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第32話 王下八魔凶が一人、シロエ・クサラ

「………あれは……ルノ、なのか?」


 光が消えた時、私は自分の目を疑った。


 獣人だったルノが、突如として巨大な黒い獣に変身してしまったのだ。


 その獣は四本足で地面を踏みしめ、体勢を低くして牙を剥き出し、唸りを上げ威嚇する仕草を見せていた。


 威嚇している相手は……スライムのようなドロドロとした巨大な塊?


 どうやらあれも、この世界の生き物らしい。見た目がかなりグロテスクだが、トゥクトゥクの言っていた二人に降り掛かる災いとは、あのスライムのことだったのか?


「なっ⁉ ダークレオンに変化したぁ!? しかもこの尋常じゃないな魔力量………君さぁ、普通の獣人じゃないよね?」


 スライムの怪物は驚愕の声を上げ、獣に向かって問いを投げる。


 すると黒い獣は、鋭い牙の並ぶ口を開いて言葉を返した。


『ええ、そうね。……それに、アンタとは前から面識があったかもしれないわ。この姿なら、覚えているんじゃないかしら?』


 獣の口から発せられたその声は、怒気は強いが間違いなくルノ本人のものだった。


 獣化したルノからそう聞き返されたスライムの怪物は、何かを思い出したかのように全身を震わせて声を上げる。


「あぁ……まさか君は、かつて()()()()()()()()()()()()だった、”黒き百獣の王”――シロエ・クサラ!」


 その言葉に、私は自分の耳を疑った。


(王下八魔凶?……確か第二次人魔大戦の時に猛威を振るった、魔王率いる八人の幹部たちのことだと、以前女神ロイスから聞いた。……まさか、ルノがその一人なのか?)


 つまり私は、敵である魔王の幹部を命の危機から救い、これまでずっと同伴していたという訳なのか?


 そんな事、とても信じられなかった。


「……お、おねえ、ちゃん? これが、トゥイナ姉……なの?」


 テシアも変わり果てた姿のルノを前に、呆然と立ちすくんだまま動けないでいる。


 すると、そんなテシアを見つけた黒い獣は、唸るのを止め、震える彼女の前で深く頭を垂れたのである。


『……テシア、ごめんなさい。初めて出会った時からずっと黙っていたけれど、これが私の本当の姿なの。……そして、ルノ・トゥイナという名前は偽名で、本当の名前はシロエ・クサラ――かつて魔王に率いられ人間族と戦った”王下八魔凶(おうかはちまきょう)”と呼ばれる幹部候補八人のうちの一人。ダークレオンのシロエ……それが私なの!』


 そう、私たちの前で正体を打ち明けるルノ。


 ダークレオン――それが、彼女の本当の種族名なのだろう。見た目はまるでライオンのようだが、燃えるように赤い瞳には、かつて獣人だった頃のルノの面影が残っていた。


「そんな、トウィナ姉が魔族だったなんて……」

「これまでずっと黙っていたことは謝るわ……でも今はこの姿で、シスリ村の人たちの命を奪ったあの化け物を倒すって決めたの! それでテシアへの罪滅ぼしができるなんて微塵も思っちゃいないけど……でも、それでも村人たちの仇だけは討たなきゃ!」


 そう叫んで、ルノは再びスライムの怪物へ視線を戻し、威嚇の姿勢をとる。


 一方、スライムの怪物は、そのドロドロとした液状の体を大きく震わせて笑い声を上げた。


「……ふふっ、あはははははははっ‼︎ これはこれは、面白い事になってきたねぇ! ”黒き百獣の王”シロエ……百年前に起きた第二次人魔大戦で行方をくらませてから、てっきり殺されたんだと思っていたけど、まさか獣人の姿に化けて紛れていたなんてねぇ。王下八魔凶でもある君が、どうしてこんな寂れた村で隠遁生活をしていたんだい?」

『ふん、久しぶりね。”骨までしゃぶるハンヴィル”。よりによって八魔凶の中で一番会いたくなかった奴と最初に出会っちゃうことになるなんて、つくづくツイてないわ』

「だ〜か〜ら〜、その呼び方はやめてよシロエ。聞くだけでもなんか弱そうな渾名じゃないか。……ま、人魔大戦で人間相手に簡単にやられちゃった君までじゃないかもしれないけど」

「勝手に殺さないで。この通り身も心もピンピンしてるわ」

「それは良かった。でも魔族が魔族以外の種族と一緒に暮らすなんて、魔王メルデウス様に忠誠を誓った君がそんなことしちゃうんだぁ? 魔王様はさぞかし落胆するだろうねぇ」

「うっさい、何しようとこっちの勝手でしょ? てか、今は人間サイドに付いてるアンタに言われたくないんだけど」

「コルドバン様は特別だよ〜。彼は魔族のスライムであるボクを凄く大事にしてくれてさぁ。いつもご褒美に上手い人間の肉を一杯食べさせてくれるんだ~。凄く優しい人なんだよ。堅物で不愛想な魔王様なんかと比べたら大違いさ!」

