共にして、私は彼女の優しさや思いやり溢れる行為をいくつも見てきた。


 だから、例えその姿がどんな邪悪な怪物に変わろうとも、私はルノが持っていた善良な心を信じたい。


 ……だから私は、賭けに出ることにした。


「テシア! 乗るんだ!」


 私はその場に居たテシアを助手席に座らせ、アクセル全開で走り出した。


 その後ろを、村人擬態スライムたちが追い掛けてくる。


「村人たちが……私たちの村の人たちが……」


 助手席で涙を流しながらそう訴えるテシアに、私は言う。


「テシア、シスリ村の住人は皆あのスライムの怪物に殺されたのか?」

「ええ……みんな食べられてしまって、それでトゥイナ姉が、絶対村の仇を討つって……でもこのままじゃ、トゥイナ姉もあのスライムに殺されちゃう!」


 遠くの方では、ルノが再び魔術によって土の槍をいくつも生成し、群がるスライム目掛けて放ち続けていた。


 しかしスライムは攻撃を受けて倒れても、そこからまた次の新たな個体が湧き出てくる。これではいくら倒してもきりがない。


「あのスライム、何か倒す方法は無いのか? このままではルノの体力が持たない」

「えっと……普通、その辺に居るような小型スライムと出遭った時は、体の中にある核の魔石を壊せば倒せるって教わったけれど……」


 なるほど……ならばあの怪物も、体のどこかに核の魔石を隠しているに違いない。


「多分、村人に擬態したスライムたちは皆、あの怪物スライムの分身なんだろう。どれかの個体に一つしかない魔石を隠しておけば、それで相手をかく乱させることができる」

「で、でもこんな数が居るのに、どうやって魔石を持っているスライムを見分ければいいの?」


 私はブレーキを踏み込み、スライムたちの群がる中心にチートーを停車させた。


 すると、村人に擬態したスライムたちが瞬く間にチートーの周りを取り囲み、じりじりとにじり寄って来る。


「た、タケユキ様、何を?」

「”下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる”。単純すぎるが、それも立派な手の一つだ」


 私は助手席手前にあるグローブボックスを開けて革製のドライビンググローブを取り出し、両手にはめる。


「テシア、目を閉じて伏せていた方がいい。あそこに居る村人たちは皆、あのスライムが作り出した亡霊だ。彼らはもう君たちが知っている村人たちじゃない」

「……はい、分かっています。どうか、トゥイナ姉をあの化け物から救ってください」


 テシアは私にそう伝えて目を閉じ、周りを見ないよう助手席の上で身をかがめた。


「よし。……では、スライム狩りを始めようか」


 私はギアを一速へ入れ、一気にアクセルを踏み込む。


 ギャギャッ! と後輪が地面を抉ってチートーが発進した。


 車線上には、迫り来る大量の擬態スライムたちの姿。


 私は容赦なく彼らに向かってチートーを走らせ、襲って来るスライムたちに体当たりし、轢き潰した。


 ベチャベチャッ! とスライムが液状になって弾け飛び、奴らの武器である酸性の粘液がチートーの車体にへばり付く。


 しかしチートーのボディーは溶けるどころか、煙すら上がらない。


「どうやら、ルノを食人植物の胃の中から救い出した時に得たスキルが、効いてるみたいだ」


 【酸耐性】――これがあれば、スライムの強酸攻撃を防ぐことができる。


 このまま、スライムたちを片っ端から轢き潰していけば、いずれは核持ちのスライムに当たるはずだ。


 ……しかし、ここで一つ問題が起きる。


 轢き潰したスライムがタイヤ周りに絡み付いてスリップし、上手く車体をコントロールできなくなってしまったのだ。


 とうとう完全に足を取られてしまい、動けなくなったチートーに、スライムの軍勢が押し寄せてくる。


「くっ……仕方ない。【魔力解放マジカルブースト】!」


 辛うじて魔法のニトロを発動し、スライムたちの猛攻を振り切って抜け出すことに成功する。


 それにしてもなんて戦いにくい相手だろう。下手に轢き潰すとまたさっきのように足を取られて動けなくなってしまう。逃れる術の【魔力解放マジカルブースト】もクールタイムで使えない。このままではスライムたちから逃げ回るだけで、いずれこちらの魔力も尽きてしまうだろう。


「何か他に打つ手は無いのか……」


 私はふと後ろを振り返り、後部座席へ目を向ける。


 そこには……


「トゥク?」


 座席の上でポヨンポヨン跳ねているトゥクトゥクと目が合った。


「……そうか、【未来予知】だ!」


 私はすぐさまトゥクトゥクを捕まえて助手席に座るテシアの膝上に乗せる。


「テシア、すまないがこの子をしっかり抱いていてくれ。トゥクトゥク、今から私が轢こうとするスライムが魔石持ちかどうか、数秒先を予知して俺に伝えることはできるか?」


 突然そんな無茶を振られてしまい、トゥクトゥクは「トゥクッ⁉︎」と酷く驚いた顔をしていたが、それでもできると判断したのか、「トゥック!」と頭を縦に振ってくれた。


「よし、では行くぞ!」


 私はチートーを発進させ、ちょうど目の前に居たスライムの一体に標的を絞る。


「こいつはどうだ?」


 私がそう問いかけると、トゥクトゥクは素早く【未来予知】スキルを使って、チートーがスライムを轢き潰す数秒先の未来を見る。


(……コレ、チガウ。持ッテナイ)


