森の狩人
ごく普通の領主の家系に生まれた魔力0の騎士ゼニス。魔力が使えない分、剣術に全振りした剣術馬鹿の普通?の騎士がひょんな事から助けた少女との運命の出逢いから様々な仲間と出逢い、世界を救うまでの幻想記。
-翌朝-
「おはようございます」
「あら。イリスさん、おはよう。早いのね!もう少しゆっくり寝てて良かったのに…」
イリスはリビングにいた母と会話を交わす。
「いえ、こんなに良くして頂いて、何もせずにいるのは落ち着かなくて…何かお手伝い出来る事はありませんか?」
「そんな事は気にしなくて良いのよ?そうね…。イリスさんは神官だったわよね?」
「はい。まだ駆け出しですが…」
「洗礼は受けた?」
「いえ、まだ…」
「16歳よね?15歳になると神官見習いは神殿で洗礼を受けるものなのだけど…。ヴェルドラだったら最寄りはセレーネ神殿になるのかしら?」
「はい。昨年は養父が体調を崩してしまって孤児院の仕事も休めなかったので…」
「なるほど…。じゃあ今回ついでに洗礼を受けたら良いわ!私の方から紹介状も出しておくわね!」
「そんな…!私なんかのために…」
「良いのよ!みんな受けるものなんだから遠慮しないで!それに洗礼は早めに終わらせておかないと。治癒魔法の幅も広がるから帰ったあとに教会の仕事にも役立つわよ。」
「ありがとうございます!これで養父の負担も軽くなれば…」
「そうね!きっと村の人も喜んでくれるわ!」
「おはようございます」
「おはようございます」
ゼニス、アナスタシア兄妹が揃って起きてくる。
「2人ともおはよう」
「おはようございます」
「母さん、アナスタシアと何を話してたの?」
「そうそう。イリスさんは洗礼がまだみたいなのよ。それでセレーネ神殿に行くついでに洗礼を受けて来たら?って話をしてたのよ。」
「それは良いね!」
「あそこは男子禁制だからあなたは中には入れないけど…アナスタシアがいれば心配ないわね。」
「はい。母様。私がイリス様を案内します」
「皆さんありがとうございます」
みんなで朝食を取ったあと、各々旅の準備を済ませる。
「セレーネ神殿の近くの村までだいたい3日くらいか…今日はその村で一晩泊まって明日の朝に神殿に向かおう」
「それが良いですわね。神殿の周囲の森には結界が張られているとはいえ、夜には魔物も活発化しますし。」
「よし!では行こう」
「3人とも気をつけて。セレーネ神の御加護がありますように…」
街を出て街道沿いに進んでいく。
田園街道を抜けて広い草原を横目に一本道を進む。
のどかでこの景色が好きなんだよな。
道中、何回か魔物との戦闘はあったものの、低級モンスターとの戦いで危険なことはなく、異常も見当たらない。
昨日の出来事は考え過ぎなのだろうか…?
「村が見えてきましたね」
「カロル村についたな」
「日が暮れる前に着けて良かったです」
村に入る直前、一筋の矢がこちらを狙って放たれた。
俺は剣でその矢を撃ち落とし矢の方向を振り返った。
「何者だ」
「読まれてたとはな…お前、強いな」
木の上から飛び降りて来た男を見てイリスが叫ぶ。
「マルス!!」
「イリス、知り合いか?」
「はい!ヴェルドラの孤児院の幼馴染のような子です!」
「お前らは何者だ」
マルスと呼ばれた少年は俺らを睨みつけて言った。
「マルス!止めて!!この方達は魔物に襲われていた所を助けてくれて神殿まで護衛して頂いてるの!」
「護衛?魔物に襲われた?どうゆう事だ?」
「ひとまず中で話しましょう。ここは村の人の迷惑にもなるわ」
気づけば村の人が集まってこちらを見ていた。
なんか申し訳ない…。
村の中にある食堂に入り、ひとまず話す事にした。
昨日の出来事と事の経緯をマルスに話す。
「すいません!!俺はてっきりイリスが悪い奴等に絡まれてると思って…」
平謝りのマルス。苦笑いのイリス。
「皆さん、私からも申し訳ありませんでした。」
「いや、もう大丈夫だ。気にするな。」
「本当にすいません…。でもマルスはなぜここに?」
「町のギルドから帰ってきたら神父様にイリスがセレーネ神殿に向かったから護衛で後から追いかけて欲しいって頼まれたんだよ」
「神父様が…」
「追いつくと思ってたんだけど、どこにも見当たらなくて…そしたらさっき村に入って行くのを見掛けて…」
