メリル鉱山の救出劇
ごく普通の領主の家系に生まれた魔力0の騎士ゼニス。魔力が使えない分、剣術に全振りした剣術馬鹿の普通?の騎士がひょんな事から助けた少女との運命の出逢いから様々な仲間と出逢い、世界を救うまでの幻想記。
「暗いな…」
メリル鉱山の中は崩落のせいか魔物の影響か明かりが破損していて暗い。
「あ、さっきガンツの爺さんからこれ貰ったんですけど…」
「ランタンの魔導具ね。燃料無しで使えるランタンよ」
「丁度良かった!使わせてもらおう!サーシャ、使い方分かるか?」
「うん。」
サーシャが魔力を流すと魔導具が光った。
「これでだいぶ歩きやすくなったな!」
「足元に気をつけて、先を急ぎましょう」
鉱山に入って30分くらいか?村の人が言ってたように魔法師団が片付けてくれたのか魔物はまだ見当たらない。
「お兄様はどこかしら?」
「マルス、気配は感じるか?」
「いえ、今の所は何も…」
崩れて足場が悪くなった坑内を進んで行く。
「みんな大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。」
「ゼニス様…空気が重くなってきました。それに…なんか焦げた臭い…?」
「魔物か?」
「なんか…大きな威圧感みたいなのを感じます。」
「みんな、気を引き締めていこう」
「この先は地図上だと広場になっていますね」
「お兄様…どうかご無事で…」
ドーーーーン
その時、奥から大きな爆発音が聞こえてきた。
「なんだ⁈」
「急ごう!!」
俺達は奥へと走り出す。
広場に出ると、頭が3つある大きな黒い狼の魔物がいた。
「ケルベロス…」
辺りには調査隊と思われる魔導士達が倒れている。
「生きてる者はいるか⁈」
「逃げろ…」
岩場の影から声が聞こえる。
「アーサーお兄様!!」
サーシャが駆け寄る。
「サーシャ⁈なぜ…お前がここに…」
「兄様!酷い怪我…」
アーサーと呼ばれた男は全身に傷を負っていて、特に脇腹の辺りの損傷が酷い…
「サーシャ…逃げろ…」
「嫌です!!」
「アーサー殿下、治療致します。」
イリスがヒールを唱える。腹の傷は塞がり、大きな傷は綺麗になっていく。
「イリスのヒールはすごいな…」
「助かった。礼を言う。」
「傷は塞がりましたが、内臓機能までは治せません。安静にしていてください。」
「かたじけない。君達は?」
「兄様、この方達は私の友人でオルフェリアの騎士達です。」
「頼もしいな。」
「殿下、状況を教えてください」
「あぁ。私以外の先鋒隊は全滅だ。一度撤退して体制を建て直そうとしたが、この通り傷を負って逃げ場を失ってしまったのだ。」
「全滅…」
「そしてあの魔物は十中八九、ケルベロスで間違い無いだろう。火属性魔法がほとんど効かない。火属性魔法を得意とする我々アルテナの魔導士とは相性が悪い。中級程度の水属性魔法では傷一つ付けられなかった。それにワイルドファングを統率していてあれもタチが悪い。」
余裕なのかケルベロスはこちらにまだ攻撃は仕掛けて来ない。
ケルベロスは自身の周りにワイルドファングの群れを従えている。
「君達だけでも逃げるんだ。時間くらいは稼げるだろう。」
「嫌です!お兄様も一緒に行きましょう!」
「無理だ…先鋒隊も誰も逃げられなかったんだ。」
「俺達が時間を稼ぎます。我々はアデル殿下からアーサー殿下救出を命じられて来ました。」
「無謀だ。私の事は良い。兄上にこの事を知らせてくれ。」
「殿下、諦めるのは早いです。我々はオルフェリアの騎士です。私が突破口を開きます。」
「…すまない。君の名は?」
「ゼニスと申します。」
「ゼニス…頼む。」
「みんな!俺が攻撃を引き受ける。専守防衛!向かってくるワイルドファングは各個撃破!アーサー殿下を中心にイリス、サーシャで後方支援を頼む。」
「「了解」」
「行くぞ!」
俺は勢い良く飛び出す。
「リフレクション」
イリスが全員に身体強化魔法を使う。
俺らが動き出したと同時にケルベロスが雄叫びを発するとワイルドファングの群れが一斉に襲い掛かってくる。
