第14話 神殺しの力
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一方その頃、天界では……
武之一家を異世界へ召喚させた張本人――女神ロイスは、天界に居る女神たちの集う会議に出頭するよう命じられ、会議場へ向かっている最中だった。
女神たちの中でも下級クラスの自分が、最上位クラスの女神たちの集う場に呼び出されるなんて、一体何事だろうとロイスは思った。
(でも私、これまで仕事をサボったことなんて一度もないし、転移者数のノルマもしっかりこなしているし、怒られるようなことをした覚えは無いのだけれど……)
自分が何かやらかしたのではないかと心配になり、あれこれ過去の行いを回顧し頭をもたげるロイス。
「でも、最近は強い魔力を持った転移者を異世界へ送ったりもしていたし、天界でも大注目される有能な転移者もこの前送ったばかりだし、きっとその実績を讃えてくれるのだわ! そうに決まってる!」
ロイスはそう考えて開き直ったように態度を明るくし、胸を張って会議場へ続く扉を叩いた。
……のだが――
「……ロイス、貴様の犯した万死に値すべき失態について、心得ておるだろうな?」
「…………はい?」
彼女を待っていたのは、最上位女神たちからの冷ややかな眼差しだった。
「失態? 万死に値する? そ、それは一体どういう……」
「貴様が担当した転移者についてのことだ。名前は確かタケユキとか言う男だ」
「か、彼がどうかしたのでしょうか?」
ロイスが恐る恐るそう尋ねると、最上位女神の一人がパチンと指を鳴らす。
チートー900S Lv2/Ё
搭乗者:神凪武之
攻撃:315/Ё
防御:440/Ё
速度:324/Ё
すると、円形の議場中央にステータス画面が表示され、その場に居た女神たちが一斉にどよめいた。
「これが、奴が持っている装備の現在のステータスだ」
「そんな……」
画面を見た途端、ロイスも驚きのあまり手で口を塞いでしまう。
「本来であれば、レベルは99が上限で、攻撃・防御・速度の値は999が上限となるはずだ。仮に最大まで上限突破したとしても、レベルは999、各値は9999が最大で、それ以上はレベルが上がらないよう天界の法律により定められている」
そう解説する最上位女神。
「……ところが、この男の場合はどうだ? 全ての値の上限に定められているのは”Ё”。これは天界の言葉で”シロン”、我々天界の女神をも超える力の境地を意味する。すなわち――」
「上限が無い………つまり無限⁉︎」
上限無しとなれば、レベルを上げようと思えばいくらでも数値を上げられてしまうことになる。そうなれば、異世界の生態系サイクルを破壊するだけでなく、異世界に生きるありとあらゆる生物を凌駕する力を持ったも同然なのである。
「でも、どうしてそんな規格外れの能力が彼に?……」
「このレベル制限の規定は我々天界の神が定めたものだ。そのため、規定を変える権限は同じ神にしか与えられない。……また、あるいは――」
「あるいは?」
「神をも超える力や才を持つ者……つまりは神を倒した者にも、規定変更の権限が付与されるのだ」
「神を倒した者?………………あっ―――」
最上位女神の言葉を聞いた途端、ロイスはあることに思い当たってしまい、途端に顔を真っ青にさせた。
(彼に、あの車の試乗体験をさせた時―――)
あまりのスピードに止まり切れず、勢い良く正面から突っ込まれて思い切り吹っ飛ばされた時のことが脳裏にフラッシュバックする。
(まさか、あれで………)
――あの事故が原因で、武之は神を倒した判定とされ、天界の規律が書き換わってしまったのだ。
(犯人私だった――――――――――――――っ‼︎‼︎‼︎)
たらたらと冷や汗を流すロイスを前に、最上位女神たちは呆れたように項垂れた。
「……どうやら思い当たりがあるようだな」
「も、ももももも申し訳ありませんっっっっ‼︎ わ、わわわわ私は一体どどどどうしたらっ⁉」
完全に取り乱してしまっているロイスを前に、最上位女神たちは「ふぅむ……」と皆黙って考え込む。
「確かに我らも、規格外れな魔力を持つあの男に期待をしていたのは事実だ。故に、法律に背くイレギュラーな対応を取ってまで、奴を地上へ下した。……しかし、世界の管理側である天界の神をも凌駕する力を得る程となれば、話は別だ。何かしらの策は打たねばなるまい」
最上位女神が、他の女神たちを代表して言う。
「……だが、あの装備を持たせて世界に降ろしてしまった以上、こちらからは何も手出しできぬ。これも天界の定めた法律だ。これ以上法を捻じ曲げることは許されない。……もしそのタケユキという男が際限なく力を求め続け、レベルを上げ続けたとすれば、奴は魔王率いる魔族たちを壊滅させることはおろか、ありとあらゆる種族の最頂点に君臨することも可能となるだろう」
「そ、そんな……」
「それだけではない」
最上位女神は険しい表情のまま言葉を続ける。
「上限が無いとなれば、いずれは我々天界の神をも超える力を持つことにもなるかもしれぬ。そうなれば事はあの世界の問題だけに留まらない。神をも凌駕する”神殺し”の力……それを奴が持ってしまう可能性も否定できないのだ」
女神の放つ言葉に、会場内が再びどよめく。
「か、神殺しの力だと……」
「なんと恐ろしい!」
「その転移者が我々神々の命運すら握ってしまっているというのか……」
「その男が果たして信用に足る奴なのかも分からないというのに……」
周囲に集う神々の言葉でざわめく会場の中、ロイスは一人取り残されたように壇上で呆然と立ちすくむ。
「わ、私ったら……なんてことを………」
ショックのあまりわなわなと唇を震わせるロイスは、ふと、あの時武之から貰ったある言葉を思い出した。
―――「神の加護ならもう受けたよ。君のおかげでね」
「~~~~~~~~~~~~~っ!!!」
突然脳裏を過る、チートーに乗った彼の後ろ姿に、ロイスは思わず顔を赤くしてしまい、悶絶するように声にならない唸りを上げて両手で顔を覆った。
(あぁ~~~~~あああ、もう~~~~~~~っ!! ……絶対に、絶対に絶対に絶対に、あっちの世界で変なマネしないでくださいよっ!!)
ロイスは、自分が女神であるにも関わらず、神にも縋る思いで内心そう叫んでいた。




