そうだ!王都へ行こう!
ごく普通の領主の家系に生まれた魔力0の騎士ゼニス。魔力が使えない分、剣術に全振りした剣術馬鹿の普通?の騎士がひょんな事から助けた少女との運命の出逢いから様々な仲間と出逢い、世界を救うまでの幻想記。
セレーネ神殿の事件から2週間。
神殿の復興作業やマナの水質調査とが行われ、原因究明にうちの両親も借り出されて慌ただしく過ごしていた。
事後処理としてあの時に倒したミズガルドの鱗の一部と月虹石のを貰えたのは嬉しい誤算だったな。
月虹石は加工すると紫色の水晶になる。
紫水晶はイリスの瞳みたいだな…。
また会えるだろうか。
俺とアナスタシアはいたって平穏な日常に戻り、両親不在の間に領地経営にまつわる事務作業や管理運営など、こちらはこちらで忙しく過ごしていた。
「ゼニス、アナスタシア、ちょっと来なさい」
「はい。父さん」
「何でしょうか?」
オルフェリア王国から帰ってきた両親に呼ばれる兄妹。
「ようやく事件の調査がひと段落した。このタイミングで国王様からお前達に謁見要請が下った」
「それは一体どういう事でしょうか?」
「国王様は今回の事件を重く受け止めていてな。事件を未然に防げた事に感謝し、功績を与えると仰ったのだ。」
「恐れ多く…」
「名誉ある事では間違い無いからな。胸を張って行ってくるがよい。」
「10日後の建国記念日に先立って行うと仰っていたわ。国王様は貴方達の他にイリスとマルス君も招待すると仰っていたわよ」
「イリス達も!」
「また会えるのですね!」
「そうね。彼女達は王都は初めてだと思うから貴方達がしっかりエスコートするのよ?」
「お任せください!」
イリス達に会うのも1か月振りか。
元気にしてたのかな?
国王様との謁見だなんて緊張してるだろうな笑
そういう俺も緊張してるんだけど笑
「兄様!王都に行くのも久しぶりですね。建国祭の時期ですし、イリス様達にとっても観光時期としては丁度良い時期ですね。」
「そうだな。」
「そうだわ!アナスタシアの成人のお祝いに夜会用にドレスを一着仕立ててもらったら?フォンティーナの仕立て屋に連絡しておくわ。」
「母様!ありがとうございます。」
「ゼニスも入り用があったらいってきなさい。」
「はい。父さん。俺は工房に行ってミズガルドの鱗で鎧か盾を作ってもらおうと思います。」
「そうだな。楽しんで来なさい。」
翌日、俺とアナスタシアは王都へ向かった。
「イリス様達とは現地で合流ですか?」
「あぁ。母さんが手配してくれた宿で合流する事になってるな。」
「兄様的にも待ちきれないって様子ですね」
「おま…!」
「兄様にもやっとその気になりましたのね…。アナスタシアはてっきり兄様は剣と結婚されるかと思ってましたわ…」
「そんな訳無いだろ!!」
アナスタシアはわざとらしく溜息をついたりしている。
「でもイリス様程の美しい方は王都でもそうそういませんからね。うかうかしてるとどこかの貴族様にとられてしまうかもですね。」
「なっ…」
「兄様も贈り物の一つや二つされたら良いかと思いますわ」
「贈り物か…」
考え込む俺を見てアナスタシアはニヤニヤと楽しんでいるのだった。
年々母さんに似てきている気がする…。
レオンハート家の女性は強くなる血筋でも流れてるのか?
馬車に揺られ時折休憩を挟みながら1週間。
「兄様。王都が見えて来ましたね」
さすが王都。規模もうちの領地とは桁違いだな。
オルフェリア王国は温暖な気候で海と川に囲まれた水上都市で貿易国家としても盛んだ。経済的にも豊かで様々な人や物が行き来している。
建国祭は1か月間行われていて最終日の3日間は前夜祭・建国記念日・後夜祭と1年で1番人が集まる時期である。
前夜祭にあたる今日はブルーム祭と言われ、街中が色とりどりの花で飾られる華やかな祭りだ。
「やっぱり建国祭は賑やかですね。」
「そうだな…。相変わらずすごい人の数だな。まずはイリス達と合流しよう」
指定された宿を見つけ、中に入るとロビーにイリスとマルスが座ってお茶をしていた。
「ゼニス様!アナスタシア様!お久しぶりでございます。」
「お久しぶりです!」
2人は立ち上がり、満面の笑みで迎えてくれた。
「2人とも元気そうで良かった!」
「イリス達!会いたかったです!」
アナスタシアはイリスに抱きついて喜んでいる。
「どうだ?王都は?」
「俺もイリスも初めて来たんですけど、あまりの人の多さにビビってここから出られないんです」
マルスが子犬のような表情でしょんぼりしている。
「でも沢山のお花で街が飾られていて、とても綺麗です」
「今日はブルーム祭りだからな!今日は2人を王都観光に案内するよ!」
「おぉー!やったー!」
マルスはまたも子犬のように喜んでいる。
「ブルーム祭り…街の人もお花で飾ってる人も多いですね。」
「ブルーム祭りでは男性が好きな女性に花を贈る伝統があるんですよ。男性は胸元に一輪の花を挿して、それを女性の髪に花を挿して告白するんです。」
「ロマンチックですね…」
「はい。ところでお二人はどこか行きたい所はございますか?」
「お任せ致します。どこにどんな物があるかも分からないので…」
イリスは申し訳無さそうに笑う。
「俺は工房に行こうと思う。ここから近いしな。」
「俺も一緒に行っても良いですか⁈」
「あぁ!もちろん!」
「もう…着いてすぐに工房なんて!」
「はは…ちょっと用があってな」
「では私達もお買い物に行きましょう!」
「はい。アナスタシア様、よろしくお願いします」
「あ、イリス様。私の事はアナスタシアとお呼びください。敬語も不要です!」
「侯爵家の方に向かってそれは不敬に当たります!」
「私達は姉妹も同然ですもの!それにずっと敬語だと寂しい気持ちになります…」
「分かりました…アナスタシア…?」
「はい!イリス様!」
アナスタシアは嬉しそうに笑う。
イリスもなんだか嬉しそうだ。
「じゃあ俺も!よろしくな!アナスタシア!」
「!!」
突然のアナスタシア呼びに動揺するアナスタシア。
「マルス!」
「なんだよ?俺もイリスと歳は一緒だろう?」
「そういう問題じゃ…」
「ははは!だってよ!アナスタシアも構わないだろ?」
「はい…構いません…」
下を向きながら小声で呟くアナスタシア。
こいつも人の事をあーだこーだ言う割に自分の事になったら…笑
まぁ侯爵令嬢を名前で呼び捨てにするような人は周りにはいなかったもんな。
「それじゃあ、出掛けようか!一旦暗くなる前にまたここに集まってみんなで夕食に行こう」
「ではまた後ほど。」
こうして俺達は分かれて街に出掛けた。