「いっちょ新技行くぜ!ミリオンダラー!!」
マルスは空に向かって矢を放つと宙で光を放った矢が幾千の矢となって降り注ぐ。
数多の矢を受けたワイルドファングの群れは半数以上が絶命もしくは地面に縫い付けられ、矢を逃れた個体がこちらに向かってくる。
「ファイアーボール!」
更にサーシャが追い討ちをかける。
なんとサーシャは器用にファイアーボールの軌道を曲げてみせた。
「サーシャ!いつの間にそんな!」
「この間のマルスの技を見てイメージしてみたの!」
見様見真似で出来る芸当じゃない。
やはりサーシャもフリージア家の『天才』なんだな。
「私も負けてられませんね。氷葬剣プレリュード」
負けじとアナスタシアと俺は斬り伏せていく。
あっという間にワイルドファングを制圧していくとケルベロスは雄叫びをあげ炎のブレスを吐いてきた。
「あのブレスは避けろ!」
アーサー殿下が声を上げる。
俺は咄嗟にミズガルドの盾を構える。
さすが水の神獣の鱗。炎のブレスもしっかり防げている。
「なんだ…あの盾は…」
アーサー殿下も驚きの威力。
しかしブレスの着弾した場所は溶けて跡形も無くなっている。あんなもの食らったらひとたまりもない。
3つの頭が交互に休みなく吐き続けるため、なかなか近付けない。
「イーグルワインダー!」
マルスの放つ矢で頭を狙うもブレスでかき消されてしまう。
「ヘルファイアー!」
サーシャの魔法も消される。
「サーシャ、炎魔法はかき消される。俺の魔法でも届かなかったんだ。」
「あのブレス、厄介だな…」
「近づく事が出来なければ有効な攻撃の手段が無い」
「せめて一つでも頭を潰せれば…」
「私が…何か…何か出来る事が…」
イリスはもどかしい気持ちで唇を噛む。
その時、ベルナデッタからもらった杖の宝玉が淡く光った。
「これなら…」
意を決してイリスは呪文を唱える。
「ウォータープルーフ」
俺らの体を水の膜で覆われる。
「出来ました!」
「これは⁈」
「マジックガードに水の加護を乗せてみました!これでブレスの軽減になるはずです!」
「よし!」
俺は意を決して前に出る。盾でブレスを避けつつケルベロスへ近づいて行く。
うん。直撃しない限り大丈夫そうだ。
「聖水剣コールドブリンガー!」
ケルベロスの右側の頭を切り落とす事に成功した!
俺に奴のヘイトが向いて俺に照準を絞って突進してくる。
その間にアナスタシアが回り込み、逆の左側の頭を落としに行く。
「氷葬剣 セレナーデ」
アナスタシアは無数の氷の花を咲かせ、氷の連撃を浴びせる。
これで残るは頭1つ。
グォーーーー!!
ケルベロスはブレスを吐きながらところ暴れ回る。
「やばい!このままだと崩れるぞ!」
手当たり次第の攻撃にうかつに近付けない。
俺はケルベロスのブレスを掻い潜り、最後の頭に切り掛かる。
「コールド…」
その時、ケルベロスの尾に攻撃されて弾き飛ばされた。
「ぐわ…」
「ゼニス様!!」
イリスが駆け寄って来る。
「く…毒をもらった…」
ケルベロスの尾は蛇になっていて噛まれたら猛毒を受けると言われている。
「キュアヒール!」
身体から毒が抜けていく。
「すまない…油断した…」
「大丈夫ですか⁈」
「あぁ。大丈夫だ!」
「このままだとここも崩れてしまう!」
「マルス様、あの尻尾、狙えますか?」
「あのブレスさえ止められれば!」
「私が囮になります。」
「ダメだ!それは危険過ぎる!」
「頭の方の意識を逸らすだけなら!」
「俺が行く!奴のヘイトは俺に向いているから」
「今の兄様こそ自殺行為です!」
「大丈夫だ」
「私がやるわ!!」
「サーシャ⁈お前の魔法は効かないだろ?」
「私だってみんなの力になりたい!私を信じて!!」
「サーシャ、あなたに任せる。私も援護します!」
アナスタシアとサーシャは目を合わせて頷いた。
「お兄様…ヘリオス神よ…私に力を貸して!」
そう呟いてサーシャは詠唱を始める。
「イグニートランス!!」
巨大な炎の槍がケルベロスの頭に向かっていく。
サーシャの魔法はケルベロスのブレスを貫通して直撃した!
