忍び寄る影
ごく普通の領主の家系に生まれた魔力0の騎士ゼニス。魔力が使えない分、剣術に全振りした剣術馬鹿の普通?の騎士がひょんな事から助けた少女との運命の出逢いから様々な仲間と出逢い、世界を救うまでの幻想記。
-某所-
「セレーネ神殿は落とせなかったか」
「はい。申し訳ありません。居合わせた冒険者に邪魔立てされました。」
黒ずくめのローブ姿の男達が話している。
いかにも…という出立ちだ。
「冒険者…?冒険者如きがミズガルドを倒しただと?」
「はい。」
「ほぉ…。まぁ良い。風の神殿無き今、世界の理を破壊する時が来たのだ。水の神殿は警戒されるだろう。また別の計画を進めよう。次は失敗は許さぬ。」
「はっ」
そして男達は闇の中へと姿を消した…。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい。無事終わったのね?」
「母さん、その事で報告が。父さんはいらっしゃいますか?」
「お父様は書斎にいるわよ?」
「分かりました。」
すぐに居間に全員が集まり、セレーネ神殿の事を話した。
「よく無事で戻ってきたな。」
「そんな事があったなんて…私も同行すれば良かったわ…」
「お前がいくと大蛇どころが神殿まで跡形も無く…」
「あなた?何か?」
母さんが横目で父さんを睨む。
「いやいや。何はともあれ無事で良かった。ただ最近の魔物の多さといい、何か関連があると考えた方が良さそうだな。」
「そうね。こんな事は今までに無かったわ。姉さんの力が衰えたとは思えないし。」
「誰かが意図的に仕組んだとは考えられますか?」
「何の為に?」
「それは…分かりません…」
「しかしゼニスの言う通り、何者かが意図的に干渉しない限り、起きない事だわ。たまたま騎士団が不在の時にマナの力が弱まって封印された魔物が目覚めるなんて偶然が過ぎるわ…」
「私もそう思います。」
「なんにせよ、マイアの調査が終わって報告を見てからでは無いと安易には動けないな。この事はしばらくは外部には漏らさないように。もしこの事が本当に何者かの陰謀だとしたら…20年前の悲劇どころでは無いぞ…」
「「承知致しました」」
「イリスさんも大変な目に遭わせちゃってごめんなさい。」
「いえ!私は全然…」
「あら?そういえばそちらの男の子は…?」
「ヴェルドラの森からクロード神父様の命でイリスの護衛に来ましたマルスと申します。」
「マルス君も大変だったわね…怪我は無い?」
「はい!何ともありません!」
「だいたいの事は姉さんの手紙で分かったわ…。イリスさん達はこの後はどうするの?」
「私達はヴェルドラに戻ろうと思います。クロード神父様も心配されてると思うので…」
「残念だわ…。また遊びに来てちょうだいね?」
「イリス様!また一緒にお風呂入りましょうね!」
「ありがとうございます。落ち着いたら是非お邪魔させて頂きます」
「あ、そうだ…」
母さんがおもむろに立ち上がって部屋の奥から何やら箱を取り出してきた。
「洗礼も終えた事だし、これをあなたに差し上げるわ」
「なんでしょうか?」
「開けてみて!」
箱の中から出てきたのは青い宝玉がついた一本の杖だった。
「これは私が駆け出しの時に使っていたものなの。良かったら使ってくれないかしら?」
「このような大切な物は頂けません!」
「箱に入れて仕舞っておくより使ってもらえる方が嬉しいわ。本当はアナスタシアが神官になる時にあげようと思ってたのだけど…アナスタシアは杖じゃなくて剣を選んだから…」
「申し訳ありません…」
アナスタシアはバツが悪そうにしている。
「でも…」
「これからあなたもどんどん腕を上げて沢山の人を救うでしょう?そのうちこの杖を卒業する時も来ると思うの。それまではあなたの力になってくれるわ。」
「…大切にします。本当に何から何までありがとうございます」
「イリスさん…いえ、イリス。いつでも頼ってね。」
涙ぐむイリスを見てこちらまで熱くなってくる。
「これも何かの縁だから、2人とも困った事があったらすぐにうちに来なさい。」
「ありがとうございます。」
翌朝、イリスとマルスはヴェルドラへと帰っていった。
「兄様、イリス様達がいなくなって寂しくなりますね。なんだか何年も一緒に過ごしたみたい…」
「そうだな…なんか濃厚な1週間だったな」
本当に色んな出来事が一気怒涛に訪れた1週間だったな…。