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第22話 迎えを頼む、大至急だ

 それから、私とルノは冒険者ギルドの名義登録窓口へ行き、冒険者となるための手続きを行った。


「登録者は、カンナギ・タケユキ様――でお間違いないでしょうか?」

「ああ、そうだ」

「ご職業は何にお就きになりますか?」

「”運び屋(トランスポーター)”で」

「トランスポーターですね。承知いたしました! では冒険者証明書(ライセンス)を発行いたしますので、登録料と発行料含めて銀貨十枚頂きます」

「登録だけするのにも随分とかかるものだね」


 私がそう言って肩をすくめると、横からルノが割り込むようにして受付嬢の座るカウンターの前に銀貨十枚を置いた。


「はい、これ。……あ~あ、これで当初買い出しに使う予定だった予算を半分も失っちゃったわ。一体どうしてくれるのかしら?」


 そう言って、私の方をじーっとにらんでくるルノ。


「……分かった。借りはきちんと返すよ」

「ふふっ、その言葉が聞きたかったわ!」


 ルノは「してやったり!」とでも言いたげに両腕を後ろにやりながら、いたずらっぽく笑う。なんだか彼女の思惑通りに事を運ばされているような気がしないでもなかったが……まぁ良いだろう。



「おいジーフ! お前その籠に入れてたブツはどうしたんだよ?」


 ――と、その時、受付の方から声が上がったのでそちらを振り向くと、また例のSクラス冒険者四人組が何やら騒ぎを起こしているようだった。


「あれぇ? さっきまでちゃんと籠に入ってたのになぁ……」


 ひょろ長い盾男のジーフが持ち上げていたのは、小動物を入れておくような小さな檻。しかしその籠の中に居たらしい動物は居らず、檻は空っぽだった。


「バカ野郎、早く探せ! まだそう遠くへは行ってないはずだ。そこに入ってたブツは必ず生きたままとっ捕まえるんだぞ。生きたまま捕獲しねぇと金が手に入らねぇからな!」


 リーダーの男マスダンクが配下の三人にそう言い付けると、四人はバタバタと外へ出て行く。


「……あちらで、何かあったようだね」

「どうやら、捕獲クエストをこなした際に捕らえた獲物が、目を離した隙に逃げ出しちゃったみたいです」


 受付嬢がそう答えると、「あらあら、それは大変ね」とルノが呆れるように肩をすくめて言った。心底どうでもいいと、うんざりしたような顔で。


「では、請求金額ちょうど頂きましたので、これから証明書(ライセンス)を発行いたしますね! 少々お待ちください」


 そう言って、受付嬢はカウンターの奥へと姿を消した。


◇◆◇


「はぁ……トゥイナ姉、遅いなぁ……」


 一方その頃、ギルドの建物の外で二人の帰りを待ちぼうけていたテシア。


 しかし、いつまで経っても二人は戻らず、いい加減に待ちくたびれてしまった彼女は、建物の壁にもたれかかったまま頬杖を付いてしゃがみ込んだ。


 バンッ!


 と、その時、冒険者ギルド入口の扉が乱暴に開けられ、中から四人の冒険者が慌てて飛び出してゆく。


「お前ら、街中を隈なく探すんだ! 早くしねぇと金づるに逃げられちまうぞ!」


 一人がそう叫び、四人は何かを追って、瞬く間に遠くへ走り去ってしまった。


「な、何かあったのかな?……」


 驚きのあまりその場で呆然とするテシア。


 そしてふと、彼女は自分の立っていた隣に目を向けると……


 建物と建物の隙間から、外の様子を伺うようにヒョッコリと小さな生き物の頭が覗いているのが視界に入った。


「あっ…………」


 その小さな生き物と、目が合う。


「トゥク、トゥク…………トゥクッ⁉︎」


 小さな生き物は、自分がテシアに見られていることに気付くと、奇妙な鳴き声を上げて顔を奥に引っ込ませてしまう。


「あっ、ちょっと待って!」


 テシアは消えた生き物を追って建物の隙間へと体を滑り込ませ、狭い闇の中へと消えていった。


◇◆◇


「――大変お待たせしました! こちらが駆け出しAクラスの冒険者証明書(ライセンス)になります!」


 カウンター奥から出てきた受付嬢が、テーブルの上に小さな手帳サイズの金属板を一枚置いた。板には異世界の文字が小さく掘り込まれていたが、もちろん読めるはずもない。


「この証明書には、これを持っている上での注意点が記載されています。中でも重要なのは、各地に散在するダンジョンに潜る依頼クエストを受けられるのはCクラス以上の冒険者であること。クラスによって受けられる依頼の種類や報酬額も変わってきますので、あなたもクラスアップを目指して頑張ってくださいね!」