「早とちりしたって事か。」
「はい…すいません」
「まぁ…誤解が解けたなら何よりですわ。今日はこの村で一泊して明日の朝に神殿に向かいます」
「マルスも一泊して明日一緒に神殿に行くか?」
「良いんですか⁈俺、失礼な事したのに…」
「それは誤解だったんだから気にするな。宿は取ってあるのか?」
「いえ…俺はどこでも寝れるんで…」
「俺と一緒で良ければベッドも一つ空いてるから使えば良いよ」
「そんな…」
「マルス、ゼニス様はとても親切な騎士様です。今日は御厚意に甘えて明日の働きで返しましょう。私もゼニス様やアナスタシア様には返し切れないくらいの御恩があります」
「私はイリス様と御一緒出来て楽しいのでそれだけで十分です。」
「ひとまず飯だな。そこから明日出発しよう!」
「すんません…」
なんかマルスって子犬みたいだな…
4人で夕食を食べながら明日の計画を立てながらヴェルドラでの事を聞いた。
イリスは母親に預けられた話は聞いたが、マルスも戦災孤児だそうだ。
イリスとは歳も同じで5歳の頃からの付き合いだそうだ。
孤児院では年長組になるらしく、狩人として冒険者パーティに助っ人で稼ぎに行ったり森の警護とかをしているらしい。
狩人になったのは森で生活してるから必然と言えば必然だったらしいが、マルスの両親は戦争では弓騎士として活躍していたらしい。
本人はその時の記憶はほとんど無いみたいだけど。
「弓が両親との唯一の繋がりだから…弓を大切にしたいんだ…」
そうマルスは笑いながら答える。
「私…何も知らないまま生きて来たのだわ…。当たり前の事が当たり前では無い事を知らなかった…。」
アナスタシアは俯きながら呟いた。
俺もアナスタシアと同じ気持ちだった。
両親がいて、家があって、何不自由無く過ごしてきた俺達は恵まれてる。
明日の生活を守る為に必死で生きてる人々の上に貴族達は裕福な生活をしている。
でもそれじゃダメなんだ…。俺は英雄になりたい訳じゃない。だけど目の前にいる人の幸せくらいは守りたい。
どんな境遇でもこんなに逞しく笑いながら生きてるイリスやマルスの笑顔は眩しく見えたし、俺はもっと広い世界を見ないといけないと思った。
「森には食べる物は困らないし住む場所もある。神父様も優しいし孤児院の奴等もいるから寂しく無いですし。な、イリス!」
「そうですね。自分達が不幸だとは思っていません。ですから下を向かないでください。私はゼニス様とイリス様と出逢えた事を感謝しています」
「イリス様…」
イリスはアナスタシアの手を握り、優しく微笑みかけていた。
「じゃあ今日はこの辺でお開きにして、明日の朝に!」
「また明日。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
俺は女性陣と別れてマルスと部屋に入る。
「ゼニスさんって無茶苦茶強いですよね?」
「どうかな?俺は自分の実力が良く分からないからな…」
「さっき矢を撃ち落とされた時、剣筋が速すぎて見えなかったっすよ!」
「そうなのか?」
「俺、森育ちだし斥候も兼ねてるんで目と耳が良いんすよ!それなのに全然見えなかった!そこいらの冒険者より全然強いと思いました!」
「冒険者か…」
「冒険者とか騎士様が出る武闘大会もあるんですよね!」
「あぁ…トラキア国で年に一回開かれるやつだな。」
「憧れますよね…」
武闘大会か…確かに興味はあるな。
いつか出てみたい…アナスタシアにまた怒られそうだけど…笑
「ゼニス様はイリスの事、どう思いますか?」
「ぶほ!!」
飲んでいた水を盛大に咽せてしまった。
「!!急になんて質問を…」
「いや、イリスって美人じゃないですか?村からほとんど出なかったし、町の人からしてもそうなのかなー?って」
「綺麗だとは思うぞ。マルスは…どう思ってるんだ?」
「俺ですか?うーん。美人だけど好きとかでは無いですね。ずっと一緒だったから家族みたいな感じですかね。」
「ずっと一緒にいたら…その…恋人として意識するようになったりするものでは無いのか?」
「少なくとも俺とイリスにはそうゆうの無いですね!俺のタイプは違うんです!」
「マルスはどうゆう娘がタイプなんだ?」
「うーん…強め女子?」
「なんだそれは笑笑」
他愛も無い会話をしながら俺らは床に着いた。