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第16話 スキル【猫足】を獲得しました

「ルノ、つかまってろ!」


 私はギアを入れ、強くアクセルを踏み込んだ。


 高速で空転する後輪が、地面と摩擦を起こして白煙を上げる。


 すると、空転するタイヤに触れた糸が引火して一気に燃え上がり、めらめらと赤い炎を上げた。


 思った通り、タイヤと地面の摩擦熱で糸に火が付いたのだ。可燃性の強い繊維のようで、車体に絡み付いた糸にも燃え移り、チートーは瞬く間に炎に包まれてゆく。


 ピロロン


『――スキル【炎耐性】を獲得しました』


「凄い……硬いはずの糸が、こんな簡単に燃え切れちゃうなんて知らなかったわ……」

「やれやれ、これでは"鋼鉄の糸"という名も廃るな。……さて、さっさとここから逃げるとしよう」


 蜘蛛の糸から逃れた私たちは、向かって来る巨大グモに背を向けるようにチートーを急旋回させ、洞窟の中をひたすら突っ走った。


 しかし、洞窟の中ということもあり、地上と比べて悪路であることに加え、ごつごつとした岩肌をチートーのような大型セダンで進むというのは至難の業だった。


 その証拠に――


 ガツン!


「に”ゃ”う”ぅっ!! 痛ったぁ……ちょっと! もう少し優しく走れないの⁉」


 路面の凹凸に乗り上げる度、車体が跳ねに跳ねて天井に何度も頭をぶつけてしまうルノが、涙目になりながら叫んだ。


「てか、こんな足場の悪い洞窟を猛スピードで走っちゃって壊れない? 大丈夫なの?」

「大丈夫だ、一応この車は四駆だぞ」


 ……しかし、いくら四駆であるとはいえ、この尋常ではない揺れは流石に耐え難い。


 しかも上下に跳ねる分、スピードも落ちてしまうしパワーも上がらない。このままではあの巨大グモに追い付かれてしまう。


 ピロロン


 すると、携帯の通知音のような音と共に、シャシーの声が車内に響く。


『――スキル【猫足】を獲得しました』


(猫足? 一体何のことだ?)


 そう思った刹那、それまでガタガタと揺れの酷かった車内が一瞬のうちに落ち着いて静かになり、不安定だったハンドリングも安定して滑らかになった。


「さっきよりも運転がし易い……それに、乗り心地も一段に良くなった気がする」

「【猫足】は私の持つスキルよ! どんな足場の悪い道でも足を踏み外さないよう、足の裏が地面に吸い付くように走ることができるの。木の根が張り巡らされた凸凹でこぼこ道しかない森の中では、かなり重宝するスキルなのよ。まさか、私のスキルをコピーしたの⁉︎」


 なるほど、どうやらこの【猫足】というスキルは、車でいう足回り――つまりはサスペンションを強化させることができるらしい。


 確かに、辺り一面岩が転がるような悪路を、ショック最小限で乗り越え、凹凸も難なくいなし、決して踏み外すことなく地を吸い付くように走ってくれる。……まさに猫足そのものではないか!


「これはいい……なかなか良い走りになったじゃないか!」

「ちょっと何一人で感動してるの⁉︎ ほら後ろ見て! ワイアードタランチュラがすぐそこまで迫って来てるのよ!」


 私はサイドミラーから背後を伺う。ミラーには巨大グモが八本の脚を器用に動かし、こちらに向かって猛突進してくる姿が映っていた。


 猫足があれば、あのクモを振り切って逃げることもできそうだが、五分五分というところだろうか?


 それなら――


 私はハンドルを切り車を急旋回させると、向かって来るクモと正面に向き合った。


「ひぃいいっ! ちょ、何する気⁉︎」

「このまま追われ続けるくらいなら、今ここで片を付けておいた方がいいだろう?」

「片を付けるって……正気なの⁉︎ あのクモを覆ってる鱗は――」

「”鋼鉄と同じくらい硬い”って? 心配いらない。私のチートーならきっと大丈夫だ」


 私はアクセル全開で、巨大グモの足元に滑り込む。


 クモは足を取られて胴体を地面に落とし、完全に腹這いの形になった。


 そのタイミングを狙い、車体を大きく振ってターンさせ、奴が体勢を立て直す前に、八本の脚全てを残さず轢き潰してゆく。


 ……これで身動きは完全に封じた。


 ピロロン


『――スキル【高度跳躍】を獲得しました』


 その時、シャシーが新たな能力を獲得したことを知らせた。


 丁度良い、この際早速使ってみよう!