「コンチェルト」
その直後、アナスタシアが地面に向けて剣を突き刺した。
遅れてケルベロスの足元から3本の氷柱が突き出し、ケルベロスの足を凍りつかせる。
「マルス様!」
「任せろ!イーグルワインダー!」
追尾効果のある技でケルベロスの尾にマルスの矢が向かっていき、命中する。
「よし!」
俺は駆け出し、ケルベロスの体を蹴って跳び上がった。
くそ…力が入らない…。俺が決めなければいけないのに!
『汝、我を求めよ…力を…与えよう…』
また頭の中に声が聞こえる。
『我はヘリオス…アルテナの守護者なり…』
また意識が白い世界へ連れていかれる。
頼む…一太刀でいい!奴に届く刃を…みんなを守れる力が欲しい!!
『この地を…民を守れ…我が剣の名は…』
男の声が遠くなり、意識が戻されていく。
「聖焔剣ブリューナク!!」
聖なる炎を纏った剣を最後の首に叩き込む。
全ての頭を落とし、ケルベロスを倒す事に成功した。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
俺の体力も限界に来ている。
「兄様…また新たな力が…?」
「そうみたいだな…」
「でもアナスタシアも新しい氷葬剣だったよな?」
「はい。新しい剣の力なのか、鎧に導かれたのか…」
「サーシャもなんかすごい魔法だったな!」
「ファイアーボールがまともに撃てなかった魔導士とは思えないな!」
「ちょっと!そこは素直に褒めなさいよ!」
「サーシャ、成長したな。」
「アーサーお兄様…」
「オルフェリアの皆さん。力を貸してくれた事、感謝致します。」
「ご無事で何よりです。」
「ひとまずアルテナに戻ろう。気になる事もある」
「はい。ここも長居は危険かと思います。」
俺らはメリル鉱山を急ぎ後にした。
ドワーフの村に着き、ドワーフの族長にアーサーが事件の解決とケルベロスの回収、魔法師団の遺体の回収を頼んでいる。
「魔法師団の救出は出来なかったが、怪しい物を見つけたんだ。」
アーサー殿下は鞄から例の魔石を取り出して見せる。
「やはりこの魔石の影響なのか…?」
「ゼニスはこれを知っているのか?」
「はい。今回と似た事が先日オルフェリアでもありました。今回我々がアルテナに来た目的は、この魔石の分析を依頼しに来たのです。」
「そうか。やはり急ぎアルテナに戻り、兄上に報告をしよう。」
俺達は再び魔導船に乗り込む。
「おーい!坊主達!」
「ガンツさん!」
鍛冶屋のガンツが追いかけてきた。
「ガンツ殿、ご無沙汰しております。」
アーサー殿下が会釈する。
「お兄様、この方とお知り合いだったのですか?」
「ガンツ殿は代々、王室御用達の鍛治師だぞ」
「え!ガンツさんってそんな凄い人だったのか⁉︎」
「そんなのは片手間じゃよ!」
「王室御用達が片手間…」
「これをグレタに渡してやってくれないか?」
ガンツさんの持ってきた袋にはコーヒー豆がぎっしり入っていた。
「確かに受け取ったよ!グレタさんも喜ぶな!」
「なんでもお主達、魔獣ケルベロスをやっつけたんだってな?」
「はい。なんとか…笑」
「たいした腕だな。お主達なら儂の最高傑作が生み出せるかもしれん。」
「ガンツさんの最高傑作?」
「おーよ!鍛治師たる者、この世に二つとない作品を作る事こそ永遠の夢じゃ!」
「それは見てみたいな。」
「落ち着いたら儂を訪ねに来い!絶対に後悔しないものを作ってやるぞ!」
「ありがとう!それまで元気でいてくれよ?」
「あたりめーよ!ドワーフは人間よりも長生きだからの!」
「グレタさんにお手紙書くの忘れないでくださいね!」
「おぅ!本当ありがとな…」
「ガンツさん、お元気で…。」
「それとそこの兄ちゃん。」
俺はガンツさんに呼び止められる。
「兄ちゃんは剣に愛されているな。ただ力に飲み込まれるなよ。仲間の為に力を使う事を忘れたらいかんぞ。」
「はい。肝に銘じます!」
「お前さんなら大丈夫だ!」
「ありがとうございます!」
こうして俺達はアルテナ王国への帰路についた。