 受付嬢はそう言って、私に向かってニコリと満面の笑みを向けた。


「ありがとう。努力してみるよ」


 私はそう言葉を返して受付嬢に軽く頭を下げ、その場を離れた。


「……やれやれ、証明書一枚作るだけでお金も時間もこんなに取られるとは。例え世界が変わろうと、お役所仕事は何処も同じようなものだな」


 受付嬢の耳の届かないところまで離れたところで、私は思わず溜め息を漏らしてしまう。


「まぁでも良いじゃない。これで、晴れてユッキーも冒険者の仲間入りよ! 早速受注できる依頼(クエスト)を探さなきゃ……って、あ、そういえばテシアを外で待たせっ放しだったわ! 早く戻らないと!」


 そう言って、ルノは急いで建物の外へ出る。



 ……ところが、入口の周りを探しても、テシアの姿は見当たらなかった。


「おかしいわね……あの子ったら、一体何処へ行っちゃったのよ?」

「いつまでも私たちが帰って来ないから、待ち飽きて商店街の方に行ってしまったのかもしれない」

「いつもは私の言うことをきちんと聞いてくれるのに……仕方ないわね。手分けして探しましょ。ユッキーはあっちをお願い」

「分かった」


 私はルノと別れて、テシアを探して町の通りを歩いて回った。


 けれど、街の通りは通行人が多く、人探しは困難を極めた。露店を出している商人に「フードを被った小さな女の子」を見なかったか尋ねもしたが、皆そろって首を横に振るだけだった。


 探し疲れてしまった私は、街の中央にある噴水広場に腰を下ろし、スーツのネクタイを緩めた。


 車に乗るようになって歩くことを疎かにしていたせいか、少し体力が衰えたような気がする。


(昔は何時間と動き回っても平気で居られたのだがな……)


 そんなことを思いながら、さて次は何処を探そうかと迷っていた、その時――



 「………いやぁあああああああっ!」


 微かに遠くからテシアの悲鳴が聞こえ、私は咄嗟に周囲へ目を向けた。


 パタパタパタ、と街の一角から鳥たちが飛び立ってゆく。


(……あそこか!)


 私は鳥の飛び立った方へ駆け出した。


 さっきの悲鳴から、テシアの身に何かあったのは明白だ。誰かに襲われたか、事件に巻き込まれたのか……


 しかし、今の私は丸腰で武器もない。ここは、頼れる相棒チートーの力が必要だ。


(これまであまり使う機会が無かったが、()()()()を試してみるか)


 私は自分の左腕を見た。


 手首に付けられていたのは、茶皮ベルトにクロノグラフの文字盤が付いた、一見何の変哲もない腕時計。


 ……だが実はこれ、ただの腕時計ではない。


 ――トム・ポーラ&デニス製、AI連動機能付き腕時計『CH-900アロイシャス ドライブマスター』。


 自動車メーカーのトム・ポーラと高級腕時計メーカーのデニスが共同制作した腕時計で、デニスの人気モデルであるアロイシャスに、チートー900Sに搭載されたAIシャシーを呼び出すことのできる呼出機能を追加した特別製の腕時計。チートーの所有者のみにしか与えられない限定品の一本だ。


 ディーラーでチートーを購入した際にオプションで用意されたものなのだが、車と同じく腕時計も好きな私にとって、これを合わせて買わない訳にはいかなかった。


 私は文字盤横に付いたボタンを押し、シャシーを呼び出す。


『……はい、武之様。お呼びでしょうか?』

「シャシー、すまないが迎えを頼む。大至急だ」

『承知しました。時計に内蔵されたGPSから武之様の位置情報を読み取り、お迎えに参ります』

「よろしく」


◇◆◇


 ――ちょうど同時刻。場所は移り、チートーの置かれた馬小屋にて。


 馬小屋の管理人が小屋の中を掃除をしていると、突然チートーのエンジンが独りでに始動し、唸るエンジン音に驚いた馬たちが一斉に暴れ始めた。


「なっ、何だぁ⁉︎ お前ら一体どうしちまったんだ⁉」


 驚き慌てる管理人を他所に、チートーの車内では勝手にハンドブレーキが下ろされ、ギアが1速に入れられる。


 そして地面に敷かれた藁を踏み荒らしながら急発進し、小屋の壁を勢い良く突き破った。


「おぉい! 何てことしてくれてんだぁ!!」


 管理人の叫び声がこだます中、小屋の外へ飛び出すチートー。


 小屋の中に居た馬たちも、チートーの開けた穴から次々と外へ逃げ出してしまい、嘆く管理人だけを残して、瞬く間に小屋の中はもぬけの空となってしまう。


 AIシャシーによって操られた無人のチートーは、運転席に乗せるべき主人の元へ向かい、エンジン全開で街中を駆け抜けていった。

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