洗礼の儀式
ごく普通の領主の家系に生まれた魔力0の騎士ゼニス。魔力が使えない分、剣術に全振りした剣術馬鹿の普通?の騎士がひょんな事から助けた少女との運命の出逢いから様々な仲間と出逢い、世界を救うまでの幻想記。
礼拝堂から扉を抜けると外に繋がっていて、セレーネ湖が眼前に拡がっている。
「まず洗礼を受ける前にセレーネ湖の湧水で沐浴をしてもらいます。こちらに着替えて身を清めてきてもらえるかしら?」
「承知致しました。」
「終わったら私達はそこの中庭にいるから来てもらえるかしら?」
「はい。では行ってまいります」
イリスは礼拝着を受け取って沐浴場に入っていった。
沐浴場はセレーネ湖から湧き出る泉の源泉掛け流しで中央の浴槽のようなものに浸かって祈りを捧げ身を清めるとゆう。
この湧水自体が聖なる力を帯びていると言われ、薬の材料として使われる事もあるそうだ。
(簡単には手に入らないらしいが…)
「不思議…湧水なのに冷たくない…」
イリスは1人呟いて祈りを捧げている。
「アナスタシアは洗礼を受ける訳では無いのよね?沐浴の間、久しぶりにお喋りでもしましょうか」
「はい。叔母様と会うのもお久しぶりなのでお邪魔じゃなければ。」
「すっかり素敵な淑女になって…」
「ありがとうございます」
中庭のテラス席に向かい合って紅茶を飲みながら話す2人。
「そろそろ神官長も代替わりしないといけないんだけれどね…てっきりアナスタシアが継いでくれると思ってたのよ?」
「すみません、叔母様…。私も母のように兄を支えながら領地経営をしたいと思いまして…」
「ベルナデッタの娘だもの。仕方ないわ。でもあなた程の水の加護持ちもなかなか居ないのよ?」
「すみません…」
「責めてる訳じゃないのよ?剣士としてもその力は貴重だもの。あなたが望む方へ進んだらいいのよ」
神官長は優しく微笑みながらアナスタシアの髪を撫でる。
「でも後任探しも大変そうですね…」
「そうなのよ…。誰でも…って訳にはいかないから…。最近結界が弱くなってきたのか魔物が抑えきれなくなっているのよ。」
「結界が弱くなったのですか?」
「最初は私の力が衰えてきたのかと思っていたのだけどね…私1人の力では維持しきれなくなっているのよ」
「その原因は分かっているのですか?」
「それがまだ分からないの…。こんな事は今まで無かったから…。ちょうどベルナデッタにも手紙を出そうと思っていたところなの。」
「結界が弱くなる要因は何があるのでしょう?」
「まずは術者の能力の低下ね。あとは外部からの阻害や干渉。これは結界自体に干渉するか、ここだったら水のマナに干渉するか…」
「マナへの干渉の方法は分かりますか?」
「水のマナのクリスタルはセレーネ湖の中にあるわ。だからセレーネ湖が邪気に侵されているとマナは弱くなってしまうの。」
「セレーネ湖の水質調査はしてみる必要はありそうですね…」
そんな話をしていると、沐浴を終えたイリスが中庭にやって来た。
「お待たせ致しました。」
「終わったのね。お疲れ様。では早速儀式を始めましょうか」
そう言うと神官長は立ち上がり、祭壇の間に案内してくれた。
祭壇の間の中央には台座の上に水晶のような物が置いてあった。
何やらそこに手を触れると洗礼が受けれるらしい。
「ではそちらの精神を落ち着かせて、その水晶に手を当ててください」
「はい…」
「女神と精霊の祝福により、汝に聖なる導きがあらん事を…」
その瞬間、水晶が虹色の眩い輝きを放った。
「…これは!!」
その光を見て神官長は驚きの声をあげる。
「???」
イリスとアナスタシアは何事かと顔を見合わせて戸惑っている。
やがて光が消えたあと、神官長から告げられる。
「叔母様、洗礼に問題でも?」
「イリスは神聖魔法を秘めた神官ね。」
「女神様の!?」
「イリス、あなたはとても強い神聖魔力を秘めています。回復魔法のみならず、研鑽を積めば神聖魔法を扱えるようになるかもしれないわ。
ただし神聖魔法は古代魔法とされていて現代に魔導書の類いは残されていないの。現在も使い手は数人…。手掛かりが見つかるまではシスターとして回復魔法を学びましょうね。」
「はい。神官長様」
「イリス様、何か変化はございますか?」
「えっと…ヒールに加えて…キュアヒールとパラヒールが使えるようになったみたいです。」
「これからレベルが上がるとヒールの上級魔法のエリアヒールをはじめ、シールド系の補助魔法なんかも覚えていくわ」
「はい!少しでも皆さんのお役に立てるように頑張ります!」
ドーーーーン!!
「何事⁈」
急いで神殿の外に出るとゼニスとマルスが青い大蛇と対峙していた。