「【高度跳躍】!」


 スキル名を叫んだ刹那、チートーの車体が宙高く飛び跳ねて、シートからお尻が浮き上がった。


「凄い……まるで某アニメに出てくるオートジャッキみたいだ」


 ウサギのように大きく跳ねたチートーは、そのまま身動きできない巨大グモの頭部へ強引に着地。


 クモの頭は圧し掛かる重圧に耐えられずペシャンコに潰れて緑色の血が吹き出し、雨となってチートーの上に降り注いだ。


『ワイアードタランチュラの討伐を確認。275PTの経験値を獲得』


 ピロロン


『チートー900Sのレベルが6に上昇しました』


「ああ、綺麗なボディーが血まみれじゃないか。これはとても一回の洗車じゃ落ちそうにないな……」


 私はワイパーを起動させ、フロントウインドウに付いたクモの血を払う。


 それから、助手席に座るルノを見ると――


「ふにゃぁあぁあぁぁああん……」


 彼女は先ほどの【高度跳躍】から着地したショックですっかり目を回してしまい、頭上にピヨピヨ鳥が飛んでいた。


「大丈夫か、ルノ?」

「はっ! ……と、跳んだ時、一瞬窓の外に走馬灯が見えた気がしたんだけど……」


 意識を取り戻したルノに向かって、私は言う。


「あの巨大グモならもう倒した。もう心配ないよ」

「はぁ……アンタったら、もう無茶苦茶よ。でもアンタと一緒なら、きっと死ぬまで退屈しないかもね」

「お褒めに預かり嬉しいよ」

「別に褒めてなんか! ……って、なんかまだ外から音がするんだけど、気のせい?」


 ルノの猫耳が反応するようにひょこひょこと動く、私は耳を覚ましてみると――


 ……車の外から、何やらカサカサと音が聞こえてくる。


 どうやらチートーの天井の上を何かが走っているようで、見上げるとルーフウインドウの上を無数の小さな影が横切った。


「ひっ!? ……さ、さっきの影は、何?」

「分からない。車を動かしてみよう」


 私は車を移動させて潰れたクモの上から降りると、ベッドライトで巨大グモの死体を照らす。


 すると、死んだクモの腹部に空いたハチの巣状の穴から、無数の小さなクモが次々と飛び出しているのが見えた。


「……どうやらこのクモ、子持ちの親だったらしいな」

「ひぃいいいいいいいっ‼︎ 気色悪過ぎるから早く出してぇ〜〜〜〜っ‼︎」


 思わず悲鳴を上げてしまうルノ。私はギアをリバースに入れ、後進バックでクモの死体から離れた。


 親グモの腹から飛び出た子グモの集団は、母親を殺され相当ご立腹らしく、目を真っ赤に光らせて逃げるチートーを追いかけてくる。


「つかまってろ!」


 バックのまま思いきり車体を振りフロントを前方に戻すと、すかさず前進に切り替えて洞窟の中を猛スピードで走った。


 途中、足元に居た小さなクモを何匹もタイヤに巻き込み、グチャグチャと轢き潰す音が聞こえた。


『ワイアードタランチュラ(子)の討伐を確認。120PTの経験値を獲得』

『ワイアードタランチュラ(子)の討伐を確認。120PTの経験値を獲得』

『ワイアードタランチュラ(子)の討伐を確認。120PTの経験値を獲得』

『ワイアードタランチュラ(子)の討伐を確認。120PTの経験値を獲得』

『ワイアードタランチュラ(子)の討伐を確認。120PTの経験値を獲得』

『ワイアードタランチュラ(子)の討伐を確認。120PTの経験値を獲得』

『ワイアードタランチュラ(子)の討伐を確認。120PTの経験値を獲得』


 ピロロン ピロロン ピロロン ピロロン


『チートー900Sのレベルが15に上昇しました』


 シャシーが忙しなくそう報告してくるが、正直うるさいだけだった。


「あぁ~~~もう! 何であんなキモい魔物とばっかり出くわしちゃうのよ〜〜〜っ⁉︎」

「それは魔物たちに聞いてくれ。とにかく一刻も早くこの洞窟から抜け出さないと、もっと醜い奴と出くわすことになる。飛ばすぞっ!」

「うにゃあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ‼︎」


 ルノの悲鳴が響く中、私たちの乗るチートーは化け物の溢れる洞窟の中をひたすら駆け抜けていった。

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