自滅への近道sheet6:動機
後日。
マクロを渡してから半月ほど経った頃、川口と二人の大塚が再来店した。
今回も事前にLINE告知があったため、育美と薔薇筆は店に居た。
「単刀直入に言いますと、犯人は特定出来ました。あのマクロのおかげです。ご協力ありがとうございました」
大塚先生は謝意を述べた。
「結局エルさんのマクロを使ったんですね?」
薔薇筆が尋ねる。
「ええ、私もエルさんのお気持ちに共感するところは少なからずありましたので。正直ちゃんと動作するか不安で架空の学生を登録して何度もテストしましたよw」
大塚先生はちょっと照れ臭そうに苦笑した。
「で、犯人はやっぱりクビ?」
アキラが梅サワーを置きながら尋ねる。
「えぇ、彼も私同様非常勤の講師でしたが解雇されました。表向きは一身上の都合により自主退職となってますが」
大塚先生はオフレコでお願いしますと念を押した。
「下駄を履かせてもらってた学生さんの方は?」
もう一人の(従兄弟の)大塚が尋ねる。ここに来るまで彼も川口も事前に何も聞かされていなかった様だ。
「彼女は改竄の事は何も知らなかったようで、お咎めなしだね。もちろん評価は改竄前のものになるけど」
「やっぱり学生さんは女性だったんだな。犯人の講師は男だし…」
「グッさん、またゲスいこと考えてんだろ。あーでも俺も知りたいw」
アキラは"一つ借りな"と言わんばかりに川口から言葉を引き継いだ。
「先生、やっぱり二人が恋仲だったって事でファイルアンサー?」
「残念ながらお二人のご期待に沿ったアンサーは出来ませんね。彼が学生の彼女に特別な感情を抱いていた事は認めてます。ただ改竄の件も含め彼女には何も伝えていないと言っていました」
大塚先生もこの口述には懐疑的だそうだが、学校側はそれ以上の追及をしなかった。
彼女からもハラスメント等、一切無かったと聞かされているのでこれ以上大事にしたくないのだろう。
「何だか煮え切らねぇオチだなぁ」
川口は不服そうに言うとハイボールを煽った。
「あぁ、そう言えば…」
大塚先生が皆んなを見渡す様に頭を巡らせた後、エルに向かってこう言った。
「犯人の彼に特定した方法を教えたのですが、案の定というか自分のマクロに付け足せばもっと簡単に出来ただろうと言って来ました。
ですから先日アキラさんが仰ってた話をしました。彼はそれにしても非効率だとか言ってました。だからこう言い返してやったんです」
大塚先生は息を整えるため残ってた梅サワーを飲み干してこう続けた。
「あなたの様にルールを逸脱して私欲を満たそうとする人間には理解出来ないかも知れませんね…とね。それ以降、彼は終始無言でした」
「エルの勝ちだな」
アキラはそういうと、彼女の頭を撫でた。
「うん…」
エルは恥ずかしそうに頷いた。