「魔王を悪く言うとか、魔族としてサイテーね」


 お互い敵でありながらも、同族であることの繋がりからか、二人の間で会話が弾む。


 しかし、やがてスライムの怪物も良い加減に飽きたのか、「あははっ……まぁいいや」と他愛無い話を切り上げる。


「さてさて、退屈なお話はここまでにして、そろそろ楽しいディナータイムを始めようよ〜!」

「……望むところよ。アンタなんか一撃で終わりにしてあげる」


 殺伐とした空気の中、ルノは前足を伸ばして更に姿勢を低くし、全身の毛を逆立てる。


 すると、彼女の立っている周りの地面に亀裂が入り、大地が音を立てて砕け、巨大な土の塊がいくつも宙へ浮き上がった。


 そして土の塊は粘土のように形を変え、鋭い槍の姿へと変わる。


 ルノの周囲に形成された土の槍――その数は五十……いや百以上はあるだろうか?


「驚天動地! 降り注げ【大地の矛(グランドスペア)】っ!」


 ルノの掛け声と同時に、地面から生み出された無数の槍がスライムの怪物へ降り注いだ。


 槍の全てを投げ切っても、また直ぐに新しい土の槍が地面から生成され、止むことのない槍の雨が五月雨さみだれに襲う。


 槍はスライムの体を貫き、貫かれる度に体を削られて、みるみる小さく萎んでゆく。


 そして、槍攻撃を受けるスライムの頭上には、いつの間にか地面から削られた土が一点に寄せ集まり、巨大な塊を形成していた。


「これで終わりっ! ほふれ【大地の顎(グランドバイト)】っ!」


 次の瞬間、岩のように巨大な土塊つちくれがスライムの怪物の真上に落ち、跡形もなく押し潰した。


 そのまま、土塊は地面と一体化するようにならされていき、やがて元の平坦な地面に戻ってしまう。


 ここまで、わずか一分足らずの出来事だった。スライムの怪物は土塊に飲み込まれ、地面の深くに埋め立てられてしまったのだ。


 ……確か以前ルノが、自分の属性は土だと言っていたことを思い出す。ゆえにこの攻撃も、土属性を生かしたものなのだろう。


 スライムの怪物が埋められた地面に何も変化は起こらない。


 これで決着が付いたのか――


「あはははははははっ‼︎ そんな攻撃だけでボクを倒せたとでも思っているのかなぁ?」


 しかし、喜ぶのはまだ早かった。


 何処からか突然声がしたかと思えば、ルノの死角を狙うように小さなスライムが飛び出し、彼女の足元に取り付いた。


 途端にジュッと音がして、ルノの足元に白煙が上がり、焦げた悪臭が立ち込める。


「っく………!」


 ルノは表情をしかめ、足に取り付いたスライムを振り払う。


 スライムが触れた彼女の足は、覆っていた毛が溶けて、赤く炎症した皮膚が剥き出しになってしまっていた。


「強酸攻撃っ……」

「あはっ! 単に体が大きいからといって、そいつがボク本体とは限らないじゃないか〜。こんな小さな体でもボクはボクなんだから」

「ぐっ……例えどんなに姿形を変えようと、本体を潰せばアンタも終わりよ!」

「ふふふ……その脳筋思考なところも昔から変わらないなぁ君は〜。……でも、僕は()()()()()()()()()()んだよ〜?」


 スライムの怪物がそう言葉を吐いた途端――


 ルノと私たちの立っている周りの草むらが揺れ動き、無数のスライムの塊が湧き出てきた。


 わらわら集まってきたスライムの集団は、各々四肢を伸ばして人間の形へと変化していき……


 やがて、私たちの()()()()姿()に変わった。


「……おやおや、ルノ姉妹が村に帰ってきたよ」

「あぁ、遅かったじゃないか。……心配していたんだよ」

「二人とも無事に帰ってきてくれて……今夜は皆で祝杯を挙げないといけないねぇ」


 ――それは、既にスライムに襲われ亡くなった村人たちの生き写し……


 スライムによって創り出された、村人の亡霊たちだった。


「っ! ……なんて非道なことを」

「あはははっ! 戦いに人道も道徳も無いよねぇ? それにボクらは魔族だよ? 非道なことをしてこそ、真の魔族なんじゃないのかなぁ?」

「真の魔族は、お前みたいに卑怯な手なんか使わないっ!」


 ルノの叫びが周囲にこだます。


「あはははっ! 何とでも好きに言いなよ。ボクが君の抱くその幻想的な思想を、ベッチャベチャに汚してあげるからさぁ‼︎」


 スライムの怪物は、村人に擬態したスライムの集団を率いて、ルノに襲い掛かってゆく――

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