「違うか。よし、なら次だ」


 脳内にトゥクトゥクの言葉が直に伝わり、私は即座に方向転換して次のスライムへ目標を定める。


「こいつはどうだ?」

(……コレモ、チガウ)

「じゃあこいつは?」

(……チガウ)


 トゥクトゥクの予知結果を聞くなりすぐさま方向転換、また方向転換を繰り返し、襲って来るスライムたちが魔石をもっているかどうかを瞬時に見分けてゆく。これでいずれは魔石持ちの本体に当たるはずだ。


 ……しかし、どれだけ未来予知で見抜いても見抜いても、一向に魔石を持ったスライムを引き当てられない。


(まさかここに居る奴らは核を持っていない? 別の場所に隠してあるのか? だとしたら何処に……?)


 私が試案を巡らせていると、脳内にトゥクトゥクの声が響いてくる。


(……スコシダケ、マッテ。……分岐スル未来を全テ見通シテ……引キ当テル未来、探シテミセルカラ……)

「トゥクトゥク? 一体何を……」


 トゥクトゥクは黙り込み、目をつむったまま額にしわを寄せる。


 どうやらトゥクトゥクは、この先何百……いや、下手すれば何千にも枝分かれする私たちの未来の中から、数千分の一の確率で魔石を持つスライムを引き当てるを未来を探し当てようとしているらしい。


 そんな気が遠くなるほどに過酷な難業を、この小っぽけな生き物がやってのけようというのか?


 私が心配してトゥクトゥクを見ていると、やはり小さな体で何千もの未来を見通すのは流石に負荷が大き過ぎたようで、やがて苦しむように呻き、鼻血を流し始めた。


「トゥクトゥク、無茶するな。それ以上能力を使うと体がもたないぞ」

(……大丈夫、キット探シ出セルカラ………)


 トゥクトゥクは鼻血で口元を赤く濡らしながらも、必死に体力を削って、何千分の一の未来を探し続ける。


(トゥクトゥク、お前、私たちの為にここまで……)


 私は、自分の命を危険に晒してでも他人に献身しようとするトゥクトゥクの態度に心を打たれ、そして、同時に強く願った。


 必ず、あのスライムの怪物を倒す糸口を掴んでやろう――と。


◇◇◇


 ……幸運にも、私の願いは天に聞き届けられたようだった。



(…………見ツケタ!)


 私の脳裏にトゥクトゥクの声が響く。


 この小さな生き物は、幾つも枝分かれした未来から、奇跡的に何千分の一の確率を引き当ててみせたのだ。


「何処だ⁉︎」

(……ココニハ居ナイ……南南西、少シ先、丘ノ上ニ隠レテル………)


 弱った声でそこまで伝えたところで、トゥクトゥクは力尽きたようにテシアの腕の中で眠りに落ちてしまった。


「良くやった。偉いぞ!」


 私はハンドルを切ってチートーを百八十度スピンさせ、進路を南南西に合わせる。


 後はアクセルベタ踏みで、ひたすらトゥクトゥクの指示通りの方向へチートーを走らせた。


「テシア、周りに何か動くものを確認できるか? そいつがきっと魔石を持ったスライム本体だ」

「………あっ、あそこっ! 岩陰に何か影が見えました!」


 テシアの指差す先、右に見えた丘の上に、小さく蠢く影を視認する。


 ちょうど丘の下にはシスリ村が見えており、未だにルノがスライムたちと戦っている様子が見えていた。


「……なるほど、自分の分身を使役して戦わせ、自分だけは安全な場所に潜んで高みの見物という訳か。弱点である心臓部さえ敵の見えないところに隠しておけば、まさに向かうところ敵無し。……確かに上手いやり方だが、フェアじゃないのは好かんな」


 私はスライムの怪物本体に向かってチートーを走らせる。


 スライムの体の内側に、赤く光る魔石が見えた。間違いない、奴が本命だ。


 そのスライムは、分身たちの戦いの方ばかりに気を取られてしまっていたようで、いつの間にか自分の背後まで私たちが迫っていたことに今更ながら気付き、泡を食って回避しようとする。


 ……だが、もう遅い。


 カシャン! と、ステアリング裏に赤いパドルスイッチが飛び出す。


 魔力の再充填(クールダウン)完了。私は躊躇うことなくスイッチを押し込んだ。


「――【魔力解放マジカルブースト】」


 ボッ! とマフラーから赤い炎が噴き出し、急加速したチートーが、一目散に逃げてゆくスライムに食らい付く


 バシャッ‼︎


 爽快に飛び散り弾けるスライムの肉片。


 そして、チートーのフロントバンパーが、怪物の心臓部である魔石を、粉々に打ち砕いた。

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